表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
27/45

鬼の東進軍

 晶たち四人が中荒隅なかあらすみに着く頃には、あずま屋がとりあえずの城になっていた。

 そして田畑が増えた。住民も増えている。

 

「今は百人くらいかな。ようやく、村らしさを取り戻しつつあるよ」


 晶を出迎えた綾鶴あやつるが、満足そうに中荒隅の景色を眺めている。

 

「うむ……。夜草よるくさも、この村の者たちも、今頃喜んでいる事にござろう。ご苦労であった」


「おう。……あと、お前が留守の間に加賀美かがみ様から手紙が届いてたぞ」


「加賀美殿から?」



 * * * * *


「晶へ。

 淀桂よどかつらの件は、我々としても不甲斐ない結果となってしまった。

 この件のことで君にも心配をかけたと思う。優秀な弟子を二人も失ってしまったことは痛恨の極みではあるが、

私は悪運しぶとく、健在であるので君は君の仕事をこなしてほしい。

 東部戦線は問題ない。

 これは、逆を言うと未だ、中荒隅が危険な状態であることを意味してはいるが……。

 リヒトの戦略はあくまで大陸西側からの侵攻だ。

 スタンウェイ皇子は、隣人として持つにはこの上ないほど望ましい人物には違いないが、一国民を背負っていけるほどの器の持ち主にはなり得ないだろう。

 リヒト皇帝もその辺りの事情を解っている。よって、国が積極的に彼を助けることはしないであろう。残酷な話だが、それがリヒトという国だ。

 今頃、役に立たない兵のみを押し付けられて、兵糧不足にあえいでいる頃に違いない。

 それと、淀桂の奪還に、京国首都、荒神付きの将、月光鴉半兵衛げっこうがらすはんべいの隊が出陣しておる。

 良い知らせはそれだけではない。

 君も名前は知っていると思うが、京国の義賊として知られる人斬り『伊罪いざい』が、リヒト狩りを始めて大陸東部に現れているという。

 彼らは二重苦、三重苦の中、京浜大志けいひんたいしへの侵攻を今頃、リヒト本国から突きつけられている頃だ。

 よって君が思う以上に、彼らの状況は良くない。

 ここ数回、悪運よく勝利を重ねているがそれも長くは続くまい。

 さしずめ、リヒトの神が天に見放された皇子に、同情票を与えただけのことだ。京浜大志が落ちることは、どのような奇策を用いてもあり得ないと断言しよう。

 君には、とにかく中荒隅を一刻も早く復興させ、リヒトから防衛してほしい。

 むしろ私の心配はそこにある。

 中荒隅が無事の間は、京国は無事であろう。

 お互いの健勝を祈って。車沢加賀美」




 彼らしい、自信に満ちた文章だ。

 京浜大志の様子もこの間、自分の目で見てきたばかりである。

 

 淀桂が堕ちた時は、どうなるかと思ったがどうやら、これで一息つけるだろう。

 晶は、城の縁側に座り、刀と砥石を取り出した。

 綾鶴はなんとなくその姿を見ている。


 それは、痛々しいほどに欠け、曲がり、生々しい赤いものがついている。

 ……この期間、どこで何人斬ってきたんだこいつ……

 

 晶は、黙って砥石に水をつけ、刃こぼれの部分を研ぎ、金槌で曲がった刀身を真っ直ぐに整えようとしている。


「……買い替えた方が早いぜ?」


「む? ……うむ。そうにござるがな……」


「よほど思い入れのある一振りなのかよ」


 綾鶴が聞くと、晶はにっこりと振り向いた。


「なんの。ただの安物の刀にござる。拙者が貧乏性故」


 そういって、気が遠くなるような作業を黙々と始めた。

 ……こいつはこうしてる時に心が安定するのか? と綾鶴は考えた。



 その時である。


 山を、駆け上がってくる足音が一つ。



 晶は刀を研ぐ腕を止めた。


「で……伝令!! 伝令!!」


「おう。どうした」


「……京浜大志が……リヒトに占領されました!!」


「何!?」


忠盛ただもり将軍、琴音ことね将軍は無事に荒神あらかみに撤退した模様。なを、京浜大志は月光鴉半兵衛の隊が対応するので、

 晶どのにおかれましては中荒隅を死守せよとの事!! 以上にございます!!」



 * * * * *


「京浜大志が……信じられん……」

 

 晶は顎に指を置いた。


「……加賀美殿に二度も土をつけた男にござる。

 やはり、侮れぬ敵であったか……」


 京国は、首都への玄関口を制圧された事になる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