↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
絆値、測定不能。〜親友4人でまとめて異世界転生〜  作者: ある


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/172

第21話 お手本と地獄の混成部隊

翌朝。フォルテ迷宮の入り口に、調査隊が集結した。


隊長はヘクトルさん。主力は、Cランクの《暁の誓約》と、Dランクの俺たち《腐れ縁》。他に地元のパーティが二組。任務は、立ち入り制限中の三層に入り、魔素の噴出源に関する手掛かりを持ち帰ること。


「よろしくお願いします、圭吾さん!また一緒に戦えるなんて」


「ふっ……光の御子よ、再会を寿ごう。汝の白刃と我が漆黒、二つの理が交わる時——迷宮の闇は道を開ける」


「!なんだか格好いい挨拶ですね!僕も覚えます!」


「やめてくださいシリルさん、感染るので」


「シリルさん。相変わらず爽やかですね、こんな朝から——って言いたいのよ、彼は」


「通訳が板についてきたな、沙耶」


「誰のせいよ」


「言っておくが、貴様ら」


ヘクトルさんが、狼の耳をぴんと立てて振り返った。


「今日は“調査”だ。昨日のような騒ぎは起こすな。特に——静かに、だ。いいな、静かに」


「「「「はい」」」」


「その返事が一番信用ならん」


「教官、私たちのこと分かってきましたね」


「分かりたくなかったがな!!」


出発前の点呼で、地元の二パーティとも初顔合わせになった。斧使いの兄弟パーティ《岩割り》と、弓の三人組《渡り鴉》。どちらもフォルテ生え抜きの、手堅い中堅である。


「あんたらが“例の”か。……道中、よろしくな。あんまり驚かせんでくれよ」


「善処します」


「善処かあ」


信用は、まだない。まあ、これから稼げばいい。


——三層は、一層二層とは空気が違った。


通路は広く、天井は高く、そして魔素が濃い。俺の加護は、もう数値を読むのをやめて「濃い」としか言わなくなっていた。湧く魔物も、コボルトからオークに格上げである。


そして、判明したことがある。


《暁の誓約》と《腐れ縁》は——絶望的に、連携が噛み合わなかった。


「隊列を組んで!型の三番で受けます!」


「よし全員散れ!!逃げながら罵れ!!」


「「「「どっち!?」」」」


シリルさんの美しい指示と、俺たちの汚い戦術が、正面衝突した。型を組もうとする暁の隊列の間を、逃げ回る俺と沙耶が横切り、罵倒が飛び交い、ミアさんの詠唱が「うるさくて」途切れる。


「す、すみません!集中が!」


「そっちこそ整列が邪魔で逃げ道がないのよ!!」


「待て待て待て!止まれ全員!!」


ヘクトルさんの怒号で、いったん全軍停止。オークの群れを前に、緊急会議である。


「貴様らの流儀は、混ぜるな危険だ。……分ける。役割を、完全に分ける」


ヘクトルさんの采配は、シンプルだった。


《暁の誓約》は“壁”。正面を型で受け止める。


《腐れ縁》は“風”。壁の外側を走り回って自分たちに罵倒バフを回し、こぼれた敵を黒パンと強化された隼人で始末する。


「壁と、風……いや、待ってください隊長。それでは芸がない」


「なんだと」


「どうせなら——“光と、闇”と呼びましょう。正しき光の壁と、混沌の闇の風。二つが揃う時、迷宮は落ちる」


「呼ばん」


「即答!?」


「壁と、風……」


「つまり、正しい絆が守って、汚い絆が引っ掻き回す、と」


「ふっ……悪くない。名付けて“漆黒の——”」


「「作戦名はいらない(です)」」


沙耶とシリルさんの声が、初めて完璧に揃った。


最初の実戦は、三層の大広間だった。オークが八、通路の奥から雪崩れてくる。


「壁、構えェ!!」


暁の四人が、盾を軸にぴたりと組み上がる。オークの突進が、鋼の壁に受け止められて軋んだ。


「今よ、走るわよ変態!!」


「言われずとも!ほら壁の皆さん、脇腹ががら空きだ、しっかり頼む!!」


「「「うるさいのに、なぜか調子が出る!?」」」


壁の外周を、俺と沙耶が罵り合いながら旋回する。バフの光は、契約した俺たち四人にしか乗らない——が、強化された隼人の剣は倍速になり、黒パンがオークの眉間で鈍い音を立て、こぼれた敵は壁に届く前に消えていく。


