葛封じの計
「で、伝令!! 伝令にござる!!」
三千人分の兵士をどう住まわせるか、そのことを考えなければならなくなった晶一向に、麓から兵が駆け込んできた。
あまりにもの慌てぶりに晶は、ついに荒神が陥落したか……とまで覚悟をしたのだが、伝えられてきたものは、おおよそ理解の範疇を超えるものだった。
「……書面にござる。……将軍府から!?」
晶は、慎重に巻物を解いた。
* * * * *
将軍府からは、こうあった。
京国より諸国へ布告いたす。
抑々《そもそも》、京の歴史とは、一朝一夕に成るものにあらず。
一年また一年、民一人ひとりが積み重ねし歩みこそ、京国を築き上げし礎の石なり。
人の世は、八曜の川の流れの如く絶えることなく巡り、やがて一つの大海へ帰す。
これぞ天地の理にして、何人たりとも逆らうべからず。
ここに我らは、嫡男・京本光人に大将軍の位を譲り、国政ならびに軍旅の大事を託すことを、天地神明に誓いて宣するものなり。
また、これまで京国の都としてきたる荒神の地を退き、新たに西方第一の大都・中荒隅を、この刻より「玉隅」と改め、京国の新たなる都と定むる。
諸国の将たちよ、よくこれを聞け。
今日より玉隅こそ京国の中心なり。
京本光人こそ、国を率い、信仰を守護する正統の大将軍なり。
京国の民よ、一致団結し、祖先より受け継ぎし誇りを胸に、この戦乱を乗り越えよ。
右、ここに布告するものなり。
攻め来たり 笑いて帰る 者もなし
都は新た 名のみ残して
矢を向けて 得しものとは 何もなし
我は都を 新たに興す
つわものを 憎めと告げし 蓮は咲き
戦いくさの果てに 都はありき
京本光国
* * * * *
軍議室に重たい沈黙が流れる。
特に菊千代の落胆ぶりは凄まじかった。
「加賀美にいっぱい食わされたねこれは……」
囲炉裏のそばで横になりながら、菊千代は完全に不貞腐れていた。
「そうかー。中荒隅を防衛させて、敵主力部隊を荒神に引きつけるだけ引きつけて、
時が来たら大将軍を引き継いで、中荒隅からリヒトに攻め込めって……そういうことかい。だから兵営作っとけとか、神社再興させろってかー。あー読めなかった!!」
菊千代は、軍師なんて碌なもんじゃねえやとそっぽを向いた。
当の光人はというと、巻物をじっと睨みながら震えている。
……おそらく、本人にも聞かされていなかったのだろう。
* * * * *
中荒隅は、京国の首都になるタイミングで『玉隅』と名前を変えることになった。
本人たちはリヒトとの戦争など、正直興味はなかったのだが、事実ここから京国の大返しが、『玉隅』を起点として始まることになるのだ。




