ボーゾムのショウグン
中荒隅では人足も増え、復興に注力していた。
百人の女戦士とはいえ、常備兵ができたことによる、兵営所、それから、簡易的な道場も建てられた。
京国の剣技に興味があったのか、それとも思う所があるのか、
マーラや、レイドヴィヒといった元リヒトの兵が刀の訓練をするようになった。
それと今作っているのは、加賀美に言われている神社である。
それまで簡易的な祈祷所はあったが、宗教国家である京国の村には必要なものだ。
それと、京浜大志の商人、斎賀業平が定期的に商人をよこし、舞が中荒隅の市場を仕切るために、なんだか当時の中荒隅よりも栄えてきているように見える。
当時の中荒隅を知っているのは晶だけであるが、晶は菊千代に街づくりを一任しているので出来上がっていく街を満足そうに眺めるだけであった。
そんな晶に、綾鶴は不思議そうに話しかけるのだ。
「寂しくないか? 故郷が生まれ変わっちまって」
「寂しいなどというようなものはないにござるよ。川を飾る景色は移り変わっても、川の流れは変わらぬ。ここを守っていくのが、拙者の使命にござるよ」
そう言うものかなあ。
綾鶴の故郷、荒神は、今リヒトに攻められている。……もし荒神がリヒトに占領されたら、自分は晶と同じ顔ができるだろうか?
……これも強い信仰心の賜物なのか。それとも、晶のそもそもの人間性によるものなのかはわからなかった。
そこに、伝令が走ってくる。
* * * * *
「ご報告いたします!!」
「何事だ。敵か」
「い、いえ……それが……」
伝令も、事態がよくわかっておらず、とりあえず門まで来てくれとのことだった。
言われた通り門の前に晶が出向くと……俄に信じがたい光景が視界に飛び込んできたのだった。
* * * * *
そいつらは、大軍でやってきて、わざわざ門を叩いて中荒隅にやってきたのだという。
ついこの間斬りあった、ゾ・ムスという男、そして、その後ろに控える、大量のボーゾム族である。
晶は事態が飲み込めぬ。
ひとまず、今すぐ襲いかかってくるわけではないようだ。
「何用にござるか」
晶が聞くと、ゾ・ムスはニヤリと笑って、こう言ったのだ。
「ドウジョウ・ヤブリ」
* * * * *
ようは大将同士の戦いを所望とのことだ。
ボーゾム族は、一対一の戦いによって族長を決める風習があるらしい。
菊千代によって、離間の策が成った今、ゾ・ムスの興味は晶との決着だったと言うわけだ。
夜、決闘が執り行われることがボーゾムの中で勝手に決まり、百人ほどのボーゾム族は村にいすわった。
夜まで、城にて軍議が行われる。
「いいんじゃない?」
呑気に横になりながら菊千代は答える。
「特に困ることもないし」
「ち、ちょっと待て、もし晶が負けたらどうなる?」
綾鶴が目を回しながら言う。
「負けても……ようは族長が彼らになるってわけだろう? どのみち中荒隅は残る。
まあ、ボーゾム族の生活が何かはわからないがね」
「どうすんだよ! 奴隷として働かされるとかだったら!」
「……よく考えてみなよ。今だって僕たち、京国の奴隷みたいなモンだよ?
はっきり言って雇先が変わるだけだ。それに晶が勝てば……
彼らは潔く晶を族長として認める。つまりこちらはさらに百の兵を手に入れることになる」
「き、決めるのは晶さまですから……」
実峯も突然の事に戸惑っているようだ。
晶は目を閉じて考えていたが……
「此度の試合、受けようと思う」
「おい! お前だけのことじゃねえんだぞ!?」
「もちろんにござる。しかし……彼らが八曜の子となれば……我々はあの、海を渡る砦を手に入れる事になる」
軍務室が、沈黙に包まれた。
「大丈夫。八曜の加護ある限り、拙者は負けぬ」
* * * * *
夜。城の前で決闘は行われる事になった。
まず、ボーゾム族は全員で、晶を挑発するような雄叫びをあげ、飛び跳ねるような舞を踊る。
身体中を叩いて音を鳴らし、自分の強さをアピールする。
これがボーゾム族の決闘のやり方なのだろう。
晶は、正座してそれをただみていた。
そして、相手の儀式が終わると晶も立ち上がり、刀を抜いた。
* * * * *
敵の得物は、槍ではなく、巨大な剣だった。
それは刀ではなく、リヒトの持っているツヴァイへンダーでもなかった。
明らかな重厚感を感じる、湾曲した刃を持った両手剣である。
敵は、こちらの太刀筋を一度見ている。
族長ゾ・ムスは、余裕の表情で晶を見下ろした。
剣を大きく振り上げ、上段の構えだ。
晶は黙って、青眼に構える。
お互いは間合いを見合って、ジリリ、ジリリと、少しずつ移動する。
と、突然ゾ・ムスは雄叫びをあげた。
鼓膜が破れんとするかのような雄叫びと共に、一瞬のうちに間合いをつめ、晶を真っ二つにせんと剣を振り下ろす。
(刀では受けきれん!)
晶はすり足で素早く初撃を交わす。地面にドオン!! と重たいものが落ちる音が響く。
剣を振り下ろした音にはとても聞こえない。巨大な岩が落石したときの音に近い。
さらにゾ・ムスは視力が良く、晶が逃げた方向に剣を振り回す。横面。
これも刀では受けられない。晶は後に退く。とんでもない剣圧である。
さらに咆哮。
真っ向からゾ・ムスが剣を振り下ろせば、晶の背中にある塀が真っ二つに割れる。
距離を取った晶は、自分の右足に刀の切っ先を向けた。いわゆる下段の構えである。
ゾ・ムスはお構いなしに、大声と共に剣を振り下ろす。
晶はそれを交わすが、段々と後の塀に追い詰められていく。
終いだ、と言わんばかりにゾ・ムスは今までで一番大きな声を出し、腕を大上段に構えた瞬間だった。
いつの間にか上段に構えていた晶が間を詰めて、小手、それから、ゾ・ムスの額を刀で割った。
ゾ・ムスの体が硬質すぎるので、切り落とせず命も奪えなかったが、彼は大声を出して、倒れた。
……勝負あった。
取り巻きは、何があったのかポカンとしている。
「晶は……何をしたんだ……」
すると綾鶴の隣にいたマーラが答えた。
「……ゲダンにカマエてイタトキ、アキラ、刀ノ先ヲ揺ラシテイタ……。
ゾ・ムス、目ガイイ。刀ノキッサキに、視線ヲ向ケサセテ、下段ヲ意識サセテタ……」
マーラはとんでもない試合を見た後のように、息を荒げて興奮している。
晶が納刀すると、
「ガアアア!!」
という咆哮と共に、ゾ・ムスが起き上がった。
頭から血が流れており、慌てて陽香が駆け寄る。
ゾ・ムスはそれを手で制し、立ち上がる。
「オマエ!! ボーゾムノ、ショウグン!!」
すると辺りのボーゾムたちが大声を出し、新たな族長の誕生に大騒ぎを始めた。
これで中荒隅は、さらに百の兵を得た。




