↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
絆値、測定不能。〜親友4人でまとめて異世界転生〜  作者: ある


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/172

第32話 増築費、想定の三倍

「で、見積もりだがな」


ブロム棟梁が、円卓に羊皮紙を広げた。我が家の広間は、本日、工事の商談の場である。


「まず修繕。屋根の大穴と壁、窓三枚。これで金貨1枚と銀貨5枚」


「想定通りね。お願いします」


「で、追加のご注文の“風呂”だがよ」


棟梁は、太い指で、見積もりの二行目を叩いた。


「浴室の増築、湯沸かしの魔道具、水の引き込み、排水。しめて、金貨3枚だ」


「「「「さんまい!?」」」」


「家より高い!!風呂が家より高い!!」


「当たり前よ。言ったろ、風呂は貴族様の設備だって。湯をいつでも沸かせるってのは、そういう贅沢なんだよ」


俺たちは、円卓の隅で緊急の財政会議を開いた。


「現在の残高。氾濫の時の手持ちは、発射の“お会計”の精算と祝勝の宴と弾薬の補充で、ほぼ消えたわ。残りの銀貨1枚と銅貨は生活費に取っておく。工事の元手は特別報酬の金貨5枚。家の代金1枚半を引いて、残り3枚半。……修繕で1枚半消えて、残り2枚」


