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重罪人の話。その二

 そうだよ。


 ボクは飛騨高雄ひだたかおの戦で、リヒトのスタンウェイ皇子に捕縛されたのさ。

 それで、信仰心も愛国心も身分も捨てて、京系リヒト人になったのさ。

 だから、今ここにいるんじゃないか。


 それにしても、あの時のリヒトの兵は凄まじかったよ。

「戦場では何が起きるかわからない」

 散々言われてたことだけれども、嫌いな言葉だね。

 

 ボクが一度、京浜大志けいひんたいしで散々痛めつけた将兵達が、まるで別人のように突進してきたんだ。

 ボクは『魚鱗の陣』を敷いていたけれど、そんなのお構いなしに、リヒト兵がツヴァイへンダーを振り回してくる。

 二千そこらの兵が、四千の兵に敵う訳がないのが常識なんだけれどもね。

 それに、ボクの策は、いつでも四千と四千で挟撃できるよう陣を敷いていた。

 なのに合流も遅れたんだ。

 これは……リヒトの軍師が凄まじかったんじゃない?


 そう、あの仮面の軍師。……名前忘れたけれど。

 あれの方が『西の亡霊』なんかよりすごいし、なんなら彼のことの方が多く語れるよ?


 

 まあそれでボクはリヒトにお縄になった訳だけれども、ここで昔取った杵柄が働いたよ。

 

 ボクの家は名家でもない。だから実力より家系を重んじる京国からは冷遇されていたんだ。

 お袋はボクを産んだ後、産後の肥立ちが悪くて死んだ。片親の親父は軍師に取り立てられるはずだったのに……

例の『軍略試験』で柳谷に負けて労働者にしかなれず、体が弱いもんで事故で死んだ。

 ボクが晴れて京武士になってから知ったけれど、試験は柳谷ってだけでだいぶ優遇されていたと思う。

 親父は、柳谷に殺されたんだ。いいや。

 京国に見殺しにされたのさ。

 貧しさも、体の弱さも、信仰によって救われるって彼らは言う。

 それを信じて、親父もお袋も死んだ。


 ……タバコ、もう一本恵んでもらっていい? ありがとう。

 バカだよね京国って。ボクの素性がわかってたらボクだって自分を京国将軍府になんて入れないよ。

 だけれども京国は、信仰してるフリさえすれば誰でも許される。


 噂で聞いたけれど、終戦した今、これからはリヒト人も積極的に軍に登用するんだって?

 ……今に痛い目に遭うよ。


 わかってもらったと思うけれど、ボクは京国が嫌いだ。

 京国と柳谷をぶっ殺すためなら、リヒト人にだってなる。スタンウェイ皇子の前で跪いた時、本当はこんな日を待ってたのかもしれない。


 だけど一番嫌いだったのは確かに、そんなボクを差し置いて、あの時、試験当日に二位を取った竹中某たけなかなにがしだった。

 あれも八百長さ。試験官の車沢加賀美くるまざわかがみだかなんだかが評価しただけで、あんな兵法はおとぎ話だよ。

 

 もう何も失うものがないボクは、それを知らしめたくて、せっかくリヒトに入ったのに……。

  

 飛騨高雄が落ちたから、中荒隅から、竹中晶も首都に来るって思っていたのに、奴は最後まで荒神に現れなかった。

 車沢加賀美や、増田の怪人なんかよりも、ボクは奴との対戦を楽しみにしてたのに。

 ……奴はその時、何をしていたか?


 これは後で知ったんだけれども、ボクがリヒト軍に入ってからは、

奴は手勢で仙野多摩にいる中央方面軍の動向を調査しようとしていたんだそうだ。


 ……ハァそれにしても、いっぺんでも、奴と戦いたかったな。



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