↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
絆値、測定不能。〜親友4人でまとめて異世界転生〜  作者: ある


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/172

第16話 収穫の鐘と腐れ縁

収穫祭、最終日。


この日、フォルテの屋台通りに、静かな恐怖が走っていた。


「い、いらっしゃい……あっ」


「ん。これください。——はい、これ」


ひなたが差し出したのは、大食い大会の優勝賞品“屋台通り一日食べ放題券”。受け取った店主の顔から、すっ、と血の気が引く。


「で、伝説の二十七杯の……!」


「おかわりも、いい?」


「か、勘弁してくれ嬢ちゃん!うちは小さい店なんだ!」


券の効力は絶大だった。ひなたが通りを歩くだけで、屋台のおやじたちの顔が「商売繁盛」と「在庫全滅」の間で揺れる。祭り最終日にして、俺たちの最終兵器は屋台通りの災害に認定されつつあった。


「おい、見ろよ。あれ」


隼人が、通りの先を指差した。


雑踏の中に、見覚えのある灰色の髪と狼の耳があった。軍服ではなく、私服。仏頂面で、炭火串を齧っている。


「ヘクトルさんだ。……おーい!教官!」


狼の耳が、びくっ、と跳ねた。


「————貴様ら。よりによって貴様らか」


「奇遇ですね。お一人ですか?」


「非番だ。話しかけるな。祭りくらい、静かに過ごさせろ」


「その割に、串、五本目ですね」


「数えるな!!」


言葉とは裏腹に、ヘクトルさんは俺たちが隣に並んでも、立ち去らなかった。なんだかんだで、そのまま屋台通りを一緒に流すことになった。


「教官、あれって獣人の作法ですか?さっきから、屋台のおやじに串を受け取る時、必ず両手で」


「む。……ああ。食い物は“群れの恵み”だ。片手で受けるのは、獣人の間では無作法にあたる」


「へえ……」


「貴様らも覚えておけ。タウラの平原辺りでは、片手で飯を受け取っただけで決闘になるぞ」


「「「「決闘!?」」」」


飯の受け取り方で決闘になる草原、怖すぎる。俺は心のノートの「行ってはいけない場所」の欄に、タウラと書きかけ——「礼儀を覚えれば良いだけだ」と言われて、消した。紳士たるもの、礼儀には強い。


道中、ヘクトルさんは射的屋台の前で足を止めた。出禁の隼人が、恨めしそうに柵の外から眺めている屋台である。


「ふん。……見ておれ」


ヘクトルさんは銅貨を置き、五発で景品を五個抜いた。店主が「あああああぁぁぁぁぁぁ!!!」と叫ぶ。そして獲った菓子の詰め合わせを、後ろで見ていた村の子供たちに、無言で全部配った。


「「「「(いい人だ……)」」」」


「なんだその顔は。やめろ。減点するぞ」


「非番でも減点あるんですか」


——そして、日が暮れた。


収穫祭のフィナーレは、“収穫の鐘”である。


祭りの三日間の終わりに、街の鐘楼が特別な鐘を七つ撞く。そして曰く——“鐘が鳴り終わる時、隣にいた者とは、来年も同じ食卓を囲める”。


「——というジンクスなので、恋人たちは必死なわけです」


リタさん(屋台の売り子の応援に駆り出されていた)が、教えてくれた。見れば、広場のいい場所は、寄り添う男女でびっしり埋まりつつある。


「なるほど。色恋の行事か」


「俺たちには関係ないな。飯でも食うか」


「そうね。人混みは避けましょ」


——関係、なくならなかった。


「ひなたさん!!」


人垣をかき分けて現れたのは、あの犬耳の大食い青年だった。手には、山盛りの焼き菓子。


「よ、よかったら、その、鐘、一緒に……!菓子もある!!」


「ん。たべる」


「食い物で釣られた!?え、ちょっと、ひなた!?」


「まあ、いいんじゃね?——おっと、沙耶さん、あんたも狙われてるぞ、ほら」


「え?」


振り向いた沙耶の前に、見知らぬ優男が二人、花を持って立っていた。祭りの間に沙耶を見かけて、声をかける機会を狙っていたらしい。眼鏡の似合う黒髪は、この街では割と目立つのである。


「あの、よかったら、鐘を——」


「あっ、ごめんなさい、私、その」


沙耶がわたわたと後ずさり——俺の風呂敷マントの陰に隠れた。


「つ、連れがいるので!!」


「……ほう?隣にいた者とは来年も同じ食卓、だそうだが。俺でいいのか?」


「あんたは黙ってて!!……ああもう、行った?行ったわね……」


「今の対応、三百三十五件目に数えるか微妙なところだな」


「だから数えないでいいのよ!!」


ごーん——と、一つ目の鐘が鳴った。


慌ただしく、全員が所定の位置(という名の、たまたま居た場所)に落ち着く。俺の右に沙耶(隠れたまま)、左に隼人(菓子を齧りながら)、その向こうにひなたと大食い青年(青年だけ緊張で直立)、少し離れてヘクトルさん(六本目の串)、リタさん(売り子のエプロンのまま)。


ごーん。ごーん。


鐘の音の間に、隼人がぽつりと言った。


「なあ。このジンクスってさ、“隣にいた者と来年も同じ食卓”なんだろ?」


「らしいな」


「……俺たち、来年も多分、同じ食卓な気がしね?」


「「「…………」」」


断言は、できない。前世でも、毎日一緒だったわけじゃない。それでも——この四人に関しては、来年も、再来年も、たぶんそうなる。その“予感”だけは、昔から一度も外れたことがない。


「つまり俺たちは、鐘に頼まなくても勝手に更新される、と」


「何よそれ。……ふふ。腐れ縁ってそういうことでしょ」


ごーん——と、七つ目の鐘が鳴り終わった。


広場のあちこちで、恋人たちが抱き合い、拍手が起こる。俺たちのパーティは、誰も何も言わず、いつも通りの顔で、屋台の残りを物色し始めていた。それでいい。それが、俺たちの形だ。


「(……ちなみに大食い青年は、鐘の間ずっと直立不動のまま、ひなたに菓子を全部食われていた)」


「(恋の行方に幸あれ)」


——祭りが明けた、翌朝。


ギルドの掲示板の前に、人だかりができていた。


『告知。フォルテ迷宮において、魔素の活性化の兆候を確認。ランクD以上の冒険者に、調査への協力を求む』


「迷宮……例の、“穴”か」


「魔素の活性化って、何が起こるんです?」


リタさんは、少しだけ声を落とした。


「……放っておくと、魔物が湧きすぎて、溢れます。“氾濫”——って言うんですけど。あ、でも、兆候の段階ですから!調査すれば大抵は何事もなく——」


「ちなみにリタさん。この依頼の危険度は」


「————“中”です」


「「「「中!?」」」」


初めて見る文字に、俺たちはざわついた。低で主と遭遇した俺たちの、初めての“中”である。


……嫌な予感が、しなくもない。だが、Dランクの仕事だ。


「よし、お前ら。会議だ」


「残高、銀貨11枚と銅貨70枚。——“一発分”は、確保済み」


「発射許可の予感……!」


「まだ出しません」


祭りの次は、迷宮。俺たちの異世界は、今日も忙しい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。