「なんて汚い……なんて汚い連携だ……素晴らしい!!」


「シリルさん、褒め方それでいいんですか!?」


二戦目の広間では、俺の闇魔法も火を噴いた。正確には、噴いていない。


「往け!我が眷属——≪従属せし黒≫よ、敵の足元を舐めろ!!」


オークの影が、ぴくり、と動いた。オークが、なんとなく足元を見た。その一瞬の隙に、隼人の剣が入った。


「見たか!!今のは俺の勝機だ!!」


「今の、影が動いただけよね?」


「敵の意識を一瞬奪った!戦術的勝利だ!!」


「まあ、実際隙はできてたけどさあ……納得いかねえなあ……」


零点の出力にも、使い道はあるのである。主に、心理戦という名のこけおどしだが。


——結論。壁と風は、驚くほど機能した。


暁の型がオークを受け止め、俺たちの罵倒が俺たち四人を強化し、隙間から隼人が刈り取る。三層の広間ふたつを、無傷で制圧した。


「すごい……すごいですよ皆さん!なんだか、いつもより体が動く気がします!皆さんの“声”のおかげでしょうか!」


「ミアさん。それ、罵倒ですよ。私たちの」


「罵……いえ、その、元気なお声が!」


ミアさんが必死に言い換えた。善人は今日も善人だった。


そして——収穫は、戦果だけではなかった。


「沙耶。例のやつを頼む」


「はいはい。……“そよ風”の出番ね」


三層最奥の下り階段。その前で、沙耶が詠唱した。教本通りの、完璧な詠唱。出てくるのは、いつもの、微風にも満たないそよ風——


だが、それでいい。


「風が……流されてる。ほら、見て。私のそよ風が、階段から噴き上がる魔素に“押し返されてる”」


そよ風は、弱い。弱いからこそ、魔素のわずかな流れで、目に見えて曲がる。沙耶のそよ風は、この迷宮で唯一の“魔素の風見鶏”だった。


俺は、階段の下り口を覗き込んだ。


「計測魔道具は濃度で壊れたのに、そよ風は壊れないのか」


「弱すぎて計器より正確って、褒められてるのかしら、これ」


「褒めてます!すごい発想です沙耶さん!」


「ミアさんに褒められると調子が狂うのよ!!」


ミアさんが、俺と沙耶を見比べて笑った。


「ふふ。お二人、仲良しですね!」


「「どこがですか(よ)!!」」


沙耶のそよ風観測の結果、噴出源は四層よりさらに下——おそらく最下層。そして噴出の“圧”は、昨日より明確に強くなっていた。


「……悪化してる、ってことですか」


「ああ。それも、速い」


ヘクトルさんの表情が険しくなった、その時。俺の加護が、階段の陰に“それ”を見つけた。


「——おい。これを見てくれ」


石壁の窪みに、小さな焚き火の跡。畳まれた薄い毛布。そして、齧りかけの硬そうなパン。


「野営の跡……こんな三層で?正気じゃないわ」


「例の、フードか」


ヘクトルさんの問いに、俺は頷いた。焚き火の組み方は手慣れていて、ルート取りは魔物の巣を的確に避けている。単独で、この魔境で、生き延びる技術がある。


——だが。


「パンが、齧りかけで残ってる。あいつ、食料が尽きかけてるんだ」


「なんで分かるのよ」


「俺たちには食料の専門家がいる。……なあ、ひなた」


ひなたは、齧りかけのパンをじっと見て、こくりと頷いた。


「かたいパン、最後まで食べないのは——もったいないから。のこしておいて、また齧るの」


「配給生活の齧り方だ、それは」


「……なあ、ひなた。もし会ったらさ、分けてやれよ。お前の黒パン」


「ん。——でも、くろパンはかたいから、はじめてのひとには、しろパンがいい」


「食のプロの見解が出たわね」


ひなたは大真面目な顔で頷いて、自分の袋の白パンを一個、別の布に包み直した。誰にやるつもりなのかは、聞くまでもなかった。


読めない奴。手練れの野営。尽きかけた食料。そして、昨日より強くなる魔素の圧の中に、あいつは今も一人でいる。


「……隊長。四層への追加調査は」


「明日以降だ。王都から応援のBランクが来る。それまで、これより下は禁止だ。——全員、撤収!」


命令は、絶対である。俺たちは三層を後にした。


ただ、階段を上りながら、俺は一度だけ振り返った。


暗闇の奥。魔素の風が、下から吹き上げてくる。


……あの生意気なフードは、今夜、何を齧るのだろうか。


白パンの包みは、ひなたの袋の中で、出番を待っている。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。