とらつく野郎
四人が京浜大志に戻る頃には、あれだけ大勢いた行商達がいなくなっていた。
晶は、取り残されていた行商人に声をかけた。
「この静まり具合は何事か? 何かあったのにござるか?」
すると行商人は答える。
「ついこないだ、戦があったんでさあ」
「戦!? リヒトが攻めてきたと申すか!」
晶が聞くと、行商人は笑って答えた。
「奴ら、大したことなかったみたいですぜ。
こっちは忠盛様がいらっしゃるんだ。
かのお方がおられるうちは、京浜大志は安泰です」
……しかし相手はあの智将、加賀美に二度も土をつけた人物だ。
足元を掬われなければ良いが……
晶が心配していると、行商人は舞に話しかけた。
「それよりよ。業平さんが帰ってきてるぜ」
「業平様が……?」
* * * * *
「おう! オメーが晶だな!」
舞に紹介されたのは、恰幅の良い京人だった。
浴衣の袖を肩までまくる、と言う独特の着こなしをしている。
「中荒隅の、竹中晶と申す」
「おう。琴音ちゃんから話は聞いてるよ。俺は京浜大志のとらつく野郎、業平だ。よろしくな」
太い腕で、がっしりと握手を交わす。
義理と人情に厚い、京然とした非常に気持ちの良い人間だ。と、晶は感じた。
「……とらつく野郎……とは?」
「ああ? あー悪い。とらつくは俺の造語だ。要は北は荒神から、東は黒堀まで、
モノを届けて経済を回すためならどこまでも走る野郎のことさ」
なるほど。彼が京国の流通を仕切っているのか。
「で? おめえ、中荒隅を復興させるんだろ? じゃあ物流の線がねえと!」
「いかにも。それでただいま、舞殿に力をお借りしてるところにござる」
「ふぅん」
業平は、晶の全身を眺めた。それはどこか、品定めをしているかのようにも見えた。
「俺はな。まあ……俺はというか、京浜大志は、戦争には興味ねえ。
相手がリヒトだろうが、京人だろうが、虚民区の人間だろうが、取引できる奴とは取引する。それが俺たち『とらつく野郎』のルールだ。
この大陸を仕切るのが、最終的に京国だろうが、リヒトだろうが、どっちだっていいって俺は思ってるよ」
「……左様にござるか」
「ただ、経済の面から見て取引先が減ることは、これは俺らからすれば死活問題なわけだ。俺たちは当然、今まで中荒隅とも商談していた。
それがなくなっちゃあ、困るってな話だよ。わかるよな?」
随分素直な人間で、割り切った性格の持ち主なのもわかった。
「もちろん。中荒隅は拙者の責任において再興致す。その暁には、ぜひ業平殿との行商人にもいらしていただきたい」
晶がいうと、業平はビジネス・ライクに笑った。
「おう。じゃあお前は俺の取引相手。つまり仲間ってわけだ。
舞だってそろそろ自分で仕事とってくるぐらいのことを任せてえ。お前のところで使ってくれ。
こと物流のイロハは叩き込んだつもりだぜ」
「かたじけのうござる」
「あと、俺も中荒隅の復興に手伝えることがあるなら言ってくれ。
『困った時はお互い様』それが、京人情って奴だろ」
業平が言うので、晶は思わず微笑んだ。
「左様にござるな」
こうして、京浜大志の行商隊を仕切る斎賀業平という人物と、晶は知古を得たのである。




