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絆値、測定不能。〜親友4人でまとめて異世界転生〜  作者: ある


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第168話 五十年前の約束

同じ日の夜、一番深い質問に、順番が回ってきた。


断っておくと、昼のうちは、支度の合間に、平和な質問が続いていた。


「魔王家の酒蔵はどこだい」(姉御)————「ない。父さんは下戸だ」(衝撃で姉御が二度聞きした)


「かくし、つうろは、ある?」(ひなた)————「ある。台所の裏に」(兵站長が三十分で制覇した)


「口上は」(俺)————「教えないと言ったろ」(取り付く島もなかった)


深い質問だけは、夜に回した。飯と風呂を済ませてから。後回しにしたのではない。重い話は、腹が満ちてから聞くものだと、俺たちは、半年かけて学んでいる。


「では、聞こう。なぜ、五十年前から、代替わりが止まってるんだ」


夜の食堂。問うたのは、俺である。


「見張り番は、何十年かに一度、代替わりする。塔の掟。……お前が、前にそう言った。なのに父君は、五十年、座り続けてる。掟破りだ。何が、あった」


ヴィクトリアは、姉と、顔を見合わせた。


『……そこから先は、私たちも、半分しか知らないの。生まれる前の話だから。知ってる範囲で、話すわ』


ヴェイルが、茶を置いて、話し始めた。


『五十年前。先代の見張り番————私たちの、祖母が、代替わりの時期を迎えたの。次の番は、若い頃の父さんの、はずだった。……でも、その引き継ぎの年に、“それ”が始まった』


「それ、とは」


『北の、さらに北で。世界の糸が、ほどけ始めたの』


食堂の火が、爆ぜた。


『織図で見せた、あの“流れ”の始まり。祖母は、引き継ぎを中止して、父さんと二人で、見張りを固めた。そして————祖母は、糸のほどけの原因を確かめに、北のさらに北へ、発った。父さんに、塔を任せて』


「……戻らなかった、のか」


『戻らなかった。五十年。……父さんは、祖母との約束を守って、座り続けてる。“私が戻るか、ほどけが止まるまで、灯を守れ”それが、最後の言葉だったそうよ』


「ちなみに、これが祖母様の手帳よ。書庫の、一番古い棚にあった」


沙耶が、さらに古い革表紙を、卓に置いた。開くと、見慣れた書式が、そこにあった。天候。帯の色。所感、一行。


『晴れ。帯、平常。息子が見張り椅子で居眠り。まだまだね』


「親子二代、同じ書式……いえ、三代か」


「ん。にっしの、けっとう」


「日誌の血統って何よ。……いえ、目の前に三代目が居るのよね、現に」


「「「「…………」」」」


五十年の灯の、理由だった。約束、である。雪洞の夜、ヴィクトリアが言った「約束だから」の、これが全文だった。


「……ちなみに、その“北のさらに北”ってのは」


「地図にない場所だ。夜の民も、行かない。世界の糸の、織り始めの場所、とだけ、伝わってる」


「(……探しに行くとしたら、そこなのね)」


「(ん。せかいは、ひろい)」


——そして、話は、三年前に繋がる。


「灰色の“申し出”の文言、ばあやが一度だけ、膜越しに聞き取ってる。こうだ」


ヴィクトリアが、手帳の写しを、読み上げた。


『貴殿の勘定と、我らの台帳の、合併を申し入れる。貴殿の見張りは、五十年、良く勤められた。もう、番は、我らが引き継ぐ』


「……見張りの、引き継ぎの申し出?」


「言葉の上ではな。だが、意味は逆だ。あいつらに鍵を渡すことは————見張りを、終わらせることだ。灯を消して、門を開けて、北のほどけを、素通しにすること」


「だから、父君は“わたさない”……」


「ああ。代替わりの相手が、来ないまま。引き継ぎの申し出は、敵からしか、来ないまま。五十年、たった独りの当番を、降りられずにいる」


食堂が、深く、静まった。


沈黙を破ったのは、隼人だった。


「……なあ。それってさ、要するに————交代要員が居れば、いいんじゃねえの」


「「「「…………」」」」


「機の間で、ばあやが言ってただろ。“安心して手を離せる形を作れ”って。あれからずっと、考えてたんだよ。……五十年、独りで座ってるから、動けねえんだろ。留守を任せられる奴が居れば、少なくとも“座り続ける理由”は、軽くなる。俺たちがフォルテを出る時、そうしたみたいにさ。観測はコタ、外来はリタさんと酔いどれ猫の残留組、点検は街のみんな。引き継ぎ先を、作ったから、出てこれた」


俺たちは、顔を見合わせた。


「……交代の話なら、門の前でもした。手帳を読んだ夜にも言った。だが、誰にどう渡すのかまでは、決めてなかったな」


「そこはフォルテの真似でいいだろ。名前を決めて、割り振って、毎日言う。それだけだ」


『でも、見張り番は、合い鍵の血筋しか……』


ヴェイルが言いかけて、止まった。止まって、自分の手を、見た。


合い鍵の血筋。この場に、二人、居る。


「姉さん」


「ヴェイル姉さんと、私で、当番を分ければ」


姉妹の声が、重なった。


「決まりだな。患者台帳に、処方を追記する。“処方その二: 引き継ぎ先の提示”。用法は、毎日、声に出して伝えること」


「私と姉さんで、毎朝、言う。“当番、代われるからな”って」


『五十年ぶりの、交代要員のご案内、ね』


方針が、ひとつ、増えた夜だった。父の勘定に呼びかけ続けること。そして、「引き継ぎ先は、ここに居る」と、伝えること。


観測日誌、本日の特記。


『五十年前の約束、判明。祖母、北のさらに北へ(未帰還)。……父さん。約束は、立派に守られてる。でも、約束は————引き継いでも、いいはずだ』


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