ザウター・ジークベルグ
リヒト兵を十名ほど連れて歩くザウターの剣からは、まだ血が滴っていた。
晶はその背中を睨む。
(八曜の神よ。我を救い給え。八曜の神よ。光太郎の仇をとらせてくだされ!
我に力を!!)
「第一皇子、ザウター・ジークベルグ!!」
十人ほどの兵士が振り向き一斉に剣を抜く。
ザウターは首だけこちらをむけ、「フン」と笑った。
十名が一斉に晶に斬りかかってくる。
向かってくる一人を袈裟斬り。二人目を胴払いで処すと三人目を睨み、
切り掛かってきたところを真っ向から斬りつけ、そこに切り掛かってきた四人目と鍔迫り合いの末跳ね飛ばし、袈裟斬り。
同時に切り掛かってきた五人目、六人目をまとめて横払いで剣と腕を落とさせて、奥にいた七人目を突く。
八人目を睨み、飛びかかってきた八人目を胴抜き、九人目を逆袈裟で処し、十人目は深く突いた。
「中荒隅の竹中と申す!! 八曜の名において、覚悟!!」
ザウターは、またこちらを見て、「フン」とわらい、興味もなさそうに去っていく。
晶は斬りかかろうと足を踏み出したが、その足が止まる。
……こちらが、いかに攻めても、敵の間合いに入った瞬間に斬られるイメージしか湧かない。
自分の繰り出す全ての剣が、全ての手が、奴の前では無意味なものに思えた。
敵は背中を見せているのに!!
これが……強者か……。
晶は息を深く吸い、覚悟を固めた。
「八曜の神よ……お守りください!!」
うおおお!! と気を吐いて晶は突進する。
敵の真後ろ、……しかし……
(来る!)
ブゥン!!
ザウターが振り向き様にとんでもない速度の回転斬りを繰り出してきた。
晶はそれを飛んでかわす。剣圧で雪駄が、足の裏の皮膚を伴って吹き飛んだ。
「ヤアア!」
渾身の面を繰り出すが、これを受け止められる。
(この場でじっとしていたら、力でねじ伏せられる!!)
晶はすぐさま離れる。そこに真っ向から大きな剣が振り下ろされる。
これを半身で交わし、片手で無理やり突く!
刀はザウターの肩をかする。両腕で突いていたら、致命傷になったかもしれない。
(まただ、またあの回転斬りがくる! 刀では受けられぬ!)
かといって、もう一度、あれほど高くは飛べない。
ここで終わりか……
晶はその瞬間、身の回りにある全てを感じた。
石畳の床。敵の息遣い。自分の四肢。仙野多摩特有の緩く、滞留する空気。
そして……敵の隙をようやく見つけた。
「やあああ!!!」
晶は体を捻り、ザウターの軸足を高速で突いた。
鮮血。そして思わずザウターはよろめく。
そこを……
「成敗!!」
首を一閃。
仙野多摩の道は、石を敷き詰めた道。
足元の血は、全て自分の足の傷である。
ドサ。
ザウターの体が前のめりで倒れる。
晶は、肩で呼吸をした。
そして、『二』のポーズを作り、お辞儀をした。
「お見事にござった」
いつの間にか、近場の民家の屋根に、白丸が控えていた。
「他の将様も、仙野多摩の要所を押さえました。
間も無く、綾鶴様の兵も参りましょう。
仙野多摩を奪還。そして中央方面軍、壊滅にございます。おめでとうございます」
気分が高揚し、心拍が未だ高く、脳内はアドレナリンで満ちていて……とても白丸の言葉に返事をできなかった。
「ところで、加賀美様から言付けをおおせつかっております」
「……加賀美様? 無事なのか!」
「はい。まだ荒神にて、リヒトと戦闘中にございます。
中荒隅に、『重要物資』を送ったとのこと。
晶様が中荒隅に戻られる頃には、もう到着していることかと思われます」
だんだん、頭が冷めていき、言葉らしい言葉が吐けるようになってきた。
「なんなのだその、『重要物資』とやらは」
「私にもわかりません。が、『戦況をひっくり返す重要なもの』ということでして。
ともかくこの場は綾鶴様に任せ、一刻も早く中荒隅に戻ってくだせれ。れは、私はこれで」
そう言って、白丸は屋根づたいに消えていった。
(……光太郎。仇は取り申した)
晶は空に向かって『二』のポーズを作り、お辞儀をした。




