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加賀美との再会

 リヒトの砦を落とした晶は、その報告を受けて、居ても立ってもいられなくなった。

 またしても恩師、加賀美かがみが土をつけられたと言うのだ。


 リヒトに、そのような軍略の天才がいる……?

 

 ならそれはどうして、リヒトが捨てていたはずの東部戦線にいるのだろう?

 全てがわからなかった。


 これはどうしても話を聞きに行くべきだ。

 晶は実峯じつみねと二人、山を降りて何度も人力車を借り、淀桂よどかつらまで向かったのである。



 * * * * *


「おお! 晶かい!?」


 淀桂城の道場から、汗をかいた好青年が晶を出迎える。


「ご無沙汰してございます。仁兄ひとしあにさん」

 

 仁と呼ばれた青年は、首から手ぬぐいをかけて、中庭に腰掛ける。


「大変だったな。中荒隅なかあらすみは」


『大変だったな』こんなセリフを、嫌味もなく、相手に気遣わせるでもなく、自然に話せる。

 そんなさっぱりとした魅力が仁と呼ばれる青年にはあった。


「ご心配おかけ申した」


「おう。まあ、なんかあったらよ、最後には淀桂にこいよ」


 良い意味で、今の世で言うところの体育会系の先輩みたいな方なのだろう。

 晶は深々と礼をすると、


「ところで、加賀美殿はどちらに……」


「師匠? ……ああ、まだ道場にいるよ」


 

* * * * *




「加賀美殿!! ……お久しゅうございます……!!」


 淀桂の道場にて、晶は恩師加賀美に膝をつけて礼をする。


「君こそ、よく無事にきてくれたな。さ、野暮な挨拶はこれまでにしよう。君と私の仲ではないか」


 加賀美は相変わらずである。厳格な面もあれば、目下の者に優しい一面もあるのだ。

 だから皆、彼についていくのである。


「実峯。此度の火計、見事であった。しかし、山の事を考えればもう少し有山の風を信頼して火量の調整をするべきであったな。

 山火事になってしまっては元も子もない」


「はい! 精進いたします!!」


「加賀美殿、ところで……何者にございますか。スタンウェイという皇子は」


「ふむ……」


 加賀美は少しだけ、首を捻って熟考した。


「誠実で見栄えもいい。真面目で勤勉な性格なのだろうな。

 確かにあれを殺されれば、国民は怒り狂うだろう」


「その者が、……加賀美様の手を煩わせている……?」


 ん? と加賀美は晶を見て、はははと笑ってみせた。


「そんなことが心配できてくれたのか君は。

 いやはや。面目ない。君も忙しい身だろうに」


 加賀美の笑顔が、自分を不安にさせないためのものだと、晶にはわかった。


「……加賀美殿、私も仲荒隅を再興するにあたり、殿のご助力が必要にござる。

 なれば殿、この場にて、この晶にご命じくだされ」


 晶がいうと、加賀美の表情が変わった。


「……スタンウェイ皇子の暗殺か」


「……左様にござる」


「ならん」


 いつの間にか、その顔は険しくなっていた。


「拙者は! この手の仕事には慣れてござる! ニーナ・ハーゲンの地図さえいただければ、見事皇子の首を……!」


「増長はその身を滅ぼす! 身の程をわきまえたまえ!!」


 厳しい言葉が晶の面を叩いた。



「増長……拙者は増長など……」


「私が正直懸念している部分はそこだ。

 今日も今日とて従者を一人しか連れてこず、君は自分の立場を弁えているのか!

 中荒隅は君にかかっているのだぞ!!」


 言い返せなかった。

 

「……かしこまりもうした。しかと、心に明記致す……」


「うむ……。ともかく今日は淀桂に泊まっていきなさい。

 宿を用意させよう」


 * * * * *

 

「本当に大丈夫なの? 中荒隅は……」

 

 城の外まで見送ってくれたのは、車沢家で晶が『あねさん』と親しむ、車沢晴美だった。

 

「ご心配おかけして申し訳ない。

 ……そちらも大丈夫にございますか……」


「うーん……」


 晴美姉はるみあねさんは思わず俯いた。


「リヒトは思っていたより不気味かもしれないね」


 晴美は、そんなつもりはなかったにせよ、晶を不穏な空気にさせる言い方だった。

 やはり、苦戦をしていて、手を焼いているのは間違いではないようだ。


 * * * * *


 晴美と別れ、実峯と二人、淀桂の城下町を歩く。



 茜空が、淀桂の取手川とってがわを照らす。

 確かに不吉な予感がした。

 

 ここで手を下さなければ、加賀美殿はかの皇子に破れるかも知れない。

 ……この取手川を登れば、そのままニーナ・ハーゲンに行けるのは知っている。

 

「実峯殿」


 川を見つめながら、晶は実峯に声をかけた。


「……先に中荒隅に戻ってくだされ」


「え?」


 と実峯が聞き返した頃には、晶は取手川を川上に向かって走っていた。


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