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日の出

 戦が終わった後は後片付けだ。

 避難させた町民が帰ってくるまでに、斬り倒したリヒト兵を片付けないとならない。

 晶は率先してこれに参加しようとしたところ、菊千代と実峯に軍議室に呼び出されてしまった。


「……お前がリヒト人じゃなくてよかったって、本気で思ってるぜ……」


 戦後の汗を拭いながら、綾鶴は晶に言った。


「拙者は、八曜の信徒《《は》》斬らぬよ」

 

 信徒じゃなかったら京武士も斬るのかよ……

 そんなわけがないが綾鶴はそんな思いがよぎってしまった。


 それよりも晶は今回の策のことで落ち込んでいた。


「仕方がないこととは言え、神聖な川と水を兵器として利用してしまった。

 八曜の神の怒りに触れぬと良いが……」


「……『グラオベ』っていうヒントがあったら僕も同じことをしてたよ」


 庇えているのか、いないのか、菊千代が欠伸ついでに答えると……


「それより本題だ。こちらは将兵三千を蹴散らした。

 ……リヒトは今、荒神《あらかみ》攻めに東部戦線に兵を送っている。

 つまり、西部はさっきの攻撃がうまく行かなかったら、厳しい立場になる」


 珍しく、菊千代は立ち上がる。

 そして、大陸地図上のリヒト領、ハイデ・アルエルクを指で小突いた。


「そろそろ攻めどきじゃないかい? 何せこちらは三度も殴られてるんだ。

 一発くらい殴り返しても、罰は当たらないんじゃないかい?」


「ふむ……」


 晶は首を捻り、しばし思案する。


「確かに、西部方面軍は中荒隅《なかあらすみ》にとって脅威にござる。

 問題は……ハイデ・アルエルクは大都市と聞く。

 皇子を見つけ出すのに難儀しそうにござるな……」


 晶が立ち上がり、地図に近寄ろうとした時である。

 晶の刀が、根元から折れたのである。


「む?」


 ゴツン。と、刀の柄が床に落ちる。


 それをなんとなくその場の全員で眺めていると……


「敵襲!! 敵襲!!」


 村中に声が響く。


「て、敵襲!?」


 実峯がか細い声を出した。


 * * * * *


 大雨の中、南の市の壁からリヒトの大軍が雪崩れ込んでくる。

 すると、先ほどの攻撃は、二段構えの策だったということになる。

 

「晶、とりあえず僕の刀を使ってくれ。……ろくに手入れもしてないけど一度も使ったことがない新品だ。……とりあえず、朝まで持ち堪えて」


 そう言いながら菊千代が腰の刀を晶に投げ渡す。


「かたじけない!!」

 

 晶、綾鶴は軍議室を飛び出した。


 すでに戦闘が始まっている。

 

「どうする!? 晶!!」


「敵兵……二千。……敵大将を見つけるまでは持ち堪えるでござる!!」


 * * * * *


 こんな策は見抜けなかった。

 まさか三千の攻撃が前座だったとは。

 

 晶は己の浅はかさを悔やんだ。


 各将とも奮戦はしているが、如何せん数が多すぎる。

 

「村に入り込まれたら囲まれる! なんとか押しとどめるにござる!!」

 

 もうすぐ夜明け……このままでは、村人も帰ってきてしまう……。

 

(八曜の神よ!! お守りください!!)


「うおおおお!!!」


 晶が一人気を吐き、一人、一人と斬っていく。凄まじい活躍だが相手は二千。

 逃げるわけにもいかず退くも許されない、辛い戦いが強いられる。


 ブゥン!! リヒト兵の横面の大ぶりが晶の顔を掠める! 

 パ!! と血が舞う。


(拙者の……拙者のこの血、この命に換えても!! 中荒隅だけは!! 八曜の神よ!!)


 それでも果敢に立ち向かい、一人、一人と斬っていく。


 やがて気がつけば敵の陣の中心。四方八方を囲まれる!

 

(ここまでか……)


 晶はそれでも刀を下ろさず、敵を最期まで睨んだ……

 そこに……


「藤十郎《ふじじゅうろう》!! 助太刀致す!!」


 後ろから京武士の足音。 数は百や二百ではない。大軍である。


 

「藤殿……」


「よく持ち堪えたな。後は任せな」


 * * * * *


 藤の引き連れてきた大群のおかげで、中荒隅は危機を乗り越えた。


「かたじけない藤殿……しかし、なぜここに……」


「リヒト領に攻め込むんだろ? 少し前に菊千代から使者が仙神堀《せんじんぼり》に送られてきたんだよ。……まあ、来てみたら大変なことになってたわけだけれどもな」


 結果的に菊千代の策に救われた……。

 晶が胸を撫で下ろした瞬間の事だった。


「晶!! 来てくれ!!」


 綾鶴の怒鳴り声が響いた。


 * * * * *


 小十郎が、血まみれで倒れている。


「こ……じゅうろう……?」


 晶は近寄り、肩をさする。


「小十郎、のう、小十郎。

 ……似合わない冗談はやめるにござるよ。小十郎……

 ……綾鶴、水を汲んできてくれ。八曜の気の入った水に触れれば小十郎は元気になるはずにござる。小十郎……小十郎!!」


 綾鶴は、奥歯を噛み締めながら、立ち尽くしている。


「小十郎!! 小十郎!! 

 お主が……お主がいなかったら、誰がリヒトに八曜を解くのにござるか!

 お主は混血の希望のはずにござる! その希望が!!

 こんな戦いで!! 命を落としていいはずがねえだろうがあ!!」


 晶は小十郎の胸を激しく叩く。


「お、おい……」


「小十郎!! 目を覚ませ!! 小十郎!! 八曜の神よ!! お助けください!!

 綾鶴! 早く水を汲んで参れ! 小十郎!! ……拙者を一人にするなああ!!」


 太陽の輪郭のみ、中荒隅の村を照らす。


 この日、三枝小十郎は八曜の聖なる使徒となった。


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