↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
絆値、測定不能。〜親友4人でまとめて異世界転生〜  作者: ある


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/172

第11話 汚い連携と褒められた

特例昇級試験、当日の朝。


ギルド裏の大訓練場は、ちょっとした祭りになっていた。


柵の外には野次馬の冒険者がずらり。犬耳の獣人が身を乗り出し、ドワーフの一団が朝から賭けを始め、どこかのエルフが優雅に観戦席を確保している。聞こえてくる噂話は、二組の受験者の名前ばかりだった。


片や——期待の星、《暁の誓約》。


片や——例の、《腐れ縁》。


「なんか、俺たちの名前の前だけ“例の”って付くんだけど」


「実績のせいでしょ。主に、森を消したあたりの」


柵の向こうでは、ドワーフたちが賭けの胴元を始めていた。倍率が板に書かれている。《暁の誓約》の合格、1.2倍。《腐れ縁》の合格、11倍。


「おい見ろ、俺たち11倍だぞ。舐められてんなあ」


「……なあ、沙耶。残高、いくらだっけ」


「銀貨1枚と銅貨8枚。——って、まさかあんた」


「俺たちが俺たちに賭ける。合格すれば十一倍。これは投資だ」


「受験者が自分に賭けるな!!規約違反で全部飛ぶわよ!!」


「ちっ」


「今、舌打ちしたわね?二人とも今、完全に本気だったわね?」


やぐらの上から、グスタフさんの声が響いた。


「揃ってるな!これより、特例昇級試験を始める!第一部は実技——試験官への模擬戦だ!武器は刃引き、魔法は非殺傷等級まで!……で、だ。試験官を紹介する」


グスタフさんの隣に、長身の影が立った。


灰色の髪。ぴんと立った狼の耳。軍服みたいに着込んだ制服の、襟の先まで一分の隙もない——狼の獣人だった。


「試験官を務める、ヘクトルだ。元Bランク。……礼と、規律と、連携。冒険者に必要な三つを見る」


低い声が、訓練場の空気をぴしりと引き締めた。


「(おい、聞いたか。礼と規律だってよ)」


「(私たちに一番ない三つが来たわね)」


「(帰っていい?)」


「(私語をやめろ、聞こえるぞ)」


ヘクトルさんの狼耳が、ぴくり、とこちらを向いた。獣人の聴覚を、俺たちは甘く見ていた。


「——そこの四人。試験前から減点されたいか」


「「「「すみませんでした」」」」


「(おい、条件反射で謝るの、そろそろ癖になってるぞ俺たち)」


先攻は、《暁の誓約》だった。


そして、それは——お手本というものを、初めて見た気分だった。


シリルさんの剣が正面を制し、槍が側面を塞ぎ、盾が退路を守る。ミアさんの支援魔法が、途切れることなく三人を包む。ヘクトルさんの鋭い突進を、四人は隊形を一度も崩さずに受け切った。


