↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
36/83

ラムシュタイン皇子

「小十郎! 無事であったか!!」


 晶と小十郎、闇夜の山道で奇跡的に合流できた。


「ああ。俺はな……で、砦には何があったんだ?」


「うむ……それを……この者に詳しく聞こうと思っていたところだ」


 晶は、浴衣の帯で口と腕を縛った女将軍を、森の中に連れていった。

 念の為、光太郎には刀を抜かせた上で、晶は女将軍の口の紐を解いた。



「……お主……京言葉は?」


「……スコシ」


 女将軍の方は、観念しているようで叫んだり暴れたりすることはなかった。

 

「お主、名は?」


「……マーラ……ラムシュタインノ、ハイカ……」


「ラムシュタイン? おかしいですな。あの施設は中央方面軍の施設じゃあないんですかい?」


 晶は指を顎に当て……


「あの施設はなんだ?」


「……トリヲ、ツカマエテ、ツレテクル」


「鳥? なんのことですかい?」


 おそらくあの巨大な鳥のことだろう。もはや鳥ではない。化け物だ。

 

「あの鳥は? なんだ?」


「……ワカラナイ」


 光太郎も、小十郎も、もはや話についていけなくなってきた。

 と言うより、寒さで頭が働かなくなってきたのもある。


「……話を整理しよう。

 あそこの施設は、長男と次男が結託して建てた施設にござる。

 その目的は、拙者たちが施設に入ったときに拾った、リヒト兵の腕に関係している」 


「この山脈にしか生息しない、バケモノ鳥が居るってことですかい」


「……おそらく。弟に京国を攻めさせている間、兄貴たちは、そんなものの研究をしていたと言うことにござる」


「短期決戦なんて、ハナから眼中になかった……?」

 

 光太郎は白いため息をついた。


「まあ、考えたってわからないものはわからない。一度引き返しましょう。……この将はどうするんです?」


「……連れていっても邪魔なだけにござる。ここで解放する」


「だとさ。よかったな。仏《ホトケ》の大将に捕まって」


 光太郎がマーラの拘束を解こうとした時である。


「マ、マテ!!」


「……なんだい」


 マーラは、晶の前に立ち、跪いた。


「コノサキ、モウヒトツ、キチ、アル」


 三人は、互いに顔を見合わせる。


「ソコニ、ラムシュタイン、イル」


「……確かなのか」


 マーラは頷いた。


「ワタシ……ニシガワ、ノ、ムラ、コウゲキシタケレド、シッパイシタ」


 マーラは泣き出した。


「ソシタラ、ラムシュタインニ、コロサレカケタ。ブカ、ミナ、コロサレタ!!」


 光太郎は、嘆息を吐いた。


「そりゃ可哀想だけれども。発言に気をつけなよ。あんたが攻撃した村、この人の村だよ」


「ラムシュタイン!! ユルセナイ!! ……オネガイ、ツレテッテ……」


「はああ。どうします? 大将」


「……嘘をついているとは思えん。それに敵の皇子なら斬る。

 マーラと言ったか。そこまで案内いたせ」


「マジですか!? もう……命がいくつあっても足りねえや……」


 * * * * *


 マーラに案内された場所は、山の中腹を森の中を北西に進み、仙神堀《せんじん堀》と、中荒隅《なかあらすみ》の中間あたりにあった。

 そこは……さっきの砦よりも高く、広い施設だった。


 なるほど。ここなら天候次第では中荒隅まで見渡せる。 

 西部方面軍は、この基地の建設に時間をかけていたことになる。

 

 たどり着いていた頃には、すでに朝の白々とした光が大地を照らしていた。


「二十人……ですかね。外に。中には? やっぱり百人ですか?」


「サンビャク、イル……」


「三百……俺は正直疲れてますがねえ。どうします? 夜まで休みませんか?」


 晶は、マーラに問うた。


「あの中に、ラムシュタイン皇子がいる。間違いないな」


「……ソウダ」


 光太郎は頭を掻いた。


「正気かよ……どうします? さっきと同じ手で行きますか?」


「うむ……あの扉を開かんと……どうにもならぬ……」


 茂みから砦を睨んでいる。この短時間で、我々に気がつかれないように、こんな施設を作っていたのだ。

 もしかしたら、中荒隅も仙野多摩《せんのたま》も関係なくて、この砦を建設すること自体が本命だった?

