ヴェーザー夜襲
神よ許したまえ。
神は絶対なり。その御霊に抱かれて、我は勇気と安らぎを得る。
「退け! 拙者は京武士なぞやめるにござる!!」
その正しき流れは、我の正気を保つ。
その激しき流れは、全ての悪を断つ。
その途切れぬ流れは、善悪を正しく秤にかけ、大海まで導く。
「貴様らがやっているのは信仰ではござらん! 責任転嫁にござる! 拙者はそんなものを断じて武士とは認めん! ましてそれで死ぬなどと!!」
神よ我に力を与えたまえ。
我の罪を洗い流し、殉ずる時も真水の如く清らかなまま、その御許まで流したまえ。
* * * * *
(神よ許したまえ)
いくら祈っても、神は忘れたい記憶を洗い流してはくれない。
一生罪を背負い、懺悔していくことなのだろう。
そして、この罪が消える時に、自分は神の御霊と一つになるのだろう。
リヒト国、首都隣接都市、ヴェーザー。
時刻は真夜中。
握っている刀には、敵将の真っ赤な血。
それから立ち会ったリヒト兵達数名の血。
背後には焼け落ちる城。遠くを見れば、煙。おそらくは兵糧庫。
そして……
「亡霊だ!! 亡霊が出たぞ!!」
「こっちだ! 逃すな!!」
自分を探し回る、リヒトの兵、数千。
晶は表通りを避けて駆け出した。
ふと、いつぞやの『軍略試験』の時に、提出した解答を思い出した。
敵の数五千に対し……こちらは敵将に一人、兵糧庫に一人。
あとは、本隊が来るまで逃げ回れば勝ち。
「……但しそれは、あくまでここが京国で、地理を完全に把握している場合に限る……にござる」
そして、ここに京武士の本隊は来ない。
大勢の足音に気がつくと、狭い通路から、前にも兵、後にも兵。それぞれ、幾百に達するかという数である。
晶は黙って剣を構える。不思議と落ち着いていた。
向かってくる敵を落ち着いて突きで処すと、二人目を胴抜き。
後に睨みをきかせる。
そして前から同時にかかってくる三人に対し、攻撃を刀の腹で受ける。
その間に後ろからリヒト兵が駆け込んでくるのを……
「がは!!」
いつの間にか、天井の低い平家を飛び越えて、背中にレイドヴィヒがついた。
「……かたじけない」
「……いいの」
晶は前面の三人を払い、胴払い、突き、突きで処す。
それを皮切りに兵達が流れ込んでくる。
晶とレイドヴィヒはそれぞれ奮戦する。
剣と剣がぶつかり合う音が虚しく響く。
二人は前後が入れ替わったり、背後の敵を斬り合ったりしながら、もう幾十と敵を斬るが、それでも敵の数は収まる様子がない。
街の入り口からは、リヒト兵の雄叫びが聞こえた。
(来たか……)
あれはおそらく、ヴェーザーの隣国アルトミュールから駆けつけてきた兵だろう。
信仰に殉じる覚悟なら、できている。
今逝けば、あの世で夜草に、光太郎に、小十郎に、胸を張って会える。
怖くはない。
晶は、背中のレイドヴィヒに声をかける。
「できるだけ、拙者達で食い止めるにござる……逃げても良いのだぞ?」
レイドヴィヒは笑って、
「どこに?」
と答えた。
「……かたじけない」
「いいの。ただ……」
レイドヴィヒは、少し笑って……
「どうせ死ぬなら、貴方と勝負して斬られたかった」
* * * * *
「アングリッフ!!」
という声と共に
敵兵がなだれ込んでくる。
「来るにござる……!!」
八曜の神よ、我に力を授けたまえ。
我を守り、清め、殉ずる時も真水のごとく清らかなままで流したまえ。




