↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
絆値、測定不能。〜親友4人でまとめて異世界転生〜  作者: ある


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

165/172

第165話 もう、言ったら

灯の歌の夜の、あとのことである。


皆が寝静まった塔の、螺旋階段の途中————百八十段目の踊り場に、小さな露台がある。星のよく見える、風の通る場所。俺とヴィクの、塔での「定位置」になりつつある場所だった。


「……眠れないのか、我が眷属」


「お前もだろ」


「俺のは夜食の消化待ちだ。座れ。毛布はある」


毛布は、いつの間にか、この露台に二枚、常備されるようになっていた。どちらが二枚目を持ち込んだのかは、両者とも、記録しない主義である。


定位置の儀式は、塔でも、変わらない。


しばらく、星を見た。北の帯が、頭の真上を、静かに流れている。


『————二人とも、居たのね』


階段の上から、ヴェイルが降りてきた。手に、湯気の立つ杯を三つ、盆に載せて。


『里の香草の湯よ。眠れない夜のやつ』


「かたじけない、姉君」


『ところで。この露台、毎晩、二人で?』


「か、観測だ!!北の帯の、定点観測!!」


『ふうん。観測』


『毛布が二枚、畳んで常備されてる観測、ね』


「姉さんは目ざとすぎる!!」


姉というものは、黒歴史の司書であると同時に、監査の目も持つらしい。


三人で、湯を持って、並んだ。姉妹と、家主。妙な取り合わせの夜だった。


『……ね、ヴィク。今夜の歌、良かったわ。母さんの歌い方に、似てきた』


「……ん。ばあやの弟子だからな、私は」


『それで、ね。そろそろ、言ったらどうかと、思うのよ』


ヴィクの肩が、揺れた。


『名前のこと。家のこと。……全部』


「姉、さん」


『手帳を読む時、指で隠したでしょう。皆、気づいてる。気づいて、聞かないでいてくれてる。……ずっと、そう。この人たちは、気になることもあったでしょうに、半年以上、待ってくれてる』


ヴェイルは、湯を、一口飲んだ。


『秘密ってね、ヴィク。守ってもらってる間は、荷物なの。でも————自分で明かした瞬間、贈り物になる。……私は、貴女の口から、あの人たちに、贈らせてあげたい。奪われる前に。折れる前に。一番、いい形で』


『……なんて、偉そうに言ったけど。私も、文を百回、燃やした側だけどね』


「……姉妹で、同じ癖なのが、よく分かった夜だ」


『『うるさい(わね)』』


「…………」


「姉君。ひとつ、補足しても?」


俺は、湯の湯気越しに、言った。


「俺たちは、催促はしない。約束なので。……ただ、これだけは言っておく。お前が何を名乗ろうと、明日の我が家の朝飯の席順は、変わらん。お前の椀は、ひなたの右で、俺の向かいだ。名前が何文字増えようと、あそこがお前の席だ」


「…………ふ」


ヴィクは、湯を両手で包んで、長いこと、北の帯を見ていた。


見て、それから————言った。


「……決めた」


「ほう」


「明日。夕飯のあと。皆が揃ってる時に————言う。全部。名前も、家も、なんで塔なのかも。……荷物を、降ろす。降ろして、贈り物に、する」


『————ん。いい子』


「子供扱いするな、姉さん」


『何歳になっても妹は妹よ』


姉は、妹の頭を、角ごと、くしゃりと撫でた。妹は、抗議の声を上げながら、逃げなかった。


——部屋に戻る前、ヴィクが、俺を呼び止めた。


「なあ、圭吾。……ひとつだけ、先に聞いておきたい」


「ん?」


「明日、私が何を言っても“一度あることは、二度ある”の、二度目が来ても。……お前は、いつも通りで、居てくれるか」


俺は、いつも通りに、答えた。


「三度目も、四度目も、いつも通りである。俺たちの流儀は、知ってるだろう」


「……ふ。ふふ。知ってる。嫌になるほど、知ってる」


眷属は、笑って、階段を降りていった。


明日、夕飯のあと。半年と少し越しの、二度目が来る。


俺は、露台の星に、ひとつだけ、頼み事をした。明日の夕飯が、うまく炊けますように。大事な話の日は、飯が、うまくないといけないので。


——なお、階段を降りた先の台所に、灯りが点いていた。


「ん。————あした、だいじな日?」


鍋の下ごしらえをしていた兵站長が、振り向かずに、聞いた。


「なぜ分かる」


「ヴィクの、あしおと。かるくなってた。……だいじな話の日は、ごちそうにする。きまり、だから」


頼み事は、星より先に、台所に届いていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。