↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
絆値、測定不能。〜親友4人でまとめて異世界転生〜  作者: ある


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/172

第二話 初陣、相手はスライム

空が、青かった。


見たこともない青さだった。——という感動的な書き出しをしたいところだが、現実はこうだった。


「重い! 降りろ! 早くッ!」


神様にまとめて転生された俺たち四人は、見知らぬ草原のど真ん中に、四人まとめて積み重なって落ちていた。ちなみに一番下が俺だ。


「あ、下が圭吾か。じゃあいいや、もうちょっとこのままで」


「よくない。何がいいんだ。降りろって言ってるだろうがぁ……!?」


「動きたくない。あたし、朝ごはんまだ」


「死んでからずっと言ってるなそれ」


全員を引き剥がして立ち上がり——そこで、ようやく気づいた。


見渡す限りの草原。石畳の古い街道。遠くに霞む山脈と、森。頬を撫でる風には、嗅いだことのない甘い匂いが混じっている。


来た。


「……フッ、見ろ、この大地……この風……! 大気に満ちる力の気配……! 我が魂が告げている——ここは、異世界だッ!!」


「そりゃそうでしょ。神様がそう言ってたもの」


「沙耶、お前には浪漫がないのか。この瞬間を何だと思っている」


「浪漫より水と食料よ。私たち、文字通り身ひとつなんだけど」


言われて、全員が自分の体を見下ろした。


所持品、なし。金、なし。武器、なし。スマホ——なし。


「…………なあ。俺のパソコン、今ごろどうなってるかな」


「隼人、その話はもうやめよう。傷が深くなるだけだ」


「中身を知ってる三人が生きてるのが、俺は一番怖いんだよ」


「安心なさい。あなたが死んだ時点で全部バラすから」


「俺まだ生きてる側の扱いなの!?」


とりあえず、街道沿いに歩くことにした。道というものは、どこかの街に繋がっているものだ。


しばらく歩くと、道端に古い石の道標が立っていた。


『グランツ王国 辺境の街フォルテ 徒歩半日』


「読めた」


「読めたわね」


「……読めたな。おい、なんで読めるんだ? どう見ても日本語じゃないぞ、これ」


「神様の雑な仕事にも、最低限の良心はあったってことでしょ」


言語対応済み。ありがたい。あの神、説明はしないくせに仕事はするタイプらしい。


「フォルテまで半日か。……なあ、この“半日”って、誰の足で半日なんだ? 荷馬車と俺たちじゃ全然違うだろ」


「あんたそういうとこ変に鋭いのよね」


歩き出してすぐ、後ろから車輪の音がして、幌付きの馬車が俺たちを追い越していった。


御者の隣には、革鎧を着て大剣を背負った男。幌の隙間からは、杖を抱えた少女がこちらを珍しそうに見ていて、その手元で小さな光の玉が、ぽう、と灯っていた。


魔法だ。今、確かに、魔法だった。


「「「「今の見た!?」」」」


「見た! 光ってた! 詠唱なしで!」


「剣もでかかった。あれ絶対売ったら高い」


「隼人、お前は一回黙ろうか」


興奮する俺たちを、馬車の二人は「田舎から出てきたんだなあ」という生ぬるい目で見送っていった。違う。もっと田舎だ。世界ごと違う。


——と、そこで俺は、重大なことに気づいてしまった。


「……待て。待て待て待て。おい、お前ら」


「何よ」


「今の馬車の二人、人間だったな? つまりこの世界にも人間はいる。……ということはだ。ここは剣と魔法の異世界。ならば当然——」


すう、と息を吸った。


「エルフだとか獣人だとか、そういうエッチな種族がいっぱい居るんだろーーーッ!?」


「叫ぶな!! 街道で!!」


「けーごは今日も元気だねえ」


「誤解するな。これは断じて劣情ではない。異種族との文化的邂逅への、純粋なる知的興奮であって——」


「今エッチなって言った」「言ったわね」「言った」


「言葉のあやだが!?」


「……なあ、ちなみにだけど。実際いるのかな、エルフ」


「隼人、あなた今ちょっと食いついたわね」


