第96話 飛ぶ為の前準備
「お願いします!!どうしても禁忌の図書室を開けてほしいのです!!」
「ダメだ!何度言ったら分かる!」
クロノス先生と2人きりの部屋で怒涛の声が入り交じった。なぜユラ達が騒いでいるのか。それは少し前に起きたとある噂がきっかけになっている。
◆ ◇ ◇
「ねーえー、聞いてよ!」
「なんだ?また噂話か?」
始業前の教室。席についたミオリオが前のめりになってユラ達に話しかけるとエルがいつものように呆れた顔で返事をする。
「そうだけど、今回のは特大のスクープなの!」
「スクープ?」
またミオリオが何か情報を持ってきたのかとユラがワクワクしていると、ミオリオはにこやかな笑みでこう語り出した。
「あのねあのね!この前職員室の近くを通った時にチラッと聞いたんだけど……なんとこの学校の地下図書室には時間を巻き戻す魔法が封印されてるんだって!」
「へえ!そうなんだ」
「時間を巻き戻す……ロマンよね……」
そう話すと嬉しそうに酔いしれるミオリオ。この表情を見たところ余程誰かに語りたかったのだろう。一人で肩を抱きしめ喜んでいた。すると先程まで席についていたエルがその場から離れて立ち去ろうとする。
「わりぃ、忘れ物取りに行ってくる」
「ちょっと!これからいいところだっていうのに〜」
「忘れ物?」
珍しいとユラは思った。始業前なのに。あのエルが忘れ物なんて。そう考えているとミオリオが妙な顔つきになりこう呟く。
「……まさかサボりじゃないでしょうね?」
「そんなんじゃねえよ、物取ってくるだけだ」
「まあまあ、それぐらいいいじゃない」
シャンディがそう宥めるとエルは再び踵を返しその場から去っていった。
「ふーん、珍しい事もあるのね……それでさっきの話なんだけど!この学校の禁忌の図書室の中にある赤い棚にその封印された本があるんだって!」
「不思議よね〜封印された本ってだけで興味がわくなんて」
「シャンディもそう思うでしょ?興味が注がれるよね!」
同席である2人とその噂話に花を咲かせると、ユラはある考えが浮かび上がる。ひょっとしたらその魔法を使えば身体が元の人間の姿に戻れるんじゃないだろうかと。
「……その話もっと詳しく教えてくれる?」
「え?…………うーん……と言ってもそれぐらいの情報しか知らないのよね〜」
「そ、そうなんだ」
「で、でもでもその話誰が言ってたかっていうのは分かるよ」
「ほ、本当!?」
「確かねー、管理役のクロノス先生が言ってたかも」
「そうなんだありがとう!」
「あっちょっと!どこへ行くの!?」
ユラが勢いよく席を立つと廊下の方を目掛けて駆ける。始業前だがこうしてはいられない。などと思いながら駆け巡るとユラは引き止めようとするミオリオに向かってこう叫んだ。
「ちょっと行ってくる!!」
「もう授業始まっちゃうよ〜!」
教室から聞こえるミオリオの声が廊下にまで響き渡る。だがユラはその声を振りほどくようにクロノス先生の元まで走った。今日のこの時間は確か職員室にいるはず。そう思うとユラは方向転換をしながら職員室の方まで駆けた。
◇ ◆ ◇
「何度言ったら分かる!大人しく授業に戻りなさい!」
こうして職員室まで来て頼み込みをしたのはいいものの……クロノス先生は相変わらず首を縦に振る事はない。どうしたらいいのやら。その魔法さえ取得できれば元の身体に戻れるかもしれないというのに。
「いきなり2人きりになりたいと言われてこうして話を聞いてみれば……全く……無茶な事を考えるな」
後でミオリオにも説教してやらんとと言うクロノス先生を見て少々大事にしてしまったかもしれないと内心反省するユラ。しかしせっかくの情報なのだ。ここでもし引き下がったら二度と頼み込みできないかもしれない。そう考えたユラは臆する事なくクロノス先生にもう一度頼もうとする。
「お願いします!!どうか見るだけでも……」
「だからそれがあまりよくないと言っているのだ!……だいたい、この前来た時引き下がったではないか」
確かにこの前は異世界本を借りるという趣旨の話でその場を去った。だが今は訳が違う。ミオリオが言っていたあの噂。あれが本当であるのなら……ここで引き下がるわけにはいかない。
