第二次、塩と水の道の戦い。その一
敵は既に仙野多摩を出陣しており、晶たちが京浜大志に到着する頃には、京国武将、保坂勝峯の隊四千が出陣していた。
一方リヒト側の将はアルブレヒト・フロトー。
ザウター皇子ではないが、歴戦の戦士であることに間違いはない。
それよりも北の飛騨高雄からもリヒトの援軍二千が合流しようとしている。
戦力は拮抗している。
* * * * *
「……チ」
京浜大志を出たあたりで、晶の隣にいる藤が舌打ちをした。
「晶、俺の隊を預ける。勝峯殿を頼む」
「……お主は?」
「アルブレヒトなんて小者に興味ねえ。……アッチにやばいのがいる」
『アッチ』とはおそらく、飛騨高雄からの兵の事を言っているのだと思われる。
「……一人で行く気にござるか」
「他のは足手まといだ。あの蛮族は俺が止める……お前も気をつけろよ」
そう言って、藤は一人、人間とは思えない速さで戦列を離れた。
「藤殿!? 藤殿!!」
晶の声は既に届かなかった。
* * * * *
勝峯の隊は、アルブレヒトに対し有利をとっていたが、飛騨高雄の隊が加わると一気に旗色が変わる。
押され気味の勝峯の隊に、晶が合流することになった。
「勝峯殿!! 中荒隅の竹中にござる!! 助太刀致す!!」
敵は、リヒトでも赤い鎧を身に纏った京武士のような備えを纏っていた。
この隊が陣の先端に居座っており、粘り強くアルブレヒト軍を支えている。
晶としては、実戦で隊を率いる経験など無かったが、藤の隊はよくついてきてくれた。
(八曜の神よ……我に力を!!)
晶が気を吐き、赤備を切り開いていく。
「敵将アルブレヒト! 覚悟ー!!」
晶は敵将に突進する。アルブレヒトも応戦する。
一合。また一合。
そして、三合目で晶の突きがアルブレヒトの胸を貫いた。
「敵将! 竹中が打ち取った!」
晶の背中に歓声が上がる。しかし、敵の様子がおかしい。将が打ち取られても一向に引く気を見せぬ。
やがて目の前に現れたのは、相撲取りのような巨大なリヒト人だった。
まるで雄牛! まるで壁! そして将を失っても退く気などなく、長槍で突いてきた。
(く!!)
しかもその長槍の動きが力任せではなく、嫌に繊細である。
晶も負けてはおらぬ。刀でしなる槍をしっかり受け止め、一進一退の攻防を繰り返すうちに……
赤備のリヒト兵に囲まれていた。
(しまった……!!)
四方、八方が今やリヒト兵だ。
遠くで自分の名を叫ぶ声は確かに聞こえているが、たどり着くのが難しい。
(これまでか……)
晶は目を閉じ、刀を地に置いた。
「こやつは京武士の敵将である!! ヴォルフが捕らえた!! 連れていけい!!」
即座に晶は縛られ、目を布で覆われる。
自分の名を叫ぶ声が、遠ざかっていく……。
* * * * *
なんという失態だ……。
自分がここまで戦下手だとは思っていなかった。
これも自分の増長が招いた結果だろう……
方角的に、おそらく自分は仙野多摩に連れて行かれている。
……あのザウターに斬られるのだろうか……。
(八曜の神よ、お導きを)
晶は、神の名を呟き、覚悟を決め、自らの混乱を鎮めた。
その瞬間である。
あたりに白い霧が立ち込め、
リヒト兵が咳き込み出した。
(何事か……?)
晶は目を覆われており、事態が掴めぬ。
ただ、足音が小さく近づいてくるのはわかった。




