再び山へ
中荒隅城に建設された軍議室にて、緊急の会議が開かれる。
ここは以前、囲炉裏のみがおかれていた同じ場所で、菊千代がここを気に入ったからそのまま軍議室になったらしい。
京浜大志が陥落した現状を、実峯が説明し終えた所である。
菊千代は囲炉裏の風上で堂々と横になりながら、ふわあ。と大きなあくびをした。
「まずいな……京国が分断されちまったようなもんだぜ……」
綾鶴が大陸図を眺めながら独りごちる。
それにはあまり気にしない様子で、菊千代があくび半分に答える。
「飛騨高雄が無事なうちは、京浜大志なんていつでも取り戻せる。
それに京浜大志の心配はするなって、本国の人が言ってるんだろ?
僕たちが考えることじゃあないよ。
厄介なのは……補給隊や行商人が京浜大志にいたろ。
彼らは? 無事なの?」
すると、舞が手を挙げて答えた。
「現在、業平様や行商隊の方々は、仙神堀と隅扇島に避難されて、拠点を構える準備をしているようです」
「あ、そ。じゃあひとまず安心だ」
菊千代はもう一度、大きなあくびをした。
「随分余裕なんだな?」
納得のいってなさそうな綾鶴の声に、菊千代は片目だけ開けて応じる。
「リヒトが本気じゃないうちは、主要都市三つは大丈夫さ」
「本気じゃない? 俺にはそうは見えないがな」
菊千代は、一度息を吐くと……
「実峯。説明してあげて……」
と、ふぁああとあくびをして眠ってしまった。
「あ、はい。ええと……」
実峯は再び、広げられた大陸地図の前に立つ。
「つまりは、リヒトは一枚岩ではないということなんです」
「どういうことだ?」
実峯は大陸図面の京浜大志を指す。
「京浜大志が、スタンウェイ皇子の手に落ちた今……」
京浜大志においた指を東に滑らせる。そこにあるのは現リヒト領、仙野多摩である。
「ここにいる長男、ザウター将軍の軍が自由に動けるはずなんです。
第三皇子の軍と合流し、仙神堀を攻撃するもよし、……」
「ふぁああ……もっと厄介なのは、飛騨高雄を攻められることだけどね。
……続けて」
寝ながら菊千代が割って入ってきた。
「ともかく、リヒト全体の目的が京国に対する勝利なら、この部隊がここに駐留することに意味はないんです。あるとすれば……」
実峯は、京浜大志と中荒隅を交互に指す。
「中荒隅がリヒトの手におち、より盤石な体勢が整うまで力を蓄えて……
仙神堀を堕とす。
例えば……第三皇子スタンウェイが、京武士に討ち取られでもしたら、リヒト国民は怒りに燃えることでしょう」
「弟を戦意向上の道具に使うのかよ!! なんつー国だ……」
綾鶴から嘆息が漏れる。
「つまりリヒトにとってこの戦いは、ただの領土を広げる戦いではなく、次期皇帝を決めるための戦いである。
と、見た方が自然ということです。京浜大志まできたリヒト兵は、リヒト兵から見放された、言わば独立部隊のようなものです。
リヒトに占領された訳ではないと考えれば、この部隊に限って言えばどうにでもなります」
綾鶴は仙野多摩を睨んだ。
「こいつ等……何を考えてるんだ?」
* * * * *
会議が終わった後の事である。
中荒隅の入り口で、舞がウロウロしていた。
そこに晶がやってくる。
「いかがした」
「あ、晶さま。それが……業平様からの補給隊がそろそろやってくる筈なのですが……」
「確かに。日が空いてござるな」
「京浜大志が陥ちて……物流も混乱しているのかもしれません……」
「ふうむ……」
晶は、胸元から大陸地図を広げた。
そして、補給路を指で辿る。
「補給路は、この辺りの山際を進むことになる……」
その中で一番京浜大志に近い場所で、晶の指は止まる。
「この辺りで何かあったとしたら……?」
「え……まさかそんな……」
「……」
駆け足が山の麓へつながる道から聞こえてくる。
補給隊かと思ったらそれは伝令係だった。
「伝令! 伝令!」
「いかがした」
「月光鴉半兵衛殿! 討死にとのこと!!」
ぐ!! ……と晶は唇を噛み締めた。
……あの仮面の男か?
それとも仙野多摩に駐留している第一皇子の軍か?
「……輸送隊が心配にござる。舞殿、留守を頼むと皆に伝えられよ。」
「え!? は、はい!」
晶は、光太郎と小十郎のみを連れて、山を降りた。




