↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
絆値、測定不能。〜親友4人でまとめて異世界転生〜  作者: ある


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

150/172

第150話 姉の、まいった

午後の部は、開幕から、豪速だった。


ヴェイルの光の帯は、二十四本に増え、雪原そのものが、姉の術の盤面になった。ヴィクは、走り、跳び、撃ち、俺は、視て、読み、叫んだ。


「右の三本、陽動!!本命は上!!」


「見えてる!!」


「嘘だ、すまん、上も陽動だ!!本命は、真下と、背後の同時!!」


「なんで訂正するんだ!!」


「敵が読み合いを進化させてくるので!!」


『会話が、うるさいわよ、貴方たち!!』


「「うるさくて、強いのが、《腐れ縁》です(なんです)!!」」


盤面は、しかし、少しずつ、押されていた。ヴェイルの術は、精密で、多彩で、そして、底が見えなかった。五年間、独りで塔を守り続けた術者の、年季である。


頬が、勝手に、緩み始めていた。


「(……このままじゃ、じり貧ね)」


「(ん。でも、けいごの、めが、わらってる)」


観客席の読み通り、俺は、笑っていた。視えてきたのである。姉君の、癖が。


「ヴィク!!次の展開の後、二拍だけ、姉君の術が“薄く”なる!!」


「二拍?」


「術の編み直しの、繋ぎ目だ!!二十四本もの帯を独りで編んでるんだ、編み直しの瞬間だけ、必ず、糸が緩む!!独りで編む術の、宿命である!!」


『っ』


ヴェイルの表情が、変わった。図星、である。


「そこで、だ!!我が眷属!!二拍で届く、俺たちの最速は!?」


「決まってる!!」


ヴィクは、走りながら、叫んだ。


「ひなた!!!!」


「ん」


観客席から、砲撃手が、立ち上がった。


『は、観客は、反則————』


「二対一とは聞いたが!!観客の応援が禁止とは、聞いてない!!これは応援である!!」


「屁理屈オォォ!!」の顔で、ヴェイルが二十四本を編み直す————その、繋ぎ目の二拍。


ひなたの黒パンが、盤面の中央を、まっすぐに貫いた。帯の網に、一瞬の大穴が空く。その穴を、ヴィクの紫紺が、駆け抜けた。


奔流は、ヴェイルの眼前、寸止めの距離で————ぴたりと、止まった。


遠慮の目盛り、完全制御である。


雪原が、静まり返った。


ヴェイルは、眼前の紫紺の光を、長いこと、見つめていた。それから、ゆっくりと、両手を上げた。


『まいった』


観客席が、爆発した。


「「「「うおおおお!!」」」」


「ちなみに姉君、最後のは反則すれすれでした!!審判がいたら揉めてました!!」


『自分で言うの、それを』


ヴェイルは、脱力して、雪の上に、すとんと座り込んだ。座り込んで、空を仰いだ。


『……負けた。五年ぶりに、術で負けた。……それも、こんな、屁理屈と、パンと、寸止めに』


「《腐れ縁》の正式な戦術です」


『正式なの!?』


姉君の突っ込みが、初めて、妹と同じ音をした。


なお、観客席では、賭けの精算が行われていた。


「『妹+紳士の勝ち』的中!!……的中者は————ひなた、一名!!」


「ん。はいとう、もらう」


「あんた、いつの間に張ってたの!?」


「さいしょから。————かぞくは、まける きが しない」


「……その張り方は、賭けじゃなくて、信頼って言うのよ」


配当は、全額、今夜の夕食の材料費に化けた。信頼は、鍋になる。俺たちの経済である。


——夕方。焚き火の前で、ヴェイルは、正式に、宣言した。


『約束通り、門を開けるわ。……手合わせの判定を、言っておく。ヴィク。貴女の術は、五年前の三倍。出力じゃなく、質が、変わってた。独りの術じゃ、なくなってた』


「……ん」


『それと、主とやら』


金の瞳が、俺を、まっすぐに見た。


『貴方の眼と、あの拍子。……門の中で、要る。父さんの“止まった勘定”を、視て、読める目が。……妹を、頼むとは言わないわ。妹と、頼み合いなさい。それが、貴方たちの流儀なんでしょう』


「承知」


宣言のあと、ヴェイルは、俺たちの面々を、ひとりずつ、講評した。姉の採点である。


『大食いのお嬢さん。貴女の投擲、軌道が完璧。私たちの里で射手をやらない?』


「ん。フォルテが、いえだから、むり。でも、ありがと」


『即答の断りが気持ちいいわね。眼鏡の貴女。素還りの使い手。……その力、姉として礼を言うわ。妹の窮地を、二度、それで救ったと聞いた』


「え、あ、その……ど、どういたしまして?」


『剣士の貴方は、明日、塔の中では、たぶん一番働くことになる。危険度、上がるでしょうから』


「へへ、そりゃ楽しみだ」


『赤毛の貴女たちは、いい後詰め。玄人の位置取りだった。で、最後に』


金の瞳が、俺で、止まった。


『貴方は、保留。明日の塔で、見せてもらう。主の器とやらの、続きを』


「ふ。楽しみにされよ」


「(保留って、要は今日の点数じゃ足りなかったってことよね)」


「(黙っていろ、経理)」


『明日の朝、門を開ける。……全員、今夜は、よく眠りなさい。塔の中は、五十年ぶんの、静けさよ』


北の空の帯が、頭の真上で、静かに、流れていた。


その根っこの黒い針の頂きに、今夜も、色の変わらない灯りが、点いていた。


明日、あの灯りの、正体を見る。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。