↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
絆値、測定不能。〜親友4人でまとめて異世界転生〜  作者: ある


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

141/172

第141話 血の講義

翌日の昼、ゴルドの言葉どおり、氷の森が見えた。その日の野営は、森の入り口の、風のない窪地だった。


夕食後、焚き火を囲んで、ヴィク先生の講義が開かれた。北方古語講座・特別編。題目は「一族の魔法」である。


「明日から、氷の森に入る。森の奥には、古い術の痕が残ってるはずだ。だから、先に、基礎を教えておく。紫紺の炎の、話だ」


黒板はないので、先生は、雪面に、火箸ならぬ枝で図を描いた。


「普通の魔法は、世界の魔素を借りて、形にする。火、水、風。……でも、私の一族の魔法は、系統が違う。“繋がり”そのものを、力にするんだ」


「繋がり?」


「縁。絆。結び。……そういうものに流れてる力を、直接、束ねて、撃つ。紫紺の色は、その力の色だ。……だから」


先生は、少し、言葉を選んだ。


「だから、私の炎は、独りでは、弱いんだ」


「「「「…………」」」」


「五年間の一人旅で、私の紫紺は、灯みたいに小さかった。……フォルテに来て、お前たちの家に住んで、あの馬鹿げた毛玉の隣に居るようになってから————出力が、桁で、変わった。査定の的が消し飛んだの、あれ、半分はお前たちのせいだからな」


「俺たちのせいで的が!?」


「誇っていい方の“せい”だ」


「ん。つまり、ヴィクのまほうは————“なかまがいると、つよい”」


「…………身も蓋もなく言えば、そう、なる」


兵站長の要約に、先生は、耳まで赤くなった。焚き火のせいでは、ないと思う。


「い、いいか、続けるぞ!!で、この系統の魔法は、夜の民の中でも、使えるのは、ひとつの家系だけで————」


「その家系ってのは」


ゴルドが、何気なく聞いた。聞いてから、しまった、という顔をした。


ヴィクの枝が、雪面の上で、止まった。


「古い、家だ。……夜の民の、縁を、束ねてきた家。それ以上は————」


「おっと、いい!!いい!!聞かなかったことにしてくれ!!里長にも、詮索するなって言われてたんだ、俺は!!」


ゴルドは、慌てて、両手を振った。夜の民の側でも「聞かない礼儀」は徹底されているらしい。


俺は、椀の白湯を、ゆっくり飲んでから、いつもの調子で、割って入った。


「まあ、あれだ、ゴルド。一度あることは、二度ある」


「あん?」


「俺の眷属はな、秘密をひとつずつ、言える時に言う流儀なんだ。前科が一件ある。だから、いずれ二件目も来る。……気長に待つのが、俺たちの作法でな」


「……はー。なるほどな。あんたら、そういう」


ゴルドは、焚き火越しに、ヴィクと、俺たちの面子を見比べて、にっ、と笑った。


「いい隊だ。北の男が保証する」


「ふ、ふん。……当然だ」


先生の講義は、その後、実技に移った。


「繋がりの力の、感じ方を教える。全員、手を出せ。……ゴルドもだ」


「俺も!?」


十人が、焚き火を囲んで、輪になった。先生の指先に、小さな紫紺が灯り、それが、ゆっくりと、輪の上を一周した。


温かかった。火の温かさとは、違う種類の。


「……これが、繋がりの力だ。今、この輪の分だけ、灯ってる」


「……なあ。ちなみに俺、今、何も感じねえんだけど」


「隼人は、魔力が手元に残らないからな。全額、加護に持っていかれてる」


「爺さんにも言われたな。“全額、危険時の前借り”だと」


「だよなあ。————で、実際、今も、なんにも来ねえんだわ。あったかくもねえ。魔法もなし、絆スキルはあいつら頼み、体だけが資本」


軽口の調子だった。調子だけは。


「ん。でも————はやとの、からだは、“つながり”に、いちばん、しょうじき」


「……そうかあ?」


「あぶないとき、いちばんはやく、みんなを、しんじて、うごくから」


「…………飯、うまいな、今日も」


エースは、照れると、飯の話をする。


輪の中で、鼻をすする音がした。ゴルドだった。


「ゴルド。泣いてます?」


「泣いてねえ!!……北の男はな、いいものを見ると、目から、その、雪解け水が出るんだ!!」


「泣いてるんじゃないですか、それは」


「雪解け水だっつってんだろ!!」


北の男の語彙は、素直さの言い換えが豊富である。


「ん。……あったかい」


「なあ、ヴィク。これ、フォルテの皆の分も、乗ってるのか?」


「ああ。距離は、関係ないんだ。結ばれてるかどうか、だけで」


紫紺の小さな灯は、確かに、十人の輪より、ずっと大きく、明るかった。


灯の中に、フォルテの顔ぶれが、見えた気がした。


ちなみに、講義中に私語をした俺と隼人には、写経ならぬ“雪経”が科された。雪面に、指で、北方古語の文字を書くのである。


「つ、冷たい!!先生、これは体罰では!!」


「安心しろ。北の子供は皆これで字を覚える。伝統教育だ」


「北の子供、強すぎるだろ!!」


指先の感覚と引き換えに、俺の古語の綴りは、確かに三割上達した。身に染みる、とはこのことである。物理で。


——消灯前、観測日誌。


『特別講義、実施。特記: 私の魔法の種明かしを、半分だけした。残り半分は————まだ、荷物の中。……でも、荷物は、前より、軽い』


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。