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絆値、測定不能。〜親友4人でまとめて異世界転生〜  作者: ある


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第170話 起こしの韻

質問期間の最後に、ヴェイルの方から、逆質問が来た。


『今度は、こちらの番。ずっと、気になってたことがあるの』


夕飯後の頂の間。姉の金の瞳が、俺を、まっすぐに捉えた。


『手合わせの日の、あの詠唱。貴方の拍。“起こしの韻”と、同じ拍だった。あれ、誰に習ったの』


「習っていません。前世からの、我流です」


『前世?』


「南の言い回しです(誤魔化した)。……そもそも“起こしの韻”とは、何なんです」


ヴェイルは、少し迷って、話し始めた。


『塔の、儀式の拍よ。代替わりの儀で使う、一番古い韻律。眠っている灯を、次の番人が“起こす”ための拍。合い鍵の血筋にだけ、口伝で伝わる。文字にも、しない。楽譜にも、しない』


「「「「…………」」」」


『だから、あり得ないのよ。南の人間が、あの拍を踏めるなんて。一族の外には、五百年、一度も出てない拍なんだから』


「ち、ちなみに私は、習得に三年かかった。八歳から十一歳」


『うち二年半は昼寝してたけどね』


「姉さん!!」


視線が、俺に集まった。


「……俺に聞かれても、困る。あれは、十年前、前……昔、俺が“詠唱の間の取り方”として自分で編んだ拍だ。設定ノートの、確か三冊目。誰かに習った覚えは、ない」


「ちなみにその設定ノート、今、あるの?」


「こっちで書き直した分なら、フォルテの机の上だ。昔の拍も写してある。……帰ったら、詠唱の章を検分しよう」


『ひとつ、試させて』


ヴェイルが、立ち上がった。


『今から私が、起こしの韻の“問い”の拍を打つ。合い鍵の血筋なら、“応え”の拍が、体で分かる。……貴方が、どこまで踏めるか、見たいの』


姉は、指で、机を、とん、とんとん、と叩いた。独特の、波のような拍。


俺の口が————考えるより先に、動いた。


「とん、とん————とん、とんとん、とん」


指が、机を叩いていた。勝手に。次の拍が、当たり前のように、分かった。


最後の一打と、同時に。


荷物の隅で————縁鈴が、ちりん、と鳴った。誰も、触れていないのに。


「「「「…………」」」」


鈴は、それきり、黙った。まるで、応えの検収印みたいに。


『…………完答よ』


ヴェイルの顔から、血の気が、少し引いていた。


『“問い”に対する“応え”、五節、全部。……初見で。合い鍵の血筋でも、習得に三年かかる韻を』


「「「「…………」」」」


「お、おい、圭吾。お前、何者だ……?」


「俺が聞きたいが!?……いや、待て。待てよ。ふ。ふふふ。聞いたか、諸君。五百年、一族の外に出なかった秘伝の韻。それを我が魂は、生まれながらに————」


「はい採点。調子に乗った分で減点。五十八点」


「先生の採点が罵倒より辛辣なんだが!?」


「事実だからな。……でも」


先生は、少しだけ、声を落とした。


「……初見で完答は、その、正直————すごい、と思った。悔しいが」


「ほう?もう一度」


「二度は言わん!!」


頂の間が、ざわついた。ざわつきの中で、ひなただけが、こてん、と首を傾げて、言った。


「ん。かんたんな、こたえが、ある」


「ほう?」


「けいごは“おこすがわ”の、ひと。むかしから。……ねてるちゅうにびょうを、おこして、ねてるぼうけんしゃを、おこして、ねてるまちを、おこして、とまってるきずなを、おこして。だから、からだが、しってる。おこしかた」


「「「「…………」」」」


『……理屈になってないのに、妙に、納得したわ』


「俺たちの兵站長は、たまに、世界の芯を突くので」


理屈は、つかなかった。つかないまま、事実だけが残った。俺の拍は、起こしの韻を、踏める。理由は————保留である。答えは、たぶん、もっと先にある。


『……ひとつだけ、確かなことを言うわ』


ヴェイルが、俺を見た。今度は、警戒ではなく、値踏みでもなく————何かに賭ける目で。


『貴方が、踏める。それが、今日、分かった』


「……それだけですか」


『それだけよ。でも、大きいわ。……貴方が拍を受け持ってくれれば、私とヴィクは、唱和に専念できる。二人とも、そのぶん、深く出せるもの』


「……つまり、俺は、譜面台か」


『言い方はともかく、そういうこと』


「支える側なら、心得がある。十年、無視されながら間を取り続けた男だぞ」


『そこは自慢しなくていいわ』


「揃った、が————まだ、押さん」


俺は、言った。


「儀ってのは、たぶん、支度が要る。本人の返事も、要る。……当番を代わるなら、代わる先が“大丈夫”だと、父君が信じられる形にしてからだ。慌てて叩く扉は、大抵、開かん」


『……ええ。同感よ』


「ただし、待つのと、止まるのは、別だ。……沙耶、儀の支度の一覧を作れ。ばあやの見立てから、日の勘定も逆に引く」


「もう作ってるわよ。項目は十七。半分は、まだ空欄」


「埋めるぞ。こじ開けずに、支度だけ、先に全部済ませる。……扉が開いた時、こちらの手が塞がっていては、話にならん」


窓の外の帯が、頂から、流れ続けていた。


観測日誌、本日の特記。


『圭吾、起こしの韻を完答(初見)。理由、不明。……不明のまま、書いておく。“分からないことは、分からないと書く”。観測の基本なので』


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