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女軍師の話。その二

 淀桂よどかつら方面を攻めてくるリヒト兵に関しては、私の師匠、加賀美様からの評価は決して高くありませんでした。

 そもそもが、『カンプフ・フュア・ディー・フライハイト』で、全滅するはずだった隊です。

 

 運よく生き残ったせいで、我々が淀桂から離れるわけにいかなくなった恨みはあります。

 しかし所詮は本国から見放された兵。

 皇子スタンウェイの他に三名ほどの将がいると聞いてましたが、軍師アルフレートは理屈一辺倒の教本主義者。

 火炎将軍ヴォルフは、絵に描いたような猪武者。

 唯一警戒していたのは情報の少ない大男のレオンでしたが、彼一人で戦況が覆るなんて我々は思っていませんでしたから。

 

 仙野多摩せんのたまが制圧された今、淀桂から動けないと言うのは、私たちといたしましても悶々とした日々でございました。


 その中でも、中荒隅なかあらすみ奪還の報は、我々京武士達を大いに熱狂させました。

 千人ほどのリヒト兵を、わずか数名で追い払ったって言うんですから。

 

 当時は流石に誰もそんな話は信じませんでしたが、私の師匠、車沢加賀美くるまざわかがみ様はその報を聞いた瞬間に、こうやって膝をポン! っと強く叩かれたのを覚えております。

「これぞ晶くんの兵法だ。彼一人で京武士五百に値する」

 なんて、自分の息子を自慢するかのように喜んでらしたのを覚えております。

 

 懸念されたこともありました。

 中荒隅は奪還。しかし、村は焼け落ち、拠点としての機能を果たさなくなったことです。

 

 かの村は、単なる国境地帯としての役目があっただけではありません。

 なぜなら、京国の主要都市は西部に密集しており、中荒隅は西部国境地の盾としての役割を果たしていたのです。

 

 仙野多摩せんのたまが制圧された現状で、中荒隅と言う拠点が機能しないと言うことは、リヒトからしてみれば隅扇島や仙神堀と言った大都市を直接攻められることを意味していますから。

 

 晶様が本国の命が下るより先に、中荒隅の再興に向けて動いたのも、その辺りの事情を理解していてのことだと思います。

 ええ。それで中荒隅の代わりに、かの場所に建てられた都市が、後の『玉隅たますみ』にございます。


 再興に向けて、晶様は一人、京国中を奔走していたと聞きます。

 そして……加賀美様からも私に向けて、彼を補佐するよう言い付けられたのです。


 元々、将軍府で働けるのは、『試験』で三位以内を取ったものだけ。

 四位だった私にその資格は本来ないのですが、一位の菊千代様は将軍府を辞退。

 二位の晶様は故郷、中荒隅に帰郷と言うことで、繰り上がりで私が登用されました。

 本来、女性である私が軍の仕事につけるなんて、奇跡のようなものです。

 

 * * * * *


「旅支度はしっかり済ますのよ」

 

 淀桂を出発前に声をかけてくれたのは、姉弟子の晴美姉はるみあねさんでした。

 

「今、仙野多摩は占領下にあるから、通行止めの場所が多いからね」


 厳しくも、いつも心配してくれる。姉弟子はそういう人々でございました。


「あれ、実峯じつみねどっかいくのか?」


 呑気な足音が近づいてくると、実質加賀美師匠の一番弟子である仁兄ひとしあにさん。

 加賀美師匠に惚れ込み、加賀美師匠の厳しい修行を乗り越えてきた方です。


「中荒隅に行って参ります」


「中荒隅!? ……って今なんかあるのか?」


「今から復興するんだって、そういう話だったでしょう! 聞いてなかったの!?」


「ええ……? そうだっけ?」


 晴美姉さんと仁兄さんの言い争いも、いつもの光景です。


「まあ気をつけて行ってこいよ。実峯が中荒隅に着く頃には、俺らがニーナ・ハーゲンを占領してると思うけど」


 そう言って、仁兄さんは、私の背中を叩いてくれました。


 こうして私は、一度滅んだ中荒隅に旅だったのです。



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