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『戦況を覆す何か』その一

 すぐに人間が集まってくる。

 顔に怪我をした晶が鬼の形相で刀を京武士に構えている構図を見て、全員が只事ではないことを理解した。


 両腕を挙げたまま、藤と名乗った男は囲まれる。


「何事だ」


 綾鶴の声に、晶の緊張感も解け、ようやく構えを解いた。


「わからぬ。この者を城に案内せよ。詳しい話を聞こう」


 全員が事態を飲み込めないまま、

 藤と呼ばれる男は中荒隅の城に通された。



 * * * * *


 城の中でも藤は自然体で、どかっと胡座をかいていた。

 彼の正面に晶。そして晶の耳を治療する陽香《ようか》。その後ろに綾鶴《あやつる》が腕を組んで立っている。

 そして相手が荒神からの使者だろうといつもの姿勢で横になっている菊千代。その隣に実峯《じつみね》。


 晶に切り掛かったということで、藤の後に小十郎が立って睨みをきかせている。

 

 軍議室内は、独特な緊張感に包まれている。


「で? 将軍府のお偉いさんはどんな逆転の策を持ってきたんだい?」


 さして興味もなさそうに、菊千代が尋ねた。


「それが俺にもわからなくてな」


 自然体な藤の言動は、嘘をついているのかどうすらかわからなかった。


「ただ、『戦況を覆す何か』であることは聞いている」


 訝しみながら実峯が首を傾げる。


「その『戦況を覆す何か』と、中荒隅《なかあらすみ》と、なんの関係があるんです?」


 すると藤は実峯をまっすぐ見て、


「ここに持ってくる」


「オイオイオイ……まずは軍隊を連れてきてくれねえと!

 そんな大事なもの置いておけねえぞウチじゃあ!」


 綾鶴が身を乗り出すが、藤はさも当然のように語った。


「お前たちが知っているかどうかは知らんが……京国は現在、首都が攻められている。実際のところは京国は今緊張状態が続いていてな。

 西部重要都市から軍を動かし辛いのが現状だ。

 将軍府の右半分(京国東側)の上半分(軍部上層部)なんて酷いもんさ。

 京国東側の数都市をリヒトに献上して、一度停戦を申し込もうなんてことを本気で言ってるくらいだよ。

 そうさせないための、『重大な任務』だ」


「なんだかわからないけれど……」


 菊千代が大きなあくびをした。


「中荒隅を再興しろだのなんだの言ってる割には、守る気はないってことだね。本国は」


「そこは、竹中を信頼してのことさ」


 先ほど斬りかかってきた人間が、悪びれもなくそんなことを言う。


「とにかく、『モノ』がここに届くのは二週間後が目安だ。それまでなんとかここを維持してくれ。それじゃ」


 藤が立ち上がったのを、小十郎が立ち塞ぐ。


「……なんだよ」


「……八曜の教えでは、刃を向けるのは宗敵か仇敵。なぜ晶様に刃を向けた」


「八曜?」


 すると藤は、プ……と息を漏らした。そしてそれは腹を抱える大笑いになっていった。


「何がおかしい」


「ははは!! すまん。 あはははは!! 八曜か!!」


 すると藤は晶に向き直り、


「失礼仕った。喧嘩の件は俺に責任がある。だが、お陰でお前が信頼に値する男だとわかったよ」


「それを言えば許されると思っているのか!!」


 小十郎にしては熱くなっている。敬虔《けいけん》な八曜教徒だ。神を笑われて黙っていられなかったのだろう。


「じゃあ、二週間後にまた会おう」


 小十郎を押し退けるようにして、藤は去っていった。

 結局、本国の言う『戦況を覆す何か』は、解らないままだ。


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