↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
絆値、測定不能。〜親友4人でまとめて異世界転生〜  作者: ある


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

138/172

第138話 雪原の灰色

里の滞在、三日目の朝。それは、市場の噂話から始まった。


「灰色が、また、通ったらしいぞ」


凍り餅の屋台のおやじが、声を潜めて、隣の客に話していた。俺たちの耳(全員分)が、一斉に、そちらを向いた。


「おやじさん。今の話、詳しく」


「ん?ああ、南の客人か。……三日前だ。西の谷の牧場のじいさんが見た。雪原を、灰色の外套が二人、まーっすぐ歩いてったと。足跡も残さずにな」


「方角は」


「北北西。……塔の、方角だよ」


——里長の家で、緊急の寄り合いになった。


「灰色の目撃は、これで、今年に入って四度目じゃ」


里長が、北の地図を、囲炉裏の縁に広げた。目撃地点に、火箸で印がつく。四つの印は、ばらばらの場所から、しかし全部、北北西へ向かう線の上にあった。


「全部、塔へ向かっとる。……巡礼の帰り道、というよりは」


「集まってる、ですね。塔に」


「うむ」


沙耶が、帳面を開いた。


「整理するわよ。灰色の行動記録。王都で二人。キリノ里で二人、その時の言葉が『数えた。残り、ひとつ』。谷の岩壁で目撃一回。そして今、北で四度の目撃、全部塔方向。……ねえ、嫌な仮説を言っていい?」


「言え」


「“数える”のが、目録作りだとして。目録が、完成に近づいてるとしたら?『残り、ひとつ』が、目録の最後の一項目だとしたら?」


囲炉裏が、静まった。


「……で、数え終わった目録は、どうなると思う?」


「決まってる。提出、でしょ。どこかの、誰かに」


「その提出先が、塔の方角にある、と」


ヴィクが、地図の北北西の端を、じっと見た。塔の印は、地図の、いちばん上にあった。


「……急ごう。目録とやらが完成する前に、塔に着きたい」


——出立の支度は、その日のうちに整った。


里の衆は、驚くほど、協力的だった。橇が一台、供出され、保存食が積まれ、ゴルドが道案内に立候補した。


「氷の森までは、俺が知ってる。そこから先は————正直、誰も知らん。五十年、誰も行ってないんだ」


「充分だ。恩に着る」


出立の噂は、里を半周し、コルン村と同じ現象が起きた。差し入れ攻勢である。文化は違えど、婆の行動原理は大陸共通だった。


「凍り餅じゃ!!三十個!!」


「毛皮の敷物!!橇で尻が冷えるじゃろ!!」


「うちの角磨き油!!嬢様の角に!!」


「り、里の皆、あの、荷が、荷が増える……!!」


「観念しなさい、ヴィク。断る方が失礼なのは、あんたが一番知ってるでしょ」


「〜〜っ、ありがたく、いただきます!!」


また、ゴルドの見送りには、奥方と小さな娘が来ていた。娘が父の巻き角にしがみつき、「とうちゃん、つののおねえさまを、たのんだよ」と言った。ゴルドは「おう」とだけ言って、娘の頭を、大きな手で撫でた。北の男の別れは、短い。


里長は、出立の九人+一人に、戸口で、縁鈴をひとつずつ、渡した。


「旅の縁鈴じゃ。……夜の民はな、旅に出る家族の数だけ、鈴を持たせる。帰ったら、戸口に、掛け直すために」


「帰ったら、返しに来い、ということですな」


「そう。十個、貸すからの。十個、返しにおいで」


「「「「「はい!!」」」」」


ヴィクは、自分の鈴を、篭手の紐に、そっと結んだ。


——夕方の出立の間際、里長が、最後に、ヴィクだけを呼んだ。


囲炉裏の間で、二人きりの話は、長くはなかった。戻ってきたヴィクの顔は、白くて、でも、まっすぐだった。


「……何を言われたか、聞かないぞ。荷物の約束なので」


「ん。……ひとつだけ、共有する。里長は、こう言った。『塔で何に会うても、驚きなさるな。五十年は、人を、変えるには長すぎる』と」


「ふむ」


「……覚悟しておけ、って意味だと、思う。私も、お前たちも」


見送りには、里の子供らも、総出で来ていた。


「くろいひとー!!また、うたってねー!!」


「無論である!!次はもっと良い歌を仕込んでくる!!」


「おおぐいひめー!!こおりもちの、たべかたのしんきろく、まっててー!!」


「ん。じゅうさんこ、こえてみせる」


「つののおねえさまー!!……えっと、その、また、きてね!!」


最後の子は、ヴィクに、押し花を一輪、渡した。北の、冬の花だという。ヴィクは、それを写しの束の間に、そっと挟んだ。


橇の鈴が、鳴った。夕暮れの雪原を、十人と一台が、北北西へ、滑り出した。


背後の里の灯が、小さくなっていく。前方の空には、あの帯。そして、その根っこに————まだ見えない、塔。


灰色より先に、着かねばならない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。