↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
64/83

必要悪

 その晩、晶は菊千代に呼び出された。

 

 いつもの軍議室。囲炉裏の前。

 そしていつもの姿勢で囲炉裏の火の、炭を火鉢でいじっている。


「朧《おぼろ》、閉じ込めたんだって?」


 一言目がこれだった。


 この場には、綾鶴はいない。実峯もいない。

 菊千代と二人きりである。


 朧の扱いに関して、腹を割って話そうというのだろう。


 晶は真顔のまま頷く。


「リヒトと繋がりがあるにござる。

 このままにはしておけぬ」


 すると菊千代は火鉢を囲炉裏に刺して、晶に面と向かって言い放った。


「甘いねえ」


 と言われて、晶は最初何を言われているのかがわからなかった。


「……拙者に、八曜教徒を斬れと申すか」


「そうじゃないよ。いいかい? 朧には使い道がある」


 晶はカクンと頭を下げ、小さく唸り声を上げる。


「……切れ者なのはわかっておる。しかし、八曜の信仰を隠れ蓑に中荒隅を陥れる人物にござる。同じ信徒としては許すわけには」


「甘い。甘いよ。それでは京武士と一緒だ」


 菊千代の言葉がピシャリと当たってくる。


「甘い……でござるか」


「いいかい? 彼は確かにリヒトと繋がってる。

 ……だからこそ使い道がある。君にもわかるだろう」


 囲炉裏を挟んで禅問答である。

 晶は小首を傾げつつ……


「全くわからぬ。誤情報を流してリヒト中央方面軍を混乱させるにも、奴は切れ者。

 こちらの誤情報は全て看破される気がしてならぬ」


「そうじゃあないでしょ。彼の経緯。それから今の現状を鑑みれば、わかるはずだよ」


 朧の経緯……晶は小首を傾げたまま、考えた。


「朧は……息子を亡くしている。……仙野多摩《せんのたま》で」


「そう。そしてその仙野多摩に今居座っているのは?」


「……リヒト中央方面軍……」


「君は、中荒隅をリヒトが占領したとして、リヒト兵に他の都市を売れるような真似ができるかい?」


 正論を言われて晶の口が澱む。


「拙者は致さぬ。されど朧の考えていることなど朧にしかわからぬ。奴はそういう人物にござるよ」


「だからさあ」


 菊千代は起き上がった。そして……囲炉裏を火鉢でほじくり返している。


「今、僕たちはあいつに精査されてるんだよ。

 どっちにつくか。君に、中荒隅に、リヒトを打ち倒すほどの価値があるか」


 晶はいまだに項垂れている。


「あいつはどっちにも行ける。

 ……使い方次第では、金座将軍を殺した鳥だって、光太郎を殺した皇子だって、あいつの献策次第でどうにでもなるかもしれないよ?

 ああいう奴には飴を配っておくといいのさ。あとで役に立つ」


「それが……それが八曜の神を裏切る結果になりはしないだろうか……」


 未だ項垂れる晶に、菊千代は言葉を投げる。


「あいつのことは僕に任せてよ。ああいう奴は慣れてる」



 * * * * *


 結局その晩のうちに朧は解放され……

 城に戻ることが許された。


 そして……どこから持ってきたのか、菊千代は朧にタバコを振る舞う。


「エー! いいんですかい! さっきまで独房に入れられてたと思ったら、こんなものを! それも晶さんの前で!!」


 晶は目を閉じ、歯を食いしばって我慢している。


「イヤー気分いいね。

 どこで手に入れたんです? タバコなんか」


「京浜大志《けいひんたいし》の行商人さ。彼らは国を跨いで商売しているからねえ」


「ボロい商売だね! これは! ハハハ!! ……で?

 俺に何か頼みたいのかな?」


「いやあ。……ちょっと鳥がこの辺りで巣を作っちゃってさ。

 迷惑しちゃってるんだけど。

 何かいい知恵を貸してくれない?」


「鳥ですかー? ハハハ……」


 朧はタバコの煙を燻らせる。

 そして、晶の鼻スレスレに副流煙を吐き出す。


「あー気分がいいねえ。

 そうだなあ……なあに。ちょろいことでさあ。

 餌をなくしちまえばいいんですよ」


『餌』……その言葉に晶は反応した。麻薬漬けにされたリヒト人だ。

 あれは……鳥の餌だったのか……



「俺が知ってる餌場は二つ。

 一個は西部方面軍管轄で、一個は中央方面管轄。

 その二つの餌場をなくしちまえば、鳥は人間のいうことを聞かなくなる」


 気がつけば、晶は身を乗り出していた。


「その餌場は!! どこにある!!」


 すると朧は、ニヤリと笑って、一本タバコを晶に差し出した。


「すいます?」


 晶は歯軋りをして、朧を睨んだ。


「キシシ……キャハハハハハ!! 冗談でさあ。

 さあねえ。でも、仙野多摩に最近でかい畑ができたって知ってます?

 なんの畑かは……知りませんがね」


「……」


 晶は刀を取って、軍議室を出た。

 部屋からはまだ、菊千代と朧の笑い声が聞こえてきた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。