 晶にさまざまな考えが浮かんでは消えた。


「ダイジョウブ、マカセロ」


 そう言って、マーラが一人、立ち上がって、砦の扉まで歩いていく。


「お、おいおい!!」



 マーラが何やら、門番に一言、二言喋ったと思ったら、門番が扉を開けた。

 ……その瞬間にマーラは突然剣を抜き、二人分の首を落とした。


 光太郎は思わず目を伏せる。


「マジかよ……」


「始まってしまったものは仕方がない!! ……八曜の神よ、力を!!」


 晶は砦に駆け出す。

 小十郎も同じ文言を小さく呟き、砦に突進していった。


 それを光太郎は唖然と見ていた。


「光太郎!」


 砦から、斬られたリヒト兵が倒れると、中から晶が出てくる。


「砦に火を放て!! ここを廃棄する!!」


「火……大将は、どうするんですかい!?」


「拙者たちはどうにでもなる!! やれ!!」 


* * * * *


 先ほどの戦いと含めて、晶たちによる一連の砦への攻撃は、のちに『雪壁大立《せつへきおおた》ち回り』と呼ばれ、

後の京で語種となり度々落語や講談にて語られる戦いとなる。


 とにかく、国の忠のために斬って斬って、斬り倒し、いよいよ刀が使えなくなるとリヒトの長剣も拾った。

 

 この時の晶は確かに、リヒトでは恐怖の象徴となっている。

 幾人、人を斬っても、疲れず恐れず向かってくる。

 まるで『亡霊と戦っているかのごとし』と、噂が立つほどである。


 まさか敵も、三百人で守っていた砦を、四人に攻撃されると思っていなかっただろう。

 やがて光太郎によって砦に火がつけられるが、それでも晶は止まらなかった。


 


* * * * *


 煙の中、小十郎が腹から血を流し、ふらふらと倒れ込んだ。


「小十郎!!」


 もはや味方に構っている余裕などなかったが、晶は目の前の二人を突き殺すと小十郎の元に駆け寄った。


「お……俺は大丈夫だ。あいつ……」


 小十郎が指を刺した先には、きっ先に血のついた剣を携える、リヒト人がいた。


「……ラムシュタイン皇子にござるか」


 晶は青眼に構える。


「八曜の裁きを受けよ!! お覚悟!!」


 晶は体から突きを繰り出す。


 慣れない長剣ではあるが、一合、二合。

 三合目で敵は間合いを開ける。


 火はすでに砦中を包んでいた。


(神よ、力をお与えください!!)


 晶は念じて、長剣を上段に構えると、相手も同じことをした。


 ジリ、ジリと間合いを詰め合う。


 ギイン!!


 重たい袈裟斬り同士がぶつかる。力では晶は不利である。

 踵が、ズルリ、ズルリと後ろに向かって押されていく。


 力負けする直前で晶は一度力を抜いて、リヒト人がするような見事な横払いを繰り出す。

 それを皇子は剣の腹で受け止め、再び上段同士の睨み合いへ……。


 ジリ、ジリと間合いを詰め合う。


 そこに……


 ダン!! ともの音が聞こえたと思ったら、マーラがラムシュタインの背中から突きを繰り出していた。


 皇子が倒れる。


「……終わり申したか……」


 マーラは、遺体をひっくり返すと……


「チガウ!! コイツジャナイ!!」


 と叫び、泣き出した。

 どうやら、影武者を立てられたようだ。


「とにかく、ここを出るにござるよ」


 晶は小十郎の傷口を押さえ、抱えながら、マーラを伴い、焼け落ちる砦を後にした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。