「ミオリオが言っていた時間を巻き戻す魔法……それさえ手に入れれば私の身体が元通りになるかもしれないんです!だから……どうかお願いします!」
そう言うとユラはこれでもかというくらい腰を曲げ精一杯お辞儀をした。するとこちらの気持ちが伝わったのか否か。クロノス先生は深くため息をついた後ポツリとこう話した。
「……人の身体に戻りたいという気持ちは分かる…………だがお前は一つ勘違いをしている」
勘違い……一体なんの事やら。とユラが首を傾げるとクロノス先生が神妙な顔つきで引き続き話を進めた。
「あの魔法はただ単純に時を戻す魔法ではない。時代ごと時を遡る魔法であって部分的に使用する事など不可能なのだ!」
部分的に不可能。それはつまりユラのみを巻き戻す事は不可能である事を意味していた。という事はその魔法を取得できたとしても上手くいく保証はないという事。そう頭の中で考えて少々ガッカリするユラ。でも……もし部分的に使う事が可能になるのなら。僅かな希望を考えユラは再度クロノス先生に語りかける。
「クロノス先生……ひょっとしたら都合よく使える方法があるかもしれません」
「何?それはどういう意味だ」
「この学園では似たような呪文が書かれた魔法書が多くあります……つまり……」
「……つまり似たような魔法を探す為に図書室を開けろと?」
「……そうです」
この学園には数々の似たような呪文が書かれた魔法書が複数存在する。つまり。禁忌の魔法にも似たような呪文があるのではないかと。そう考えたのだ。
「……くだらない……私も数々の魔法書を見てきた身だが、だいたいそんな都合のいい魔法など見た事がないぞ」
「……それでも、ひょっとしたら都合のいい魔法のかけ方が見つかるかもしれません!……ですからどうかお願いします!」
確かに根拠はない。だが探してみないと分からないのではないだろうか。もしその方法となる鍵が見つかったのなら。ユラは元の人間の姿に戻れる。そう祈るように再度お辞儀をするとクロノス先生はふむ……と少し考えるような仕草を出してこう呟いた。
「……はぁ…………そこまで言われたなら仕方がない……」
「ほ、本当にいいのですか?」
「……但し条件がある」
思いもよらない返答に思わず前のめりになるとクロノス先生に待てをするように手で止められるユラ。条件……一体何を条件とするのやら。ユラがそう考えているとクロノス先生は軽く息を吐いた後ユラに向けてこう話した。
「条件……それは近日に行われる魔道大会で優勝する事だ」
「ゆ、優勝!?」
「そうだ」
魔道大会。それは生徒同士で競い合って魔法を見せ合う大会の事だ。まあ大会といっても魔法使いはこの学園にいる極わずかな人数なのでとても小さな競い合いになるわけだが。
「わ、分かりました……優勝すればいいんですね?」
「ああ、優勝できればの話だが」
ユラがそう意気込むと優勝は厳しいぞと高らかに笑うクロノス先生。なんせ優等生のミオリオやエル達と戦わなければならない。先生がそこまで言うのなら。こちらも何か対策せねばと唾を飲むとユラは内心心を燃やした。
◇ ◇ ◆
「結局2人共帰ってこなかったね」
「そうね〜2人もサボりなんて珍しい」
金色に輝く授業後の帰り道。シャンディがミオリオに話しかけるとミオリオはいつもの口調でそう呟く。サボり魔であるミオリオに言われたら世話がない。そう内心思うシャンディであったがミオリオには伝えず、こっそり心の底で呟く事にした。
「そういえば今度の魔道大会どうなるんだろうね?」
「……優勝候補はエルって聞いたけど……」
「ええ!!マジ!?あたしアイツにだけには負けたくないんだけど!」
「まあまあ……あくまで噂だから」
そうミオリオに伝えると暴れんとするミオリオを宥めるシャンディ。するとミオリオは何を思ったのか。勢いよく廊下を駆け回るとシャンディに向けてこう言い放った。
「よしこうしちゃいられない!!」
「ちょっと、どこ行くの?」
「特訓だよ!早くしないと遅れを取っちゃう!!」
「ちょっと待ってよ!ミオ〜!」
そう話すと勢いよく外へと向かうミオリオ。そんなミオリオの後ろ姿を追いかけると、その姿がどこかあの2人に似ていて。仲良しでいいなと内心思うシャンディであった。




