女性軍師の話。その一
ええ。『カンプフ・フュア・ディー・フライハイト』
リヒトが初めて京国に侵攻してきた、三都市同時奇襲作戦ですね。
中荒隅が陥落したのを私は、私の師匠、車沢加賀美様のお側で知りました。
その時のは私は、大陸の東部淀桂の防衛についておりました。
リヒトが三都市同時侵攻作戦を仕掛けてくることは、だいぶ前からわかっていました。
そして、淀桂は陽動。本命は中荒隅と、東部仙野多摩であることも、師匠は見抜いていました。
そのことで何度も師匠は大将軍に、中荒隅の防衛強化を具申していたものですから。
それでも、中荒隅の南側の山脈『地獄の壁』を、まさかリヒトが越えてくるとは誰も思わなかったんですよね。
淀桂は敵を退けたのですが、中荒隅に火の手が上がった時に、師匠は衝撃を受けておりました。
使者を何人も送って、「晶は大事ないか」「敵に囚われていないか」など、とにかく中荒隅よりも晶様のことを心配されておりましたね。
* * * * *
私の師匠、車沢加賀美様と晶さまが初めて出会ったのは……確か、過去に荒神で催された、『軍略試験』の時だったと思います。
ようは京国の軍略家志望の若者による机上の模擬戦で、独創性や速度を競い合う試験……と言うより大会です。
戦場が指定されていて、天候は何々。敵の数は何々の場合、こちらは何人でどんな陣を敷き、兵量はどのくらいかを計算して割り出す。そういう競技ですね。
難易度が上がると、敵の将軍に敵国の名だたる将がいることが前提になっていたりですとか。
毎年試験の上位に食い込む名家……いわゆる御三家は決まっていまして。
だいたいが柳谷家。そして久遠寺家と宇津木家が並ぶのですけれど、大会初参加で二位をとったのが晶様でした。
私も挑戦しました。本気で挑んだんですけれどね。四位でした。
師匠からは大目玉を喰らいましたね。
それよりも師匠が驚かれたのは、晶さまの決断の速さと、戦略の斬新さです。
晶さまは、幾百の兵に対し、わずか十人足らずの少数精鋭で主要拠点のみを手際よく奪う兵法を得意としており、これが師匠の目に止まったのでしょうね。
「強引のようで、非常に理にかなっている。彼ほどの人材を誰が育てたのか」
などと関心なさってました。
晶さまはその時にはすでに、故郷中荒隅でご家族を亡くし、仙神堀の道場で剣術や軍略を習っていたと思います。
師匠はすぐに晶さまに声をかけ、仙神堀の道場に通わせながら積極的に将軍府の仕事を覚えさせておりました。
将来は養子にとって、将軍の一人にしたがっていたのだと思います。
ですから今回の奇襲作戦、中荒隅に戻った晶さまのことをずっと気にかけてらしたんです。
手紙も書かれていましたね。
そして……『カンプフ・フュア・ディー・フライハイト』
私たちは淀桂を守り切ったのですが……中荒隅の山から火の手が上がっているのが、淀桂からも見えました。
リヒトの侵攻作戦が始まって……まさか中荒隅が陥落するなんて……。




