第二次、塩と水の道の戦い。その二
近づいてきた足音は、自分の手足の拘束を解いた。
晶は煙を吸い込まないよう、目隠しをしていた布を口に咥える。
「晶殿、こちらへ」
京言葉。
聞き覚えのない声だが、どうやら助けてくれるらしい。
声のする方を煙の中ついていく。
* * * * *
煙を抜け出した先の、建物の影でようやく、助けてくれた男が視認できた。
「どなたかは存ぜぬが……かたじけない。助かりもうした」
「シ! ……ここは仙野多摩、つまり敵陣の真っ只中にございます」
仙野多摩……いつの間にか自分は、そんなところまで連れてこられたらしい。
「あまり詳しく話している時間はありませんが、自分は荒神から晶様をお助けするよう命じられております。
白丸と申す。お見知り置きを」
「白丸殿……、では、荒神から中荒隅に増援を?」
「送ります。しかし……実は只今将軍府は混乱の最中にあります。
今すぐと言うわけにはまいりません。自分も、元々別の任務がありまして、偶然晶さまをお救いしただけにすぎません」
……事態が読めない。
「それと、ここからは京国からではなく、あくまでも私個人からの忠告として聞いていただきたい」
「……白丸殿個人からの……?」
「晶殿に、裏切りの疑惑が出ております」
ますます事態が読めなかった。
「拙者が!? いつ京国に弓を引いたと言うのか!?」
「静かに!! ……落ち着いてくだされ。自分もそんなことを信じてはおりませぬ。しかし、今は念の為京浜大志を一人で通らないことです」
「自分は、京浜大志を通ってここまできた! お主は何を申しておるのか!」
「落ち着かれよ!! ……残念ながら、京国も一枚岩ではないのです。
私のこの忠告も、『念の為』程度のものです。晶様にかけられた疑惑も、時間が解決してくれるものでしょう。
……しかし『念の為』山道を通り、中荒隅まで戻られる方がよろしい」
……全く話が読めない。なぜ自分が裏切り者扱いを!?
「では、自分は任務に戻ります故。
……今しばらくの辛抱です。中荒隅で耐えてくだされ。では!!」
そう言って、白丸とやらは走って消えていってしまった。
* * * * *
自分は、八曜の教えに反いたことなどない。
なのになぜ、国からあらぬ疑惑をかけられねばならぬのか。
『京国は一枚岩ではない』
そんなおかしなことがあってたまるものか。我々は同じ川の流れの元にいるというのに。
いったい本国で何が起きている?
白丸とやらが言った言葉が信じられない。
しかし……言われた通り山道から中荒隅を目指す。
……小十郎やマーラは無事だろうか……
色々なことを考えているうちに……足音に気がついた。
……自分をつけている……。十人……いや、二十人……それ以上か?
これは……リヒト兵だ。
しまった……邪念に縛られているとは迂闊だった……!
晶は刀を構える。
すぐに両脇からリヒト兵が取り囲む。
再び、危機……。
晶が周囲のリヒト兵を睨み、ジリジリと距離を詰められると……
ギャ!!
という声とともにリヒト兵が倒れる。その奥に見知らぬ男が刀を構えていた。
「お前! 京武士だな! 助太刀をするからこちらにこい!!」
「……っ! かたじけない!!」
晶が男の方に駆け込む。
そして男と背中合わせになりながら、再び周囲を取り囲まれる。
「……八曜の神よ、我に力を……!!」
晶が念じ、リヒト兵に飛び込むと、男は反対方向に同時に飛び出す。
* * * * *
敵を率いる女性の将は、こちらが五人ほど斬ると、兵を退いた。
なんとか死地を抜けた。
「助かり申した。拙者、中荒隅の竹中晶と申す。
危ないところを助けていただき、かたじけのうござる」
男は、晶を見るでもなく……
「助ける気なんてなかったけれどな。
……いざ同族が襲われてるのを見ると、勝手に体は動くものだな」
なんだかこちらはこちらで、引っかかる物の言い方をする。
「名を、伺ってもよろしいか」
「……俺は弥吉。東堂の弥吉だ。仙野多摩を守ってた。……今は噴砂に住んでる」
「噴砂……?『虚民区』にござるか?」
「ああ。……捨てたんだ。京国を」