「美しい……」


「連携って、ああやるのね……」


ちなみにミアさんの詠唱姿は見事だった。主に杖さばきが。視線を顔の高さに固定するのに、俺は紳士力の八割を消費した。残りの二割で拍手をした。


「模擬戦、終了!《暁の誓約》——文句なしの合格点だ!」


割れるような拍手。シリルさんたちは、汗ひとつかかず一礼した。眩しい。今日も眩しい。


「次——《腐れ縁》、前へ!」


俺たちは柵の中に入り、円陣を組んだ。まずは、いつもの会議である。


「よし。作戦確認だ。沙耶、残高」


「銀貨1枚と銅貨8枚」


「ひなた、発射許可は」


「出ません」


経理は無情である。ひなたは「はーい」と、ぽてぽて逃げ回り組の位置についた。本日の布陣——大砲は封印、エース隼人、残り三人は“走る応援団”。


「おい、そこの四人」


ヘクトルさんの眉が、ぴくぴくしていた。


「なぜ、魔法使いの娘を後ろに下げる。貴様らの最大戦力だろう」


「予算の都合です」


「……よさん?」


「気にしないでください。こっちの事情です」


「試験前から俺を混乱させるな!!——構え!!始めッ!!」


開始の合図と同時に、俺たちは全力で逃げた。


「散れッ!!沙耶、右だ右!遅いぞ、その足は飾りか!?」


「あんたこそ今、完全に迷子の走り方だったでしょ!!心の目とやらはどうしたのよ!!」


「心の目は今、別のものを視ている!——来るぞ、左!ヘクトルさんは右利き、初撃は必ず左から回る!!」


加護は、便利だった。ヘクトルさんの筋肉の張り、重心、癖。全部視える。当たらなければ、どうということはない。


「ちょこまかと……逃げるだけでは、試験にならんぞ!!」


「逃げてない!!これは“戦術”だ!!」


宣言した直後、風が唸った。ヘクトルさんの本気の踏み込み。狼の脚力は、伊達ではなかった。


「ぬるいわァッ!!」


「速っ——沙耶、伏せろ!!」


「きゃっ——ちょ、今、髪掠めたんですけど!?」


「掠めただけありがたいと思え!ほら立て、走れ、口を動かせ!止まったら終わりだぞ!」


「分かってるわよ!!この、朝から変態の指図で走らされる人生、何なのよ!!」


「その罵倒いいぞ、もっとくれ!!」


「体が軽くなるのが本当に腹立つ!!」


罵り合えば罵り合うほど、俺たちは速くなる。ヘクトルさんの爪が、突きが、面白いように空を切り始めた。


「隼人ォ!調子はどうだ!」


「Bランク相手とか、最ッ高に調子いいわ!!」


罵倒と実況が飛び交うたび、【売り言葉に買い言葉】の光が足元で強くなる。強化された隼人が、ヘクトルさんの突進に正面から打ち合った。刃引きの剣と剣が、鈍い音を立てて噛み合う。


「ほう——ッ!?」


「そらそら教官殿、脇が甘いんじゃないっすか!」


「減点だ貴様ァ!!」


「ひなた!弾持ってこい!例のやつだ!」


「ん。残弾、八」


「補給管理まで完璧か、俺たちの兵站は」


ひなたが、逃げ回りながら黒パンを投げてきた。俺はそれを受け取り——投げ返した。ヘクトルさんの、足元へ。


「なんだこの硬い物体は!?パンか!?パンなのか!?」


「弊パーティの正式装備です!!」


踏んだヘクトルさんの体勢が、一瞬崩れる。隼人の剣が、その隙に喉元へ、ぴたりと突きつけられた。


——場内、静寂。


「…………ま」


ヘクトルさんは、剣を下ろして、天を仰いだ。


「まさか、この俺が……罵り合いと、パンで……」


「模擬戦、終了ォ!!」


やぐらの上で、グスタフさんが腹を抱えて笑っていた。観客席は、拍手と爆笑が半々だった。ドワーフの賭けは、大荒れらしかった。


「なんだ、その……その、“汚い連携”は!!」


ヘクトルさんが、髪を逆立てて吠えた。俺は、胸を張って答えた。


「褒め言葉として、受け取ろう!!」


「褒めてない!!」


やぐらの上では、ヘクトルさんがグスタフさんに食ってかかっていた。少し聞こえてくる。


「支部長。本気で、あれを通すおつもりですか」


「ガハハ。面白かっただろう?」


「面白さで冒険者の等級を決めないでいただきたい!!」


「なら聞くが——お前、あいつらに勝てたか?」


「…………次は勝ちます」


「ガハハハハ!」


——結果発表。


《暁の誓約》、模範的合格。


《腐れ縁》、「型破りにも程があるが、実戦的」として、保留付き通過。


「言っておくが」


解散間際、ヘクトルさんが俺たちの前に立った。狼の目が、すっ、と細くなる。


「第三部の“絆スキル運用審査”は、この俺が担当する。……貴様らのそのふざけた絆とやらの化けの皮、必ず剥いでやる。覚悟しておけ」


言い捨てて、去っていく背中を見送りながら、俺たちは顔を見合わせた。


「……仲間割れを仕掛けてくる担当が、俺たちに宣戦布告してきたわけだが」


「毎日仲間割れしてる俺たちに、なあ」


「プロに喧嘩を売ったわね、あの人」


「おなかすいた」


明日は第二部、依頼遂行の査定。だが本当の勝負は——その先にある。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。