↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
絆値、測定不能。〜親友4人でまとめて異世界転生〜  作者: ある


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

125/172

第125話 雪解けの朝

出立の朝は、雪解けの匂いがした。


屋根の雪がゆるみ、軒先で水滴が数を数え、大通りの石畳が、冬の間で一番濃い色をしていた。北行き日和、である。


東門の前は、人で埋まっていた。


「すごい人ね……街の半分、来てない?」


「フォルテは、見送りに全力を出す街なんだ」


門前には、馬車が二台。一台は荷。もう一台は交代の仮眠用である。積み荷は、黒パン三十個、樽ひとつ、保存食の箱、装備、写しの束、二針の羅針盤、そして回覧板(全部持っていくと沙耶が決めた。「帰る理由は、多いほどいいの」)。


「よし、点呼!!《腐れ縁》!!」


「「「「「五名、そろってる!!」」」」」


「《酔いどれ猫》!!」


「四名、二日酔いなし!!……今日はね!!」


見送りの声が、次々に飛んだ。


「けいご様ー!!腰、入れて歩くんだよー!!」


「コルン村から来たんですか!?ばあちゃんズ!!」


「嬢ちゃん!!磨き布、ちゃんと使いなさいよー!!」


「つ、使う!!使うから!!」


「観測、任せてください!!毎朝、捺します!!」


「ん。コタ、しんらいしてる」


「ぐすっ……はいっっ!!」


グスタフさんが、正式依頼の書状を、俺に手渡した。


「北部方面調査、依頼主フォルテ支部。……行ってこい、うちの一番出鱈目な連中。北の“気味の悪い”のに、フォルテの流儀を見せてやれ」


「ガハハ、と笑うところですよ、支部長」


「ガハハ!!」


今日のガハハは、無理のない、いいガハハだった。


ヘクトルさんは、腕を組んで、門柱の陰に立っていた。何も言わない。何も言わないが、全員の装備を、上から下まで、二度ずつ検分していた。


「教官。行ってきます」


「……ふん。耳当てを、しろ。もう」


「門を出てからします」


「今しろ!!」


九人、全員が耳当てを装備したのを見届けて、教官は、ようやく頷いた。


——そして、最後に、シリルたち《暁の誓約》が、進み出た。


「圭吾くん。餞別、というか……僕らから、これを」


差し出されたのは、一枚の紙だった。びっしりと、四人分の筆跡で、何かの一覧が書いてある。


「僕らの遠征五年分の、北方の宿と水場と、危ない崖の一覧。……綺麗にまとめようとしたんだけど、途中で喧嘩になってね。四人分の字で、ばらばらで、余白は文句だらけだ。……読みにくいと思う」


「いや」


俺は、その紙を、押し頂いた。


「最高の地図だ。工事中の先輩より」


「はは。その呼び方、気に入ってるんだ、実は」


出発直前、沙耶が、全員に小冊子を配った。題名『北行きのしおり』。行程表、当番表、緊急時の合図、そして最終頁に「旅の心得」が三箇条。


一、はぐれたら、その場で待つ。二、無理は、申告してからする。三、————喧嘩は、移動しながらでもできる。


「三条目、こっちの実情に寄り添いすぎでは?」


「実情に寄り添うのが、良い規則なのよ」


「ん。さんじょうめ、いちばん、たいせつ」


——出発の刻限が、来た。


「総員、乗車!!出るぞ!!」


車輪が、回り始めた。見送りの声が、波になって押し寄せて、だんだん、遠くなっていく。


門をくぐる瞬間、ヴィクが、振り返った。


フォルテの街並み。湯屋の煙突。教会の屋根。ギルドの旗。そして、俺たちの家の、あの屋根。


「……行ってきます、だな。こういう時は」


「ん。せいかい」


「行ってきまーす!!」


九人分の声が、揃って、東門の空に抜けた。


————北へ。


馬車は、雪解けの街道を、走り出した。


門が見えなくなると、馬車の中は、しばらく、静かだった。


騒がしい隊の、珍しい静けさである。誰も泣いてはいない。いないが、全員、フォルテの余韻を、それぞれの窓で、噛んでいた。


沈黙を破ったのは、例によって、腹の音だった。


「ん。……そろそろ、おやつ」


「「「「ふっ」」」」


「よし、おやつだ!!旅の一回目のおやつである!!」


静けさは、おやつと共に終わった。俺たちの旅は、こうでなくては。


御者台の俺の隣で、ヴィクが、羅針盤を覗き込んだ。上流の針は、今日も、ぶれずに北を指している。


「……なあ、圭吾。改めて言うのも、変だけど」


「ん?」


「ついてきてくれて、ありがとう。……この旅の間に、一回だけ、言っておきたかった。今のうちに」


「うむ。受け取った。……ちなみに、あと二回くらい言ってもいいぞ」


「一回だと言っただろ!!」


旅の初日は、上々の騒がしさで、始まった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。