中央方面軍偵察。その一
……晶達は山道の、道なき道を東に向かって進む。
晶、光太郎、小十郎といつもの三人である。
山道などというものはなく、京浜大志の南側の山をなぞるように仙野多摩を目指す。三人だからできる行軍である。
もちろん中荒隅にまとまった兵はおらず、いつリヒト西部方面軍から兵がせめてくるかもわからない。
そのリスクを背負ってまで仙野多摩を調べに行きたかったのは、
『カンプフ・フュア・ディー・フライハイト』以来、特に大きな動きを見せていないリヒト中央方面軍の動向が不気味すぎるのだ。
潜入はせず、外観から内部を偵察して中荒隅に帰る。
* * * * *
京国、東部は仙野多摩。
東側を代表する大都市であり、寄席や浪曲などの文化の発信地であると同時に、戒律の厳しい京国民にとっての娯楽と社交の場でもあった。
それはそれは大勢の人間が通りを歩いていた。
それが今は、静まり返っている。
晶達は、仙野多摩を一望できる山から都市部を見渡している。
「もぬけの殻とはこのことですねえ……」
目を凝らしながら光太郎がつぶやく。
「……連中は既に、仙野多摩を出発したのだろうか?」
「いや……おそらくそうではござらん。
あそこ……城の松明が見えるにござるか」
「ん? んんん?」
「……普通、城を出るときは松明をわざわざ消しては行かぬ。
それが、あそこも、あそこも……松明が新しいまま残っている。
連中は未だ、ここで何かをしているのにござる」
晶は、自分で口にした言葉に自分で引っかかった。すなわち、『何かとは?』 ということである。
戦略的な事を考えるのであれば、どうしたって飛騨高雄、もしくは京浜大志に兵を向かわせるのが定石。
それを、あえてしないのか、それができないのか?
「仙野多摩ねえ……あそこにこもって、有利なことなんてありますかねえ。
案外、ザウター将軍の腹は、兄弟達が京武士と激しくやり合って、共倒れになったところを荒神だけ占領して漁夫の利。
なんてことはないですか?」
晶は首を傾げた。
「もちろん、それも全くないとは言えぬ。その場合は我々としては西部方面軍だけ気にしておれば良いのにござる。
しかしながら……この間の補給路を塞がれた件もござる故、少し慎重に観察した方が良いかもしれぬ」
三人は、もう少しだけ山を降り、仙野多摩に近づいてみることにした。
* * * * *
晶が異変を感じたのは、陽も落ちて暗くなり始めた頃である。
(ン……!?)
晶は突然足を止め、土に耳をつけた。
「なんですかいその格好は。耳垢が詰まったんですかい?」
「シ!!…… ……足音にござる」
「足音……?」
三人は静まり、光太郎と小十郎は茂みに姿を隠す。
「……数は百以上……大軍にござる……!!」
突然晶は立ち上がる。
「山の上から……?」
「「え!?」」
三人の視線が山の上に向けられたそのときである。
「もし!! もし!!」
京言葉が聞こえる。
思わず目を向けると、京の女性が茂みに隠れて手招きをしている。
「そこにいちゃ駄目! 連中が帰ってくる!!」
「『帰ってくる』……?」
「とにかく離れましょう。こっちへ!」




