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女軍師の話。その三

 淀桂よどかつらから中荒隅なかあらすみまで、かなりの長旅でしたよ。

 幅の狭い国境地とは言え、大陸横断。それも真ん中に陣取る山脈のせいで真っ直ぐ進めないものですから。

 何日も人力車を乗り潰してようやく中荒隅の麓にたどり着きました。

 そこからは険しい山道を徒歩ですよ。


 私が集落……があった場所についた頃には、想像以上に何もありませんでした。

 全てが焼け落ち、人もいませんでした。

 そして、鼻をつくひどい匂いもしました。


 あの『地獄の壁』を乗り越えてこんな事をするリヒト人を、恐ろしく感じたものです。


 物音に気がつくと、男の子と女の子が二人きりで、瓦礫を片付けて、亡くなった村人を焼いて供養しているのです。

 何とも言えない気持ちになりましたが、私は二人に声をかけました。


 どちらが『竹中晶』なの? と。


 二人は私の方を見て、今は都の方に行っていることを教えてくれました。

 それで私は自己紹介をし、事情を話しました。


 二人のうち片方は村の女の子で、もう片方は柳谷やなぎやの『綾名あやな』持ちの男の子でした。

 言われてみれば大将軍の御前試合で見かけたことのある子でした。

『軍略試験』とは違い、御前試合は名家、それもその家の代表しか出場資格がないので、逆をいうと『綾名』持ちは全員見かけるんですよ。

 

 竹中晶が戻ってくるまで、いたたまれなくなって私も、供養を手伝いました。

 聞けば、夜襲を仕掛けてきたのだと言います。

 まさか山脈越えを仕掛けた直後に村に火を放つなんて……私の師匠、加賀美様にも読みきれなかったものですから、

相当衝撃を受けていたのと、悔しがっていたのを覚えております。


 ……私が中荒隅に、竹中晶を訪ねた理由ですか?

 もちろん、彼を補佐することと、理由はもう一つありました。

 それは、仙野多摩せんのたまにてリヒトに捕われている、柳谷菊千代やなぎやきくちよの救出を依頼することです。

 

 菊千代は……軍略と政の天才なのですが、捻くれ者でして、『綾名』を辞退して仙野多摩で落語や浪曲を聴きながら、悠々自適な生活を夢見ていました。


 彼の掲げた都市構想は斬新なもので、加賀美師匠をして『政治家としての手腕は彼には敵わぬ』と言わしめた人物です。

 ええ。竹中晶が初出場し、二位になった『軍略試験』で、一位をとった者が彼です。

 私は加賀美様繋がりで個人的に親交はあったのですが、確かに中荒隅を立て直すなら彼の能力が必要になるとは感じていました。


 結局、竹中晶が中荒隅に戻ってきたのは、次の日の、陽が登りきった後に御座いました。

 彼は、すでに三人も家臣を引き連れて戻ってきたのです。  


 * * * * *


 夜草よるくささんも、綾鶴あやつるくんも、早速三人も引き抜いてきたことに驚いたのと同時に、戸惑っておりました。

 三人のうち一人は、リヒト人だったものですから。


「おい……? リヒト人を自陣に加えるのかよ!?」


 綾鶴くんの剣幕が険しくなっていくので、私は自己紹介をする機会を失いました。


「そのものは三枝小十郎さえぐさこじゅうろう。リヒト人ではござらん」


「お前……こんな顔してる奴を信用しろってのかよ!?」


「私も反対。……さっきまで斬り合った人間の顔だよ?」


 小十郎と呼ばれた男性は、こうなることは想定済みだったようで、言葉もなく項垂れていました。

 そこに、もう一人の飄々とした痩せた男が「まあまあ落ち着きなよ」と割って入ります。


 綾鶴くんは、その男性にも怪訝そうな視線を向けました。


「お前……どこかで会ったか?」


「ああん? …… …… ……イヤ、人違いだね」


「いいや、人違いってことはねえな。ちょっと近くで面を見せてみろ」


 綾鶴くんの剣幕が別人に移ったことによって、ひとまず険悪な気配はなくなり、ようやく私は自己紹介を済ませました。


車沢実峯くるまざわじつみね殿。……オオ!! 加賀美かがみ殿の弟子にあたる方でござるか! さすれば拙者も同門のようなものにござる。

 敬意を込めて『あねさん』と呼ばせていただき申す」


 これが私と、晶様との初めての会話だったと思います。

 私は、加賀美様の命令により、これから晶様の補佐をする事、それから菊千代の話をしました。


「菊千代殿が仙野多摩に!? 誠であったか……あい分かった! これより仙野多摩に赴き、菊千代殿を救出して参る」


 晶様は、私と陽香さん、綾鶴くんに留守番を頼み、

 夜草さんと、光太郎さんと、小十郎さんだけを共につけて、休みもせずに仙野多摩に向けて下山をしたのです。


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