「俺のは学術的な興味だよ」


「男子二人、まとめて埋めるわよ」


——と、その時だった。


街道の脇。草むらが、ぷるん、と揺れた。


半透明の、青いゼリー状の塊。大きさはバスケットボールくらい。それが、ぷるぷると震えながらこちらへにじり寄ってくる。


「「「「スライムだーー!!」」」」


四人の声が、初めて完璧に揃った。


「ハッ……ついに来たか、我が初陣……! 異世界の洗礼、最初の刺客……!」


「なあ、あれ触っていい? 溶けるのかな、指」


「隼人、お前はなぜ危険物を見ると触りたがるんだ」


「面白そうだろ」


「待って、二人とも。スライムの倒し方なら知ってるわ」


沙耶が、眼鏡を押し上げ、自信満々に一歩前へ出た。……嫌な予感がした。こいつが自信満々の時は、大抵三百二十八件目だ。


「スライムは体内の『核』を潰せば死ぬの。ゲームでは常識よ」


「ほう。それで、核はどこに?」


「……」


「どこに?」


「…………見えない」


「三百二十八件目ェ!!」


「うるさいわね! 理論は正しいのよ、理論は!」


そうこうしている間にも、スライムはにじり寄ってくる。速度は遅い。遅いが、こちらには武器がない。


こういう時こそ、あれだ。


「ふっ……仕方あるまい。ここは俺の秘められし力を解放する時……我が右腕に眠りし、漆黒の——」


「出るの? それ」


「——契約の炎よ、疾く集いて敵を穿てッ!」


「……」


「…………」


「………………」


何も、出なかった。


「出ないじゃない」


「おかしい。詠唱は完璧だったはずだがぁ……!?」


「圭吾、たぶんあれだ。詠唱の前に、そもそも魔法の使い方を習ってない」


「ぐ……正論を……この俺に、正論を……!」


「はいはいどいて。——というわけで、誰か囮になって。その隙に後ろから石で潰すから」


「お前の作戦は昔から人身御供が前提なんだよ」


「適任は圭吾よね。一番うるさいから狙われやすい」


「俺も圭吾に一票。今なら囮じゃなくて主人公っぽく死ねるぞ。よかったな」


「お前らってマジで俺を売る時だけ団結するよな」


——と、俺たちが醜い押し付け合いを繰り広げていた、その時。


ひなたが、すっ、とスライムの前にしゃがみ込んだ。


「ねえ、これって……食べられるのかな」


じゅる、と音がした。ひなたの口元からだった。


その瞬間。


スライムが、びたっ、と動きを止めた。


そして——ぷるぷるぷるぷるっ!! と今までの三倍速で震えたかと思うと、ものすごい速さで草むらの奥へ逃げていった。


「…………」


「…………」


「あ。逃げちゃった」


ひなたが、心底残念そうに言った。


「……今の、何?」


「スライムにも、命の危機ってものが分かるんじゃないか」


「野生の勘ってやつね」


俺たちは深く考えないことにした。考えたら負けな気がした。


※後から思えば、この時もう少し真剣に考えるべきだった。


気を取り直して、街道を歩く。日が傾き始めた頃、話題は自然と今後のことになった。


「着いたらまず金だな。売れるものが何もない」


「働くのよ、私たち。ゲームで言えば、まずは冒険者ギルドね」


「ギルド……ギルドか……ふっ、ならば必要になるな。我らの——パーティ名が」


「嫌な予感しかしない」


「安心しろ。候補はもう考えてある。三百ほど」


「名乗りの三百と合わせて六百!? あんたの脳の容量ほんっとにそればっかりね!?」


「よし、聞け。まず第一候補——」


「着いてから聞く」「着いてからでいいわ」「あたしは一生聞かなくていい」


「お前らァッ!!」


——そんなやり取りをしているうちに。


街道の先に、それは見えてきた。


夕日を受けて赤く染まる、石造りの城壁。固く閉ざされる前の、大きな門。行き交う馬車と、剣を提げた旅人たち。門の上には、この国のものらしい旗が翻っている。


異世界の、街だ。


「おお……!」


さすがに、四人揃って足が止まった。テンションの低い三人ですら、これには声が出た。


