餌場
晶は、マーラとレイドヴィヒを伴い、もう何度通ったかわからない山道を登った。
仙野多摩。配備されているリヒト兵は五千。
これは、おそらく今も変わらないだろう。
その畑は、いわばリヒトの切り札のようなもの。警備は厳重なはず。
その上広大な面積となると、どうやって焼き払えばいい?
* * * * *
そして三日という日数をかけ、仙野多摩まで歩く。
想像以上の警備の数である。
三人一組になってそこら中を巡回している。
その畑は、山の麓にあった。
それから例の、窓のない小屋だ。
あそこに『餌』がいる……
「……まずは、リヒトの服が要るでござる」
マーラとレイドヴィヒは頷いた。
「拙者は……とにかく燃料を探るにござる。
大丈夫、我らには八曜の加護がある」
晶は『ニ』のポーズを作ると、マーラとレイドヴィヒも同じ姿勢になった。
「「神よ、我々をお守りください」」
そして三人とも礼をして、散開した。
* * * * *
影から兵士の動きを観察し、松明を灯すための油を運びだす兵士を見つけた。
そして倉庫を見つけた。
しかしここも警備が厳重だ。
入り口に二人。建物は二階建て。
おそらく、中にも……
晶は、深く息を吸い、吐いた。
裏口に回る。もちろんここも兵士の巡回路だ。そして裏には入り口はない。
晶は宙を仰いだ。
そして、雪駄で器用に煉瓦の壁を登っていく。
音もなく、煉瓦の壁を登る。
そして、屋根にたどり着くと、これまた音もなく屋根を伝って進んでいく。
見つけた。窓だ。
覗き込む。どうやら本当に倉庫らしい。
晶は、浴衣の裾をガラス戸にあてがい、刀の柄で窓を割り、侵入する。
* * * * *
油のツボを見つける。
そして……
(これは……? 爆雷管か?)
これはいいものを拾った。……木の小屋には餌。つまり麻薬漬けの人間達。
……行けるかもしれない。
晶は爆雷管を四本ほど拾っていく。
……と、
トットットット……と人間が上がってくる。
「窓ガラスが割れる音がしただ?」
「は! 確かに!!」
……どうやら聞こえていたようだ。
晶は、棚の影に身を隠した。
リヒト兵が倉庫に入ってくる。
「どうせ鳥がぶつかったんじゃねえの?」
「しかし……あ! ほら見てください!! 窓が開いてます」
「……忍び込まれた……か?」
リヒト兵が振り返ると、そこには刀を既に抜いて構えている晶が。
二人に向かい、突きの後に首をはねる。
晶は大きな油壺と、爆雷四本を抱えたまま、煉瓦の足場を降り、降りる。
* * * * *
マーラとレイドヴィヒは、無事にリヒト兵を締め上げて、リヒトの服を手に入れたようだ。
「よし……では、今から拙者のいうことをよく聞くにござる。
まず……拙者があの建物に忍び込む。
そして……『餌』を解放するにござる」
晶は畑を指差す。
「『餌』は、薬の副作用で、強く水を求める。
外に飛び出すと、あたりは兵士たちが混乱して捉えようとするはずにござる。
そこをマーラとレイドヴィヒ。お主達は、畑の至る所に、この油を撒くでござる」
二人は頷いた。
「では参る。八曜のご加護を」
「「八曜のご加護を」」
* * * * *
畑には、百近いリヒト兵が警備をしている。
心を無にして、任務をこなしているのだろう。
晶は畑の隅にある木の小屋の裏に張り付いた。
……うめき声が聞こえる。二十。三十……
そして、また器用に雪駄で、木の板を足場にし、静かに登っていった。
屋根の上についているのは煙突である。
暖を取るためではない。これはいわゆる通気口だ。
晶は屋根に、爆雷筒四本を置き……屋根に四肢を突っ張りながら降りる。
* * *
「な、なんだてめえ!!」
見張りの兵が声を出し切る前に喉をひと突き。
そばにいた二人目が逃げる前に首をはねる。
周りには、理性を失った目が真っ赤の、もはや人間とは呼べない者が三十名ほど。
晶は、素早く、高速している縄を切っていく。
一人切れば、その者は入り口に突進する。
また一人切れば、その者も入り口に突進する。
そして三十人分切ると、入り口に水を求めて人だかりができていた。
晶はそれをかき分けて、木の扉を蹴破る。
* * * * *
畑に、『餌』たちが駆け出していく。
水分を求めて、麻薬に齧り付く。
「おい!! なんでこいつら外に出ている!!」
百人のリヒト兵が混乱して『餌』たちを捕まえようと駆け回るうちに、マーラとレイドヴィヒは畑に油を巻いていく。
その間晶は、煙突の屋根を登っていく。
* * * * *
三十人捕まった頃には、二人は畑に油を撒き終えていた。
二人が畑から退避したのを見届けると……
(戦のために手段も厭わぬ外道どもめ……地獄に、落ちよ!!)
屋根の上から、爆雷管を投げつける。
一本、二本、三本。
(燃え尽きよ!! 外道どもめ!!)
ドオオン!! と立て続けに三度。一面の土が捲れ、炎が上がる。
最後の一本。
畑は、炎の海に飲み込まれた。
その風景をしばらく眺め、晶は屋根の上から『ニ』のポーズで一度だけお辞儀をし、
そのまま山岳の森へ、消えた。




