表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/12

陽香

「もし。もし、旅の方」

 

 隅扇島すみおうぎしまから、仙神堀せんじんぼりに向かう道中、晶と光太郎に声をかけたのは、

荷物の多い、か弱そうな女性だった。

『旅の方』なんて言い方の割には、自分の方が旅をしているように見える。


 晶は立ち止まる。


中荒隅なかあらすみへは、こちらの道から行かれますでしょうか?」


 女は穏やかな笑顔で聞いてくる。


「中荒隅は……先日の戦で焼け落ち申した。

 今は何もござらん」


 晶が言うと、女は先刻承知であると言ったふうに続ける。


「エエ。大きな戦があったのでしょう?

 そうであるならば怪我人が大勢いるはずですので」


 晶と、光太郎は顔を合わせる。


「……失礼仕るが、中荒隅になんのご用にござりますか?」


 すると女は重たそうな荷物を担いだまま、深々とお辞儀をした。


「こちらこそ失礼を致しました。私は陽香ようか栗林陽香くりばやしようかと申します。

 薬学と、外科治療を生業としているものにございます」


 段々と、女の意図が伝わってきて、晶は呆然としてしまった。


「その大荷物で中荒隅まで……向かうおつもりにござり申すか。

 中荒隅は、思われている以上に悲惨な状況にござる。

 ……仮に患者がいたとしても、先立つものも持ってはござらん。

 お医者様はありがたいが、商売は成り立つとはとても思えぬ……」


 晶に言われても、女は表情を変えなかった。


「医者の意義は、患者を治す事。お金をいただくことではございませんわ」


「村には、まだリヒト人がいる可能性もあるのに御座ります。リヒト人も救うおつもりか?」


「もちろんですわ。医者には国境もございません」


 女の凛とした表情に、晶は思わず「ハァァ……」と嘆息を漏らした。


「……イヤ、失礼仕った。世の中にここまで立派な方がおられるなんて、思いもしなかったのにござる」


「ああ。間違いねえッスよ。京武士なんかよりも遥かに徳が高い……」


 晶も光太郎も、大荷物を抱えながら山道を登り、無償で中荒隅に向かわんとする女性に感動してしまった。


「実は……拙者は、中荒隅の者にござる。

 村の者はわずか数名を残して皆、八曜の神の懐に旅立ち申した……

 しかし、拙者は今、中荒隅を再興させようと奮起しているところにござる。

 神の名に誓って必ずや、かの村を蘇らせる使命がござる。

 陽香殿、その方さえよければ……力を貸してはいただけまいか」


「私に……ですか?」


「村医者は必須にござる。陽香殿ならば、信頼して治療を任せられまする。

 もちろん、首都からの補給を回復次第、給金も支払いまする。陽香殿、是非、力を貸してはいただけませぬか……!

 今の中荒隅に必要な人材は、陽香殿のような方にござる! 何卒、何卒……!」


 晶は地面に膝をつき、深々と頭を下げた。


「よしてください。武士様が町医者などに……

 わかりました。中荒隅の復興。微力ながらお手伝いさせていただきます」


 思わず晶は顔を上げた。そしてもう一度、深々と頭を下げた。


「陽香殿……ありがとう存じます」


 このようにして、後に玉隅と名を変える村の、住民を救うことになる栗林陽香は、竹中晶の傘下に加わることになった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