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小十郎先生

 晶とマーラは、二人で中荒隅《なかあらすみ》に戻り、二人で軍議室に入っていった。


 帰ってきた時には、朝になっていた。


 綾鶴《あやつる》に、実峯《じつみね》、それから菊千代と、いつも通りの人間が待っていた。


 三人はマーラより先に、違和感を覚えたようである。


「……光太郎は?」


 口火を切ったのは綾鶴だった。


 晶は、一瞬顔を引き攣《ひきつ》らせたが、表情を崩さずに言った。


「ザウターに斬られ申した」


 一瞬の沈黙の後、姿勢を変えたのは意外にも菊千代だった。横になっていたのが突然正座になり……

両手で『二』のポーズを作り、深々とお辞儀をした。その場にいた、全員が、同じことをした。



「……ところで、小十郎は無事か?」


 * * * * *


 晶達が山脈に行っている数日のうちに、小十郎は回復し、村にやってきた子供に勉学を教えていた。

 教室には五人ほどしか居なかったが、小十郎は熱心に読み書きを教えている。

 その五人の中には、村に降りてきた少女もいる。まだ、表情は戻らないが、一生懸命小十郎の話を聞いていた。


 あの子供は、小十郎が預かることになったのだそうだ。

 五人の子供に対して、丁寧に京言葉を教える。

 今までに見たことがない、穏やかな顔だった。



 * * * * *


「光太郎が?」


 授業の合間、小十郎に光太郎の悲報を告げる。


 小十郎は俯き、自分の膝を殴った。


「……俺がついていれば……」


「馬鹿を申すな」 


 小十郎は、両腕を胸の前に持ってきて、祈った。

 

「……こんなことをお前の前で言うのは、許されないことだが……」


「何か?」


「死ぬのが怖くなった」


 祈りながら、小十郎の腕は震えている。


「八曜の神に殉ずることは、神の元に行ける幸せ。恐ることにあらず。

 ……わかっているんだ。わかっているのだが……」


「せんせー!!」


 子供が駆け寄ってくるのを感じ、小十郎は顔を手ぬぐいで擦った。


 声をかけてきたのは村に一人で降りてきた少女だ。


「おお、すまん日依《ひより》、今行くから……」


 日依と呼ばれた少女の後から、残りの子供達もやってくる。



 小十郎が子供に囲まれ、寺子屋に帰って行くのを、晶は穏やかな表情で見送った。


 * * * * *


 その後、本国から送られてきた伝令は、京国、京浜大志《けいひんたいし》を奪還した知らせと、飛騨高雄《ひだたかお》が占領された知らせである。

 すでに一進一退の攻防が繰り広げられているという。


「兄貴二人が気味の悪いことをしている間に、しっかり弟が働いてるな」


「綾鶴さん! 感心することじゃないですよ!!」


 綾鶴と実峯の掛け合いをよそに、横になりながら菊千代が大陸図を眺めている。


「それにしても、第一皇子は動かないね。晶くんの話だと、本気を出したらとても怖そうな軍だけどな」


 晶は大陸図の大山脈に視線がいく。


「連中は……今や京の都市など眼中にないのやもしれぬ……」


「……何があるんだい。この山脈に」


「拙者が見たのは……人を食う鳥にござる」


 室内の人間が互いに顔を見渡す。


 そこに、一羽の鳥が軍務室に入ってきたので、実峯が ワ! と飛び上がってしまった。


 手紙を持っている。


「……桔梗凛《ききょうりん》から?」


 晶は手紙を受け取る。


「……我々が破壊した施設が、元に戻っている……とのことにござる」

 


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