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絆値、測定不能。〜親友4人でまとめて異世界転生〜  作者: ある


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第10話 装備更新はパン屋で

特例昇級試験まで、あと四日。


パーティ《腐れ縁》は、朝から訓練場の隅を借りて、昨日編み出した新戦術の練習をしていた。


——傍から見ると、どう見えていたかは、知らない。


「ほら沙耶、足が遅い!その眼鏡は飾りか!あ、飾りだったな!!」


「うるさいわね伊達眼鏡を掘り返すな!あんたこそ前髪が視界に入ってて逃げ道見えてないでしょ!!」


「見えている!心の目でな!!」


「心の目は零点でしょうが!!」


俺と沙耶が全力で罵り合いながら訓練場を逃げ回り、その後ろを隼人が追いかけ回す。それだけの光景である。


だが——効果は、あった。


「おっ、おっ、すげえ。罵倒が乗るたびに、体が軽くなる」


追う側の隼人が、感心した声を上げた。【売り言葉に買い言葉】。俺と沙耶の醜い応酬は、確かにパーティ全体の燃料になっていた。


「見たか。これが我らの新戦術——雑魚二人が逃げて罵って、強化された二人が殴る!」


「……とはいえ、普段の狩りは隼人殿一人で片付くのですじゃろう?」


「その通り!ゆえにこれは非常用だ。群れに囲まれた時、デカブツの暴れに巻き込まれた時——“戦えない二人が生き延びたまま、全員を強くする”ための型よ!」


「要するに保険よ。掛け金が私の尊厳なのが納得いかないけど」


「作戦としては、悔しいほど合理的ですじゃ」


見学のじいさんが、遠い目で言った。


「ただ、朝のギルドで見る光景としては、地獄ですじゃ」


実際、掲示板前の冒険者たちが、こちらを見てひそひそやっていた。曰く「あのパーティ、朝から鬼ごっこしながら罵り合ってる」。「あれで強くなるらしい」と続いて、締めは「世も末だ」だった。


言わせておけ。俺たちの絆は、測定不能である。


ちなみにひなたは、その横で黙々と投擲訓練をしていた。得物は、もちろん黒パンである。


的の丸太に、ゴッ、ゴッ、と鈍い音が規則正しく響く。距離二十歩。百発、百中。


「……なあ。あいつの投擲、そこらの魔法より強くないか」


「気のせいよ。気のせいってことにしましょう」


丸太が、めきり、と嫌な音を立てた。俺たちは見なかったことにした。


——昼。俺たちは装備の更新に出かけた。


まず武具屋。店主は、髭を三つ編みにしたドワーフのじいさんだった。入って三十秒で、俺は運命に出会った。


壁にかかった、漆黒の大鎌。


「じ、じいさ……店主!あれは!!」


「ん?ああ、装飾品だよ。観賞用。銀貨20枚」


「にじゅう」


「買えるわけないでしょ。行くわよ」


「待て!待ってくれ!せめて値段交渉を!おい沙耶、引っ張るな!運命が!俺の運命があそこに掛かってるんだ!!」


「あんたの運命、観賞用じゃない」


隼人は中古の剣を眺めて「これ買って転売したら」と呟いて沙耶に叩かれ、結局、購入したのはナイフの研ぎ直し(銅貨12枚)だけだった。


そして俺たちは、本命の店へ向かった。


——パン屋である。


「いらっしゃい。……ああ、昨日の。今日は何個だい?」


「硬いやつを十個。一番硬いやつを頼む」


「うちのは携行食であって、武器じゃないんだけどねえ」


店主のおばちゃんは苦笑しながら、石のような黒パンを十個、袋に詰めてくれた。銅貨20枚。ボアの主の眉間に直撃した実績を持つ、我がパーティ随一の飛び道具である。


「投擲兵器、十発補充。単価、銅貨2枚」


「沙耶さん、それ、帳簿につける項目名は……」


「『弾薬費』よ」


「パンなんですけどねえ」


——試験まで、あと二日。


その日も訓練場に行くと、先客がいた。


四人組だった。白銀の軽鎧を揃いで着込み、隊列を組んで、流れるような連携の型を繰り返している。剣士が斬り込み、槍が追い、魔法使いが支え、盾が守る。動きのひとつひとつが、教本の挿絵みたいに正確で——美しかった。


「なんか、まぶしいのが居るんだけど」


「ああやって動くのが正解なのね、パーティって……」


「よし、俺たちもやってみるか。あの隊列」


物は試しである。俺たちは訓練場の隅で、こっそり真似をしてみた。先頭に隼人、俺と沙耶が中衛、ひなたが後衛。掛け声に合わせて、斬り込み、追い、支え——


三歩で、隼人の踵が俺のつま先を踏み、よろけた俺が沙耶にぶつかり、沙耶の眼鏡が飛び、それを拾おうとしたひなたと沙耶の頭が激突した。


「「「「…………」」」」


「解散」


「私たちには早かったわね、隊列」


「早いというか、たぶん一生無理だろ」


見なかったことにして顔を上げると——先頭の剣士がこちらに気づいた。金髪を短く整えた、爽やかを絵に描いたような青年である。青年は仲間に一声かけ、まっすぐこちらへ歩いてきた。


