↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
絆値、測定不能。〜親友4人でまとめて異世界転生〜  作者: ある


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/172

第28話 弱点、また見当たらず

転移罠の分断から合流を果たした俺たちは、改めて隊列を組み直した。


先頭、隼人。しんがり、ひなた。真ん中に俺と沙耶。俺の頭の中には逃げ回りながら組み上げた四層の地図があり、行く手の気配は加護が視る。道案内は、任せてもらおう。


「ひなた、弾の点呼」


「ん。ぜんぶ集めた。ざんだん、さん」


「三発か。……大事に使うぞ。撃っていいのは、俺か沙耶が“今だ”と言った時だけだ」


「ん。……たべるのは?」


「非常食にするな。あれは弾薬だ」


「はんぶん、ひじょうしょく」


「弾が減る未来しか見えないのよ、その配分」


「で、参謀。最下層への道は」


「……それが、だ」


四層から下への階段は、地図のどこにもなかった。崩れたか、隠されたか。行き止まりの度に引き返す時間は、ない。


「ひなた。“逆”の出番だ」


「ぎゃく?」


「お前の加護は“一番おいしいもの”の方角が分かる。なら、一番“まずそうなもの”は、分かるか」


ひなたは、きょとんとして、それから、すん、と加護を利かせた。


小さな眉間に、みるみる皺が寄っていく。


「…………わかる。やだ。すっごく、“まずそうなの”が、した。ずっと、した」


「それが主だ。……道案内は、まずい方へ」


「……なるほど、理屈は通ってるわ。ひなたの加護は、世界の魔素を“食べる”加護。なら、腐った魔素の匂いにだけは、誰より敏感なはずよ。淀みは、あの子にとって“腐った飯”なの」


「加護の使い方としては完全に間違ってるのよね、それでも」


「俺たちの探知は餌付けと拒否反応で出来てるからな」


まずそうな方、まずそうな方へと降りていくと、崩れた壁の裏に、隠れた螺旋階段があった。ひなたは階段を覗き込んで、この世の終わりの顔をした。


「……ここ、くさい。まずいにおいの、かたまり」


「感想が生々しいんだよ」


——最下層は、空洞だった。


天井の見えない、巨大な縦穴の底。壁は黒く濡れて、床には淀みが霧のように渦を巻いている。そして、空洞の中心の、遥か頭上、縦穴のはるか先に、針の穴ほどの小さな光が見えた。地上だ。この縦穴が、魔素の噴出孔、つまり迷宮の“煙突”だったらしい。


