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絆値、測定不能。〜親友4人でまとめて異世界転生〜  作者: ある


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第132話 雪洞の夜、詠唱二重奏

夜の民の地の、最初の野営である。


集落までは、あと二日。今夜は谷あいの雪原に、雪洞を二基掘って泊まることになった。特訓の成果で、設営は四半刻。教官に見せたい手際だった。


夕食(ひなたの煮込み・北仕様の濃いめ)のあと、雪洞の中で、恒例のあれが始まった。


「では我が眷属よ!!北の空の下、記念すべき初の、アレを!!」


「こ、ここでもやるのか!?姉御たちが居るんだぞ!?」


「見せてやれ見せてやれ〜。あたしら、聞きたかったのよね、噂のW詠唱」


「姉御まで!!」


観念した眷属は、こほんと咳払いをして、篭手を、掲げた。


「“夜を統べる一族の血よ”」


「“我が右腕に眠る漆黒よ”」


「“封印の篭手の下、血に眠る古の力よ”」


「「“————今宵ひとたび、目覚めるなかれ”」」


雪洞に、二重の詠唱が、朗々と響いた。


響いて、外の雪原で、こん、と小さな音がした。


「「「「「…………」」」」」


「な、なんか今、外で音がしたぞ」


「雪が枝から落ちただけでしょ。……たぶん」


俺は、身を乗り出した。


「い、いや、待て。今のW詠唱、北の空の下でやると、妙に、こう、本格的な響きがだな」


「ん。……ちょっと、ほんものみたいだった」


「や、やめろ。縁起でもない。ごっこは、ごっこだ」


ヴィクが、篭手を、そそくさと下ろした。下ろしたが、その横顔が、少しだけ、考え込む色をしていた。


「(……今の、気のせいだよな。詠唱の途中、篭手が、微かに、温かった、ような)」


「(気のせい、ということにしておけ。今夜はな)」


ちなみにW詠唱の観賞後、《酔いどれ猫》から、まさかの申し出があった。


「なあ、紳士くん。あたしらにも、ああいうの、作ってくれない?技名っての?」


「なんですと」


「いや、見てたら、こう、うらやましくなってさ。あたしら十年やってるけど、技に名前つけたこと、ないのよね」


「よくぞ言った、姉御!!俺の本領である!!————では姉御の斧の一撃は≪酔月斬(すいげつざん)≫!!ミロの三連射は≪流星の帳(とばり)≫!!デガンの盾打ちは≪岩窟の目覚め≫!!サラの投擲は≪宵闇の指先≫!!」


「即興で四つ!?しかも、ちょっと格好いい!?」


「ちょっとどころではない。俺は十年、この日のために語彙を蓄えてきた」


翌日から、《酔いどれ猫》は戦闘中に技名を叫ぶ隊になった。B級の風格が、少し、俺たちに寄った。責任は、感じている。少しだけ。


——夜が更けて、見張りを交代しながら、ぽつぽつと、故郷の話になった。


「なあ、ヴィク。お前の故郷の冬って、どんなだ」


「……長い。半年、雪の下だ。だから、冬支度が、一年の半分を占める。保存食を仕込んで、薪を積んで、それで、冬の間は、皆で集まって、歌と、話と、手仕事をする」


「へえ。意外と、のどかね」


「のどかだよ。夜の民の冬は、のどかなんだ。……外の伝承だと、氷の城で吠えてることになってるらしいけどな」


「吠えてないんだ」


「吠えない。歌ってる」


ヴィクは、雪洞の天井を見上げて、少しだけ、笑った。


「冬の歌が、たくさんあるんだ。結びの歌。ほどきの歌。灯の歌。……ばあやが、全部、覚えてた。私は、半分も覚えてない。覚えてるうちに、聞いておけば、よかった」


「なら、里に着いたら、集めような。歌」


「……ん?」


「北方古語講座・応用編の教材にする。あと、俺が単純に聞きたい。夜の民の冬の歌。絶対、格好いいので」


「…………ふ。ふふ。お前は、本当に、ぶれないな」


「ぶれない男である」


——見張りの最後の番、俺とヴィクの回。


雪洞の入り口から、北の空を見た。晴れていた。星が、痛いほど多い。そして、あの帯が、近かった。フォルテから見上げた遠い染みではなく、空の三分の一を、薄く覆う、巨大な流れとして。


「……近づいてるんだな、本当に」


「ああ。……そして、あの帯の根っこに、塔がある」


見張りの前半、ヴィクが、星の講義をしてくれた。


「北の星座は、南と名前が違う。あれが“織り機座”。あっちが“結び針座”。で、あの一番明るいのが————“帰り星”」


「帰り星」


「旅人が、家の方角を確かめる星だ。北の子供は、最初にあの星の名前を覚える。……迷ったら、帰り星を探せ、って」


「ほう。……ちなみに今、あの星は、どっちを指してる」


「…………南。————フォルテの方角だ」


「なら、俺たちの帰り道は、安泰だな」


「ん。……安泰だ」


「なあ、ヴィク。ひとつ、聞いていいか。……お前の探し人は、なんで、塔に居るんだ」


ヴィクは、長いこと、黙った。


黙って、それから、囁くように言った。


「約束、だから」


「約束?」


「…………それ以上は、まだ、荷物の中だ。……重くなったら、言う」


「受理した」


星空の下、二人分の白い息が、北へ流れて、消えた。


明後日、夜の民の里である。


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