「失礼。——あなた方が、《腐れ縁》の皆さんですね」


「え。あ、はい」


「お会いできて光栄です。《暁の誓約》のリーダー、シリルと申します」


差し出された手を、反射的に握った。握力まで爽やかだった。


「お噂はかねがね。絆値測定不能——それに、森の主の討伐も。同じ特例試験を受ける者として、お会いしたいと思っていました」


「あ、ども……《腐れ縁》の圭吾です……」


「良いお名前だ。長い付き合いの絆を誇る、実直な名前ですね」


「「「「(いい奴だ……!)」」」」


嫌味が、ない。本当に、ない。噂の色物パーティに対して、目の奥まで真摯だった。


「そうだ、仲間を紹介させてください。——みんな!」


シリルさんが手を挙げると、三人が駆け寄ってきた。走り方まで揃っていた。


槍使いの大男と、盾持ちの青年の名前も聞いたはずだが、正直、頭に入らなかった。理由は、後述する。


「魔法担当の、ミアと申します」


ぺこり、と頭を下げたのは、白いローブの女性だった。——って。


でかい。


いや、言い方を選ぼう。豊かだった。実に、豊かだった。白いローブの胸元が、挨拶のお辞儀ひとつで、物理法則の講義を始めていた。


隼人が、真顔で明後日の方向を見た。見てないふりをして全部見ているやつの顔である。


俺は——紳士である。逸らさなかった。堂々と、敬意をもって、正面から向き合った。


加護が、発動した。


——身長。体重。パンt——


(言わぬ。言わぬぞ。墓まで持っていく。だが————)


「————素晴らしい」


「出てる出てる出てる」


隼人が小声で言った。知っている。本心なので撤回はしない。


「え、ええと……何が、でしょう?」


「あなたの、日々の研鑽がです。杖の握りだこ、指先の魔力の澄み方——一流の魔法使いとお見受けした」


嘘は言っていない。視えた情報のうち、公開可能な部分だけを言った。紳士とは、そういうものだ。


「まあ!ありがとうございます!」


ミアさんは、ぱあっと顔を輝かせた。善人だ。眩しい。この一団、全員眩しい。


——ぴしり。


隣から、空気の凍る音がした。この音、最近よく聞くな。


沙耶が、笑顔のまま、目だけ笑っていなかった。その視線は、ミアさんの顔——より、やや下の高度で固定されていた。


「(……勝てる要素が、ひとつも、ない……)」


「沙耶、声に出てる」


「ミアさん、二属性なんですって?奇遇ね、私もなの」


「まあ、お仲間ですね!得意な規模はどのくらいですか?」


「……………………そよ風と、コップ半分」


「?……ごめんなさい、詩的な表現は、ちょっと」


「本当にその規模なのよ!!悪かったわね!!」


「三百三十三」


「隼人、数えるな!!」


「圭吾さんは、観察眼が素晴らしいのですね!ミアの研鑽を一目で見抜くとは……ぜひ、試験でお手合わせを!」


シリルさんが、心底嬉しそうに笑った。誤解が、いい方向にしか転がらない男である。


「(眩しい……顔が良くて、性格も良くて、強い……クッ、なんなんだ、この生き物は)」


「我々は“正しい絆”を志しています。規律、信頼、犠牲を恐れぬ心。……ですが、あなた方の絆は、我々とはまったく違う形をしていると聞きました。当日、ぶつかれるのを楽しみにしています」


シリルさんは、綺麗に一礼して、仲間の元へ戻っていった。連携の練習が再開される。掛け声まで美しかった。


「「「「…………」」」」


俺たちは、しばらく黙ってそれを見ていた。


「……いい奴すぎて、逆に怖いんだけど」


「まぶしくて目が痛い」


「あれが“正しい絆”……。私たちのと同じ制度で測られてるの、あっちに失礼じゃない?」


「ねえ、あのお昼、おいしそうだった」


「お前はどこを見てたんだ」


「……なあ、隼人。神は二物を与えずと言うが、あれはいくつ持ってるんだ」


「顔、性格、実力、人望。四物だな」


「四物……この世界の配分、公文書級の不公平だぞ」


「お前だって変態と中二の二物持ちだろ」


「いらん方の二物だが!?」


「ちなみにミアさんは、才能と、その、アレの二物ね……」


「沙耶、お前の声が一番暗いんだよ」


正しく、美しく、眩しい。彼らはたぶん、俺たちが一生かけてもなれない何かだ。


——だが。


「フッ……面白い。ならば見せてやろうではないか」


俺は、前髪を(魔法で)そよがせながら宣言した。


「“汚い絆”の底力というものを」


「今の魔力、無駄遣いね」


「戦術の一部だが?」


——そして、試験前夜。


ギルドの酒場で、リタさんが明日の試験内容を教えてくれた。


「特例昇級試験は三部構成です。第一部、実技——模擬戦形式。第二部、依頼遂行の査定。そして第三部が……」


リタさんは、なぜか俺たちから目を逸らした。


「……“絆スキル運用審査”です。試験官が、その、わざと仲間割れを仕掛けます。土壇場で絆が崩れないかを試す、この世界ならではの試験でして」


「「「「…………」」」」


俺たちは、顔を見合わせた。


「仲間割れを、仕掛けられる」


「毎日してるが?」


「むしろ本業では?」


「私たちの朝の挨拶みたいなものよね」


「皆さんのそういうところが、試験官にどう出るか、私は今から胃が痛いです……」


リタさんの胃に幸あれ。


「はい、じゃあ試験前の最終会計いくわよ」


沙耶が帳面を開いた。


「残高、銀貨1枚と銅貨8枚。内訳、教本に銀貨1枚、研ぎに12枚、弾薬費——パン代20枚」


「試験に受かれば、Dランク。報酬の桁が変わる」


「そうしたら、まずは装備ね」


「ああ。まずは大鎌だな」


「装備の定義から話し合いましょうか、私たち」


窓の外、フォルテの夜空に、知らない星座が瞬いていた。


——明日。試験が、始まる。

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