西部方面軍、数、三千
晶たちが中荒隅に戻ったのは、この地特有の小雨が舞い散る昼過ぎのことだった。
夜には大雨になる。
村の空気はピリついており、落ち着きがなかった。
「コジュロウせんせー!!」
子供達が駆け寄ってくる。
皆一様に不安な顔になっており、小十郎をみた瞬間に安心して感情が抑えられなくなったのだろう。
心なしか、中荒隅の空気がひりついているように、晶には思えた。
「おう、よく戻ったな」
綾鶴と、隣に知らない女性が見える。
「うむ……そちらは?」
「はい。荒神から出頭いたしました。柳谷藤文です。以後よろしくお願いいたします」
「柳谷……」
すると綾鶴は投げやりに答えた。
「姉貴だよ!」
「さ、左様でござるか! 竹中にござる。
……首都からの増援にござるか?」
「まあ、落ち着いたら軍議室にきてくれ」
* * * * *
「なんてこった、金座殿が……」
晶は、仙野多摩の山岳地帯で起こったことの全てを話した。
「兵士を運ぶ鳥……厄介だねそれは」
囲炉裏を前に、菊千代がいつもの姿勢で答えた。
「リヒトも本気を出してきたわけだ」
「うむ……して西部方面は? 何か動きがあったにござるか?」
晶は先ほどから感じていた村の違和感は、第二皇子ラムシュタインによるところだろうと感じていた。
つまりリヒト西部方面軍だ。
「それがな……」
* * * * *
「橋頭堡が三つも!?」
「はい……」
実峯が、大陸地図上、『地獄の壁』から三か所を指差した。
「確認しただけでも、ここと、ここと、ここです。
それぞれ将兵千がすでに待機しており、いつ攻めてきてもおかしくありません」
「……三千にござるか……」
対する中荒隅の兵力は五百も行かない。
晶はふと思案した、この上さらに、上空からあの妖が攻めてきたら……?
(中荒隅は、守らねばならぬ)
「さて、最良手が求められるけれど、どうするね」
あくびをしながら菊千代が呑気に口にする。
晶は、目を閉じた。
そして、こう告げた。
「ひとまず、皆で祈るにござる」
晶の一言に、思わず綾鶴はため息が漏れた。
「ところで……例の天から降ってきた人間は……」
晶が問うと、綾鶴と実峯が互いに顔を合わせた。
「それが……」
すると、軍議室の扉がバーン!! と開いた。
入ってきたのは確かに、『天から降ってきた男』だった。
「なんですか! この帳面は!!
誰が今まで管理していたんですかこの村の経理は!!
未記入ばかり、収入と支出も数字だけでどこからのものかも書いてない!!
あなた方は帳面というものが何か理解していらっしゃるのですか!?
何やら間も無く戦が始まるそうですが、戦はお金がかかるんです!
それをこの村の人間は誰も理解してない!!」
何やらとんでもない剣幕で怒られた。
菊千代は、いつの間にかいなくなっていた。




