鶴久保砦攻略
「時間との勝負になるにござる。まずは、全員で砦の裏側、崖の上を目指す」
こうして晶と、『鏡面の牙』百名の女性戦士は敵の砦を大回りするように、砦の裏山を進軍することになった。
道中……
「……シ!!」
晶が突然、進軍する隊を止めた。
(……尾けられている……?)
宵闇の中、晶が違和感と視線を感じて立ち止まる。
周りには砂塵を巻き込んで吹き荒ぶ風の音。
横にいる弥吉もどうやら気がついたようだ。
「晶……隊の右側。数は五十そこらだ」
「む……風吹殿」
晶は鏡面の牙、隊長の風吹に声をかけた。
「拙者達が曲者を退治している間に、頼みたいことがござる」
「なんですか?」
「隊の全員で、抱えて持てるほどの大きさの石を集めてもらいたい」
「石……ですか?」
「うむ。……それを崖の上から落とすのにござるよ。
マーラ、小十郎、弥吉はついて参れ。
……八曜のご加護を!!」
* * * * *
尾けてきたのは、仙野多摩まで捕らえられた帰り際、山の上で斬り合った女武将の隊であった。
まさかあれから、自分達を尾けてきていたのであろうか……?
「勾配を利用して戦うにござる! 木の中で戦えば敵も武器を使いづらく、有利に戦えるにござるよ!」
京浜大志での戦いで気づかされた。
自分に、将才はない。
なくても、この者達を今死なせるわけにはいかぬ。
勾配に足を取られ、半ば滑るように移動しながらも晶はリヒト兵を斬った。
理合は分かっていても、実戦で軍など、率いたことがなかった。
将としての責任など、感じたこともなかった。
こちらがなんとか、四、五人片付けたところで、また敵兵は撤退していった。
あの隊はどういう意図があって自分達を尾けてきているのだろう?
不気味に思いながら晶は、三人の無事を確認した。
* * * * *
女性達に、重たい石を運ばせて、ついに目的の崖の上まできた。
この下は例の砦がある。
「この位置から、砦に石を落とす。
……石の数は百では到底足らぬ。投げたら、近場から同じ大きさの石を見つけ、とにかくこの場から落とすのにござる。では、投石開始!」
号令と共に、そこそこの高さから石を砦に向かって放り投げる。
ガラン!! と、砦と石が衝突する音が響く。
しかし砦は思った以上に頑丈でいくら少し大きい石を投げても、穴も空かなければ、崩れすらもしない。
つまり、百や二百個個石を当てようがびくりともしない。
当然、砦のリヒト兵が迎撃しに山を登ってくる。
「まだまだ!! 投石の手を休めるな! 敵が視認できるまでは投げ込むでござる!!」
そう言って二百、三百と石を放り込むが、やはりびくともしない。
やがて、後方からリヒトの兵の足音が聞こえてきた。
「撤退!! 拙者達が殿を務める! 山の反対側から降りて拠点まで引き返すにござる!!」
* * * * *
ひたすら重たい思いをして、それも命懸けで石を大量に放り投げ、被害という被害は与えられないままにとっくに朝になっていた。
鏡面の牙たちと、晶は拠点まで引き返した。
「これで良いのでござる。全員、敵砦の前で身を潜めるにござる。拙者が合図を出すまでは身を隠すにござるよ」
* * * * *
本当に、身を焼くほどの太陽が照りつける。
布を纏っていなかったら今頃、大火傷を負っていただろう。
敵も、砦から出る気など無さそうである。
不安になった吹雪が晶に声をかける。
「晶殿、この炎天下では待つのも体力を削がれます。
突撃の機会はまだですか?」
晶は東の空を眺めながら答えた。
「なんの。まだまだにござる。……各自、水はしっかり飲むでござるよ」
本当に地獄のような暑さだ。じっとしているだけで、干上がってしまいそうになる。
その時である。ポツリ。と、空から水が降ってきた。
「来た……」
晶がつぶやく。
「各自! 布を脱ぐでござる! 大雨になるにござるよ!!」
と、言い終わる頃には、滝のような雨が降ってきた。
砂漠のスコールである。
晶はこの時期、この時間に、これが来ることを知っていた。
当然このような大雨で敵が砦から出てくることはないのだが、妙なことはこの後に続いた。
先ほど崖の上から投げ込んだ石。それは長時間陽に照らされて相当な熱を持っていたために、雨が降るととんでもない蒸気を発するのだ。
晶はこれを待っていた。
熱を持った蒸気が砦を包み、いわば天然の蒸し風呂になった砦を、我慢できなくなったリヒト兵たちが飛び出してくる。
「今だ!! ものどもかかれ!!」
晶の号令で全員が飛びかかった。一方的な戦いである。
敵は蒸気で目もやられており、出てきたところを京武士に斬られる。
数が百か二百か、男か女かは、もはや関係がなかった。
そして戦いの中、敵将マーベルスヴェンを討ち取り、鏡面の牙は晶の奇策によりリヒト兵に勝利したのである。
* * * * *
「改めまして、ありがとうございます晶殿。
武神の軍略の妙、拝見させていただきました」
「なんの。軍略などというものではござらん。全員よく重たい石を運んでくれた。皆の勝利にござる」
このようにして晶は鏡面の牙と百の兵を手にし、黄色い声援まで手にした。