「風呂は3枚。……1枚、足りない」


「詰んだのでは??」


「待ちなさい。交渉の余地はあるはずよ。棟梁。仕様を落とすとしたら、どこが削れます?」


「ん?そうさな……湯沸かしを一番安い魔道具にして、浴槽を既製の樽にすりゃ、2枚半までは下がる。それ以上は無理だ。手抜き工事は、わしの髭が許さん」


「2枚半。……あと銀貨5枚、か」


その時、円卓の反対側から、声がした。


「銀貨5枚なら、僕が出す」


全員が、振り向いた。ヴィクが、財布らしき小袋を手に、つんとそっぽを向いていた。


「か、勘違いするな。恵んでやるんじゃない。……この家に住む以上、僕も、その、風呂には入る。対価は払う。貸し借りは作らない主義だと言っただろ」


「ヴィク、お前……!」


「それに、壺湯は狭かった」


「切実な本音が出たわね」


「……時に我が眷属よ。その銀貨、出どころは」


「眷属じゃない。……路銀だ。旅の間に、その、依頼とか、拾得物とかで……せ、詮索するな!!真っ当な金だ!!」


「はいはい。ありがたく」


かくして、風呂の予算は成立した。出資比率に応じて「ヴィクの入浴優先権(週二回、一番湯)」が経理により制定され、監視者は満足げに頷いた。


「よっしゃ、商談成立!じゃ、細けえ仕様を決めるぞ。まず浴室の広さだが」


そこからが、長かった。


「棟梁。湯船は“漆黒”にできるか。黒曜石か、せめて黒塗りの」


「できるが、金貨2枚増しだ」


「却下よ」


「即答!?待て、風呂とは魂を清める儀式の場!ならば器にもこだわりが」


「樽です。樽で清めなさい」


続いて、棟梁が図面をなぞりながら、事務的に聞いた。


「脱衣所と浴室の壁だがよ、厚さはどうする?普通か、厚めか」


「…………」


隼人が、一瞬だけ、黙った。ほんの一瞬である。だが、十年の付き合いは、その一瞬を聞き逃さない。


「……別に、普通でいいんじゃね」


棒読みだった。


「棟梁。一番厚いのでお願いします」


沙耶が、即答した。


「あん?構わんが、理由は」


「察してください」


「ガッハッハ!了解だ!」


「おい待て、何をだ!!俺は普通でいいって言っただろ!!」


「その“普通でいい”の声が、いつもより半音高かったのよ」


「観測精度が怖えんだよ!!」


「防音、採用。議事録の理由欄は“隼人対策(なお本人は何も言っていない)”で」


「何も言ってないのに書かれる方がひでえ!!」


ひなたの要望は、明快だった。


「おふろのあと、つめたいぎゅうにゅう」


「風呂の仕様じゃないのよ、それは」


「でも分かるぞ、ひなた。風呂上がりの一杯は文明だ。棟梁、台所の冷蔵の魔道具は」


「金貨2枚」


「文明が高い!!」


——商談がまとまり、工事は五日後からと決まった。棟梁を見送った後、沙耶が帳面を締めた。


「はい、財政報告。工事費を前払いして、私たちの残高は、金貨0枚、銀貨1枚、あとは銅貨連中」


「英雄の全財産が、銀貨1枚」


「ちなみに計算したんだけど。湯屋は一人銅貨3枚、五人で15枚。毎日通えば月に銅貨450枚、つまり銀貨4枚半。家風呂の工事費(金貨2枚半)も、半年で元が取れるわ」


「聞いたか、お前ら。風呂は“投資”だ」


「その理屈、散財する時のあんたの常套句なのよね。今回は正しいけど」


「氾濫を止めた報酬が、ひと月で家と風呂に消えたわけね。……まあ、悔いはないけど」


「つまり、あれだな」


隼人が、にやりと笑った。


「——また、働かないとな」


「その台詞をお前が楽しそうに言う日が来るとはな」


「働くのは嫌いだけど、金がないのはもっと嫌いなんだよ」


——翌日から、俺たちは久々にギルドの掲示板の前に立った。


「おかえりなさい、皆さん。英雄様の凱旋以来ですね」


リタさんが、にこにこと迎えてくれた。


「その“英雄様”、やめてもらえます?背中がかゆいので」


「あら、街の子供たちは呼んでますよ。“くちじょうずのざこ”って」


「そっちはそっちで複雑なんだよなあ!!」


「依頼、選び放題ですよ。氾濫の後始末系がまだ残ってますし、指名も来てます。ちなみに皆さん、今の残高は」


「銀貨1枚です」


「英雄って、儲からないんですねえ……」


リタさんが、心底不思議そうな顔をした。儲かってはいたのだ。使ったのだ、全部。


「あ、そうだ。台帳の更新もお願いします。皆さんの登録住所、宿から新居に変わるので。ご住所は?」


「西区画の、元・半壊の家です」


「はい、西区画の……正式な通り名で言うと、“くちじょうずのざこ通り”ですね」


「「「「は?」」」」


「あら、ご存知なかったですか?子供たちが呼び始めて、屋台のおやじさんたちに広まって……今や西区画の皆さん、普通に使ってますよ。ほら、正式な地名のない路地って、通称で呼ばれるものですから」


「私たちの住所が、公式に、恥ずかしい!!」


「台帳には通称も記載されます。永久に」


「またか!!また永久記載か!!」


掲示板を物色していると、背後から、聞き覚えのある折り目正しい声がした。


「圭吾さん!お久しぶりです!」


シリルさんだった。《暁の誓約》の面々が、遠征帰りらしい装備で揃っている。


「氾濫の武勇伝、王都街道まで届いていますよ。最下層の主を、四人で……!さすがです」


「いやあ、あれは、その、勢いというか」


「謙遜まで格好いい……!あ、そうだ。新居を構えられたとか。実は僕たち、お祝いを選んでいまして。ご入用の物はありますか?」


「「「「風呂桶」」」」


「せ、生活感……!」


食い気味の四重唱に、シリルさんは面食らい、それから生真面目に手帳へ「風呂桶」と書き付けた。後日、本当に最高級の風呂桶が届くことになる。正しい男は、贈り物まで正しい。


——そして、その日の午後。掲示板の前で、事件は起きた。


「なあ、見ろよ。指名依頼だって」


隼人が剥がしてきた依頼票には、こうあった。


『西区画の下水路にて、スライムの大量発生。清掃と駆除を依頼する。指名: 《腐れ縁》。理由: 氾濫後の点検で最も信頼できるため。危険度、低』


「「「「危険度・低」」」」


「……なあ。この文字列、俺たちにとっては死亡フラグなんだが」


「前科二犯だものね。モーラ森林とコルン村」


「でも報酬は悪くないわよ。下水路なら移動もないし……受けましょ。風呂のためよ」


「風呂のため」


「「「「風呂のため!!」」」」


合言葉が決まった瞬間、背後で小さく息を吸う音がした。


振り向くと、ヴィクが立っていた。買い出し帰りの荷物を抱えたまま、じっ、と依頼票を見ている。


「……下水路。地下、か」


「ん?ああ。……なんだ、ついて来たいのか?」


「べっ、別に!?ただ、その……お前たちが、あの“出鱈目な絆”とやらをどう使うのか、監視者として、確認する義務が——」


「はいはい。じゃ、明日の朝、遅れるなよ」


「〜〜〜っ、命令するな!……朝、何時だ」


素直なのか意地っ張りなのか、判定に困る監視者である。


明日は、五人で(四人+一名は監視)、下水路。風呂への道は、スライムの海の向こうにある。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。