門の前まで来ると、槍を持った門番が俺たちを見て、怪訝な顔をした。まあ、そうだろう。旅装も荷物もない四人組だ。


「止まれ。……見ない顔だな。どこから来た? 代表者は誰だ」


「「「こいつです」」」


三本の指が、一斉に俺を指した。


「お前らそれ、神様の前でもやったな!?」


門番は、俺たちを上から下まで、じっくりと眺めた。当然だ。汚れひとつない妙な服。荷物なし。武器なし。金なし。怪しさの見本市である。


「……身分証は」


「ないです」


「荷物は」


「ないです」


「どこから来た」


「「「「…………遠くから」」」」


「怪しすぎるだろ」


ごもっとも。門番の目がどんどん剣呑になっていく。槍を持ち直す、嫌な音がした。


——と、門番は俺たちの身なりをもう一度見て、ふと眉を緩めた。


「……ああ、そうか。お前ら、追い剥ぎにやられたクチか。この街道、たまに出るんだ」


出た——! 勝手にいい感じの解釈をしてくれる、話の分かる大人!


(乗れ……! 全員、その解釈に乗れ……!)


俺たちは目配せし合った。以心伝心。十年の絆は伊達ではない。


「そ、そうなんです! 実は私たち、隣の……えーと、大きな街から来た商家の子女でして! 馬車ごと襲われて、従者は散り散り、積み荷の宝石も反物も何もかも奪われ——」


「盛るな盛るな盛るな!!」


「……商家の子女? そこの男二人もか?」


「三百二十九件目」


「数えるのやめてくれる!?」


「門番さん。こいつの話は全部嘘です。俺たちは何も持ってないし、何者でもないです」


「隼人、お前は売るのが早いんだよ!! せめてもう少し泳がせろ!?」


「泳がせた先に何があったんだよ、今の」


門番は、こめかみを押さえて長いため息をついた。


「……あー、もういい。分かった。何も分からんことだけは分かった。……で? この街に何の用だ」


「冒険者ギルドに登録を! 俺たち、冒険者になりに来た者です!」


ここぞとばかりに俺は言った。本日一番まともな発言だったと思う。


「ギルド志望か。なら、それを先に言え」


門番は詰所から木の札を四枚持ってくると、俺たちに一枚ずつ押し付けた。


「仮札だ。三日以内にギルドで正式に登録しろ。ギルドが身元を引き受ければ、この街の客人扱いになる。登録できなければ——出て行ってもらう。いいな」


「「「「はい」」」」


「……返事だけは揃っていて気持ち悪いな、お前ら」


なるほど。辺境の街は人手不足で、冒険者の卵には門が広いらしい。ありがたい制度だ。主に、俺たちみたいな「何者でもない」連中に。


こうして俺たちは、日暮れ前の門をくぐった。


石畳の大通り。パンと肉の焼ける匂い。魔法の灯りがともり始めた露店の並び。


そして、行き交う人の中に——居た。


髭を三つ編みにした、樽みたいな体格の男。頭の上で犬の耳をぴこぴこ動かしている、女の冒険者。露店の奥には、木彫りの人形みたいに整った顔の、長い耳の店主。


ドワーフ。獣人。エルフ。物語の中でしか知らなかった住人たちが、当たり前の顔で夕方の買い物をしていた。


「居た————ッッ!! 本当に居たぞ、お前ら!!」


「叫ぶな!! 街道から数えて二回目よ!!」


「見ろ、あの耳! あの髭! ファンタジーが歩いてる!!」


「あんたの声が今、この通りで一番ファンタジーより目立ってるのよ」


ちなみに、犬耳のお姉さんの方へ吸い寄せられかけた俺の襟首は、沙耶が無言で確保した。紳士の出番は、まだ先らしい。


そして、大通りの先にひときわ大きく掲げられた、剣と盾の看板——


「冒険者ギルド」


その六文字を見上げて、俺は拳を握りしめた。


「ふ……ふふ……来たぞ……俺たちの物語が、ここから始まる……!」


「その前にごはん」


「その前に宿だ」


「その前にお金でしょ。……ね、誰か売れそうなもの持ってない?」


三人の視線が、ゆっくりと俺に集まった。


「俺を見るな」


To be continued——してたまるか、まだ何も始まってない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。