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寸馬亭金座

 意外だったのは、ボーゾム達の順応性である。

 最初こそ、常駐兵として飯だけ食わせて、極力住民とのトラブルがないように……と、中荒隅《なかあらすみ》の首脳陣達は考えていたのだが、彼らは晶を族長と認めてから従順になった。

 


 最初に懸念されたことはもちろん、彼らがリヒトからの薬物に依存していることだった。

 しかし、使用期間が短かったこと、それから元々得体の知れない薬物に依存するより、自然の神を信仰する方が彼らには本質的に合っていたのだろう。

 むしろ彼らは敬虔な八曜信者になった。


 浴衣も着るし、何より意外だったのは八曜教を受け入れたのである。

 晶が祈ればその通り祈る。八曜の神の存在を説くと、素直にそれを受け入れる。

 経典を渡せば、文字が読めないなりに自分達で理解しようとしている。

『なんでも強いものに従え』これが、ボーゾム達のイデオロギーであり、これも一つの、全体主義なのかもしれない。


 おかげで小十郎は子供達に加えて、百ほどのボーゾム達に読み書きを教えなければならなくなり、彼らに「コジュロウセンセイ!!」と呼ばれる羽目になった。


 何より彼らは、京の子供を気に入ったようだ。

 一回りも二回りも年上のボーゾム達を、子供達は最初こそ怖がっていたものの、『友達』として受け入れるのに時間はかからなかった。


 それと彼らは何より水を好んだ。

 鯉のように川に口をつけて、大量の水を飲む。 

 

 その姿を、興味深そうに晶は観察していた。



 どうなるかと思ったボーゾム達との暮らしだが、言葉の壁を除けば、思いのほかうまくいっている。


 問題は、ある晩に起きた。


 * * * * *


「倒れてはダメにござる!! 足踏ん張って初撃を耐えるにござるよ!!

 我々には八曜の神が支えてくれるにござる!! なれば簡単に倒れるはずがないのにござるよ!! 腰を低くどしっとかまえ、踏ん張るにござる!!」


 道場ができてから、師範は綾鶴が務めるが、晶がいれば晶が務める。

 京人もリヒト人もボーゾムも関係ない。

 今では、マーラもレイドヴィヒも、剣道の師範代である。

 

 稽古の最中、道場に伝令が走り込んできた。


「失礼致す!!」


「何事か、敵襲か!?」


 稽古場の空気感そのままに晶が応対すると、


「い、イヤそうではなく……」


 聞いてもなんだか要領を得ないが、とりあえず門のところまで来てくれとのことだったので、

言われるがまま晶はもんまでやってくると……

 今度は金色の備えの京武士が並んでいた。


 金色の備えが……泥まみれの土まみれ。おまけに傷だらけだった。

 

「金座殿……」


 この兵を金色の備えで統一する京武士。それを率いるのは、『京本八将軍』が一人、寸馬亭金座《すんばていきんざ》。

 いわゆる、本国つきの名将である。

 

 そんな将軍が、泥まみれで中荒隅になんの用だろうか?


 金座は、虚ろな顔でヨロヨロと晶の前まで出ていき、膝をついた。


「竹中殿……」


「き、金座殿! よしてくだされ! 何があったのですか!」


「それが……情けない話にございます。

 我らが隊三千。荒神《あらかみ》の防衛で、敵の橋頭堡《きょうとうほ》を攻撃しておりました所、同数の兵に返り討ちに遭い申した……」


「まさか……金座殿の隊が……!?」


「我らはなんとか逃げおおせたものの……同数のリヒト相手に勝てず。

 おめおめと荒神の地など踏んで帰れませぬ」


 金座は切実な顔で晶を見上げた。


「中荒隅に、武神竹中有りと聞き及びまする。ぜひ、我らを鍛え直していただきたいのです」


「鍛え直すだなんて……『京本八将軍』たる金座殿にそんな無礼なこと……」


「その名は遠に捨ててまいりました。今は単なる一兵卒の金座にござる……

 ご迷惑はおかけ致しませぬ。荒神には一報入れもうしたので、親心にて中荒隅に、我々の分の食糧も送ってくださるとのことにございまして」


「いいんじゃない?」


 遠くから、菊千代の声が聞こえた。


「偉そうな侍が、一からやり直すっていうんだ。侍の割にはなかなか見どころがあるよ」


「き、菊千代殿!」


「その代わり……」


 菊千代は、挑発的に金座の前に出た。


「ウチは変わった村でね。リヒト人が剣術の師範代をしている。女の兵もいる。

 最近じゃ離島、ボーゾムから兵士がやってきてる状態だ。

 そんな中でも、あんたらやっていけるかい? もう、昔みたいに高楊枝加えて偉そうにはできないぜ? この村では」


 金座は思わず菊千代を見た。


「中荒隅は、今そのようなことになっておるのにございますか……」


「そうだよ。どうだい。できるってんならあんたらを、常備兵として迎えよう。

 でも偉そうに侍ぶるならこの村には要らない。さっさと荒神に帰ることだね」


 金座は一度、振り向いて全員に向けて頷いた。


「私は敗戦の将。本来なら、死んでいる身にございます。

 その上で未だ八曜の神が生きろというのであれば、この身にかけて八曜の導きに従い……信仰に殉じるだけにございます」


 このようにして、京本八将軍の中でも、その実力と佇まいから『京武士の中の京武士』と尊敬を集める、寸馬亭金座が中荒隅の兵となった。


 金座達が加わったことにより、中荒隅は千の兵を得ることになり、人口が爆発的に増えた。

 中荒隅は、かつての中荒隅よりも、人口の多い都市となった。


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