「……いたぞ」


空洞の奥に、それは、いた。


山だと思った。違う。甲羅だった。岩を積み上げたような巨大な甲羅の主。おそらくは、この迷宮を千年守ってきた、亀に似た何かだ。


ただし、その全身は、黒いもやに覆われていた。淀みが、生き物の形に絡みついて、蠢いている。


主が、緩慢に、こちらを向いた。


眼窩に、光はなかった。


「視る」


俺は、正面から、全力で視た。加護が、走る。


健康状態: “該当なし”。


機嫌: “最悪”。


弱点: 見当たらず。


「……おい。ボアの主の時と、まったく同じ文言が出たぞ。健康状態だけ“該当なし”だ」


「該当なし、って」


「生き物じゃない、ってことだろ。……ヴィクの言った通りだ。あれはもう、死んでる。死んでるのに、動いてる」


「「「「…………」」」」


ご、と主が、一歩を踏んだ。空洞全体が揺れ、天井から砂が降る。


「作戦会議!早口で!」


「言うまでもない!隼人、調子は!」


隼人は、剣を抜いた。その顔が、見たこともないくらい、輝いていた。


「更新した。今、“人生で一番”だ」


「俺たちの危険度計が、過去最高値を叩き出したぞ!!つまり今日は人生最悪の日だ!!」


「行くぜェェ!!」


開戦した。


隼人が、跳んだ。過去最高の加護を乗せた斬撃が、甲羅の継ぎ目に、深々と入る——


入った傷口を、黒いもやが、ずるりと埋めた。


「は?」


「傷が、塞がった!?」


「違う!!視えたぞ!!“塞いだ”んだ、淀みが!!あれは鎧だ!!本体の傷を、もやが埋め続けてる!!」


「つまり!?」


「削っても、無駄だ!!」


主の前脚が、薙いだ。岩の柱みたいな一撃が、床を割りながら走ってくる。


「「「「散れェェ!!」」」」


四人が四方に跳んだ。破片が背中を叩く。巻き込まれ確定、問答無用の“非常時”である。ならば、やることはひとつだ。


「沙耶ァ!!開戦だ!!口を回せ!!」


「言われなくても!!ちょっと、あんたの誘導で通った道、行き止まりだったじゃないの!!参謀の名が泣くわよ!!」


「あれは地図に嘘があった!!俺は悪くない!!右だ右!!尻尾が来る!!」


「どっちの右よォォ!!」


「お前から見て右だ!!学習したんだ俺は!!」


罵倒が回る。バフが乗る。四人の足が、羽根になる。


主の猛攻を、俺たちは走って、転がって、罵り合ってやり過ごした。


「ならば、これはどうだ!!往け、我が眷属≪従属せし黒≫よ!!巨影の足元を舐めろ!!」


主の影が、ぴくり、と動いた。


主は、足元を見なかった。眼窩に光のない者に、こけおどしは通じない。


「効かん!!俺の心理戦が効かん!!」


「相手は目が見えてないのよ!!影芸の客層じゃないの!!」


「観客を選ぶ芸なんだよ、あんたのは!!」


「ん。まずそうなの、おこってる」


「知ってる!!さっきからずっとだ!!」


だが、決定打が、ない。


「黒パン!!」


「ん。ざんだん、に!」


ゴッ!!と、眼窩に直撃。主が、初めてわずかに怯んだ。効いてはいる。効いてはいるが、もやがすぐに埋める。


「ひなたの“一発”があれば……!」


「無い物ねだりはやめなさい!!弾は昨日の本波で使ったの!!それに」


沙耶が、走りながら天井を指した。


「撃ったらこの空洞ごと崩れるわよ!!議事録の太字、忘れたの!?“大砲は屋外専用”!!」


「ここが屋外なら良かったんだがなァ!!」


戦況は、膠着した。向こうは削れない。こちらは、当たれば死ぬ。だが罵倒バフの続く限り、当たりもしない。地獄の鬼ごっこである。


「そういえば沙耶ァ!!走りながらで悪いが、俺たちの家計は今どうなってる!!」


「なんで今聞くのよ!!銀貨13枚と銅貨10枚!!昨日の発射でひなたの食費が特別報酬の前借りに乗ったから、実質もっと下!!」


「つまり!!」


「生きて帰って稼ぐしかないのよ!!死ぬのは赤字!!」


「経理の激励が世知辛い!!だが効く!!」


実際、効いていた。罵倒と実況と家計簿。俺たちの絆スキルの燃料は、今日も生活感に満ちている。


「はっ、はっ……なあ!これ、どっちが先にへばるかの勝負になってないか!?」


「向こうは死んでるから、へばらないのよ!!」


「最悪の耐久戦だな!?」


——その時だった。


主が、大きく身を反らした。胸の甲羅が軋み、喉の奥に、赤黒い光が溜まっていく。


「来るぞ!何かでかいの、来る!!」


「総員、物陰ェェ!!」


主が——咆えた。


腹の底を殴る、あの咆哮。地上まで届いていた、あの音。至近で浴びると、音というより衝撃だった。岩陰にへばりつく俺たちの頭上を、赤黒い魔素の奔流が薙いでいく。


そして。


その瞬間、俺の眼は、視た。


咆哮のために大きく開いた、主の口。その奥の奥。黒いもやの渦の、中心。


小さな、結び目みたいな“芯”が、あった。


淀みの黒とは違う。もっと嫌な、粘つく色をした、小さな塊。もやの全部が、あそこから糸を引いて広がっている。


「視えた」


咆哮が止む。俺は、岩陰から叫んだ。


「あいつの“中心”だ!!口の奥に、芯がある!!もやの糸が、全部あそこから出てる!!」


「口の奥って……咆える時しか、開かないじゃないの!!」


「ああ!!しかも次にいつ咆えるかは」


「分からない、と」


「「「「…………」」」」


主が、体勢を立て直して、再びこちらを向く。眼窩の虚が、俺たちを捉える。


打つ手は、視えた。届く手が、ない。


「……なあ、圭吾」


岩陰で、隼人が、にやりと笑った。こういう時に笑うのが、こいつである。


「咆えさせりゃ、いいんだろ?なら簡単じゃん」


「簡単?どうやって」


「決まってんだろ」


隼人は、親指で、俺たち全員を指した。


「——世界で一番、口の悪い連中に、任せろって」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。