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重罪人の話。その一

 意味のある戦争などなく、意義のある戦死などない。


 その理は、人生に意味を見出すことなど、どのような世界においても難しく、

まるで暗闇の中で空気の輪郭をなぞるようなものと同じだからである。


 ではなぜ人は戦いをやめられないのか。

 国は戦いに依存をするのか。

 

 それは空気自体に輪郭はないが、風が吹けば桶屋が儲かるからである。 


 終戦後。荒神拘置所あらかみこうちしょにて。榎蝮入道えのきまむしにゅうどう




* * * * *




 ……ボクになんの用?

 

 あんた……京人?

 

 ……今更京人が、ボクに会いにこんな場所まで来るなんてね。

 さては……ボクによほど恨みでもあるのかな?

 でも残念。戦争は終わっちゃったんだよ。

 

 ……何の用があってもいいけれどもさ。ボクに煙草を恵んでくれないかな。

 こんな檻に入れられているもんだから、ヤニがきれちゃってさ。

 視界はぼんやりするし、頭もボーッとするんだ。

 話があるなら一本恵んでおくれよ。


 ……本当に持ってたんだ。あんた、本当に京人?

 京の人間にタバコなんて持ってるところ見つかったら、ボクみたいになっちゃうよ?


 まあいいや。どうやら、よほど聞きたい事があるみたいだね。

 ボクに用があるなら今のうちだよ。

 もうじき、僕は自分の腹を切らないといけないみたいだからね。


 ……切腹か。もう、やり方も忘れちゃったよ。

 随分昔に習った気がするけれど、ボクは特別、名家の出じゃあないからね。

 

 まあいいや。ボクも暇をしていたんだよ。

 で、何が聞きたいの?


 ……『西の亡霊?』


 …… ……いたねえ。そんなのも。


 そんな奴の話が聞きたくて、こんな場所まで来たのかい?

 じゃあ申し訳ないけど人違いだねえ。

 と言うのも、そこまで接点がないんだよ。ボクは。

 だから噂しか知らない。


 ヤレ、三人で数十人斬っただの、一人でどこか燃やして数十人殺しただの。

 そんな、根も葉もない噂しか知らないよ。


 第一、会ったことも一度しか無いんだよ。


 ……その時の話が聞きたいって?

 はあ。まあ、あまりいい思い出じゃあないな。

 どうせなら、ボクが京浜大志で、リヒト国の皇子軍を相手に大勝した話の方が面白いのに。


 まあいいや。タバコの礼さ。


 * * * * *


 荒神で催された、『軍略試験』の話は聞いた?

 あれは……何年前だっけなあ。

 

 試験とは言いつつも、順位をつけられて、ヤレ柳谷やなぎやだ、宇津木うつきだのと比べられる不愉快極まりない催し物さ。

 ボクは将軍府は嫌いだけれども、アイツらが特に嫌いだからねえ。

 柳谷に一泡吹かせてやろうと思って出てやったのさ。

 

 でも結果は酷いもんさ。アレは柳谷の顔を立てるための八百長試合もいいところだ。

 事実、毎年開催されてるけれど、いつも優勝はどっかの柳谷だからなあ。


 もはや文句も言う気も失せるけれども、我慢ならないのは僕の上にもう一人いた事さ。


 ……そうだよ。それが『西の亡霊』だか『悪霊』様だ。


 柳谷云々に負けるのならまだ仕方がないとして、一番納得がいかなかったのがそれだよ。

 しかも解答内容を聞いて、あったまきたもんさ。

 何だい。千人相手に十人で充分とか、馬鹿じゃん。

 

 こんなの納得いかないから、表彰式の後でケチでもつけて喧嘩してやろうって相手に話しかけたんだよ。

 話をしたのなんて、それが最初で最後だったんじゃないかな?


 * * * * *


 表彰式では、三位まで将軍府に刀と、将軍府に登用される資格を与えられる。

 ボクは柳谷に親を殺されたようなもんだからねえ。そんなボクが将軍府付きの軍師様になる。ザマアミロって思ったよ。

 

 ボクに刀を渡してくれたのは、柳谷だったよ。

 綾国あやくに綾湖陵あやこりょう姉妹だ。姉妹でいつも一緒にいる気持ちの悪い柳谷だよ。

 もらった刀でそのまま切り付けてやろうかと思った。


 いわゆる『金の間』の入り口に目をやれば、寸馬亭金座すんばていきんざ将軍を筆頭にして、派手で趣味の悪い着物を着ている久遠寺花座右衛門くおんじはなざえもん城軍、寸馬亭郁也すんばていいくや将軍、盲人だもんで杖をついている大羽根園おおばねえん将軍、車沢加賀美くるまざわかがみ将軍、それから巨人、増田忠盛ますだただもり将軍。

 いわゆる京本八将軍が次々と襖の奥から入室してくる。

 そして、その後ろにおいでなすった。京本国光大将軍。それから護衛の古語織こごおり将軍だ。

 壮観な景色だったよ。


 大将軍が直々に、将軍府に登用する段になるんだけど、この年は異例だったんだ。

 一位の柳谷は辞退して、二位の竹中は中荒隅なかあらすみだかどこだかに帰るってんでやっぱり辞退。

 繰り上がってボクが首位で登用されたんだ。

 


 * * * * *


「千人相手に十人で勝てるわけがないだろう」


 ようやくボクが竹中に声をかけると、あいつ、目を丸くして驚いてたよ。

 まさか他人がそんなことを言ってくるなんて思わなかったんだろうね。


 そしたらアイツはさあ……

 子供みたいな照れ笑いを浮かべて、


「拙者が戦場に立つつもりにござった。前提を見誤り、恥ずかしい限りにござる」


 とか言ったんだよ。

 戦場をナメてるとしか思えないよね。





 でも……思い返してみたら、こいつのこの一言があったから……かな。

 こんな奴には絶対負けない……違うな。


 クソ柳谷よりも、こいつを戦場で打ち負かしたい。

 飛騨高雄ひだたかおで野蛮なリヒト兵に縛られて、リヒトの皇子に跪いた時、そんな風に頭をよぎったのは事実だよ。


 まあ、結局対戦は、叶わなかったんだけれどもね。


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