表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
14/24

最占領

 晶が菊千代きくちよを伴い、無事に西部中荒隅せいぶなかあらすみに戻ってきた時には、東部戦線の噂が届いていた。


「なんと!? 加賀美殿かがみの軍勢を数百の兵が打ち負かしたと!?」


 普段は落ち着いている晶も、この時は動揺したという。


「それで……加賀美殿は無事でござるか……」


「ええ。淀桂よどかつらまで無事逃げ延びたと聞いてます。

 リヒトからの追撃はなく、現在は膠着状態です」


 実峯じつみねが答えると、新参の菊千代が顎に指を添えてポツリと言葉を吐く。


「三人で千人を追い出すこともあれば、数百で軍神の兵を退けることもあるってことだね。

 ……淀桂よどかつらがこのままリヒトの手に落ちれば、仙野多摩せんのたまの軍勢は迷うことなく首都への入り口、

京浜大志けいひんたいしに攻め込むだろう。……そうなってくれたらこちらは少しは楽なんだけどねえ」


 綾鶴は、この新参者の意見を訝しぶ。


「その心は?」


「リヒトはなんで無茶な作戦を立ててここ、中荒隅なかあらすみの進軍にこだわったか?」


 新参者は質問に質問で返す。綾鶴は頭を掻いて困ってしまうが、実峯と晶はじっと一点を見つめていた。


「……短期決戦にござるか」


「だろうね。ここを足がかりにして、隅扇島すみおうぎしま仙神堀せんじんぼりを制圧する。

 そうすれば講和に持ち込めるってのがリヒトの腹さ。

 そして中荒隅に攻め込むなら、兵糧は現地調達になる。だから、

ここが拠点として機能せず、淀隅で敵が足止めを受けている今の状態が、京にとっては理想的な状況なんだよね」


「理想なもんかよ。こっちは都市一個獲られて、燃やされてんだぞ」


「戦況の話をしてるんだよ。柳谷のエリートくん」


 新参者に煽られて、綾鶴はカチンときたのか思わず菊千代を睨む。


「まあ、これで八人もこの何もない地に集まったのでござる。

 ……帰りがけに茶を購入してまいりもうした。

 まずはここで八人、茶でも組み交わし、中荒隅の再興を誓おうではござらんか」


 晶が一人で茶器を用意し、茶葉を入れ、井戸の水を入れていく。

 水出しのお茶を、八人分用意する。


「……そこのリヒト野郎ともか?」


 綾鶴あやつるは、小十郎こじゅうろうに毒突く。

 

「……俺は、席を外そうか?」


 小十郎は悲しそうに立ちあがろうとする。


「綾鶴! 小十郎殿は京の民にござる」


「それはその人が勝手に言ってるだけでしょう。私も信頼できない」


 綾鶴と夜草は、未だに小十郎に対する複雑な霧は晴れていないようだった。


「やれやれここにも、凝り固まった京国至上主義がいたもんだね」


 菊千代は呆れ返って吐き捨てる。


「……お前知ってるぜ。家の事とか全部弟に押し付けて仙野多摩で遊んで暮らしてたって?」


「綾鶴!」


「まあまあ、ここは晶どのの顔を立てましょうや」


 仲裁に割って入ったのは光太郎だ。

 

「……俺はお前のことも信頼してねえぞ。光太郎ってのは偽名だろ。

 お前も何か後ろめたいことあるんじゃないのか」


 廃墟を背に、決起会のつもりが、考えが一向にまとまらない。

 後に、『復興八将』なんて呼ばれるこの八人の始まりは、こんなものだった。

 

 ギスギスする八人の輪。そこに割って入ってきたのは……


「ほ……ほんとに人がいた!! ここは中荒隅かい!?」


 数名の男性だった。


「……いかにも、ここが中荒隅だが、お主たちは?」


 よほど、急いで山を駆け上がってきたのだろう。息を切らせてその場に倒れ込んでしまった。

 夜草が自分が飲むはずだったお茶を、倒れた男に差し出す。


「す……すまねえ。あんたらに……伝えねえとならねえことがあって……」


 綾鶴と晶が十名ほどの男女に近づく。


「お……俺たちは、仙野多摩から逃げてきて……京浜大志で暮らしながら、敵の情報を集めてるもんだ」


「おう。それで、俺らになんのようだ」


 すると男は、気管に入ったお茶に咳き込んで、胸を抑えてからこんなことを言った。


「仙野多摩方面から、リヒトがこの地を再占領しようって話があるんだ。

 数は数千。それを伝えておきたくて!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