第94話 黄金色の横顔
金色の風が舞う頃。ユラは変わらぬ気持ちでティグリスのテントへと向かうとそこには手馴れた様子で棚の整理をするティグリスの姿があった。
「やあ、ユラ!今日も元気そうだね」
「ティグリスさんこんにちは」
ユラがティグリスに挨拶すると棚からゴトリという物音が聞こえる。毎度何を探しているのやら。そう思いつつ机を見渡すとそこには多くの本が積んであるのを見つけた。興味本位で覗いてみるとそこには蜘蛛や植物の図鑑といった可愛らしくも分厚い本でいっぱい積み上げられていた。
「何をしているのですか?」
「何って見れば分かるだろう?本の整理だよ……なんだい?興味でもあるのかい?」
「ええちょっと……図鑑があるの珍しいなと思いまして」
「図鑑?……ああ確かにそうだね……ここ最近調べておきたい事がいっぱいあって」
ティグリスがそういうと先程積まれていた本の中にあった蜘蛛の図鑑を開きながらこう答える。
「例えばこの蜘蛛なんだが……つい最近あった汽車騒動の時にいた蜘蛛でね、そいつがどうやらマルスの実を食べて巨大化したんじゃないかと言われているんだ」
「汽車騒動……ってティグリスさんご存知なんですか?」
「ああ知ってるよ、丁度ユラもその汽車に乗り合わせていたんだってね」
驚いた。まさかそこまで知っていたとは。さすが国の役人とでも言うべきか。そうユラが考えているとティグリスは再び話を付け加えるかのようにこう話す。
「時にユラ、あの時隣にクラスメイトがいたんだってね」
「ええ……そこまで知ってるんですね」
「カサギに聞いたんだ……デート中だったってね」
カサギさんったら余計な事を。とユラがふと思っているとそれを見たティグリスが面白おかしそうにクスリと笑う。全く他人事だと思ってとムッとしているとまあまあと宥めるかのようにティグリスはユラに対しお茶を差し出した。
「まあ……カサギの言う事だから気にしてはいけないよ……それでこの前実際にクラスメイトの子に会ってみたんだ」
「……エルにですか?」
「そうだよ……そしたら色々怒らせてしまったようでね……もし良かったらなんだけど謝っておいてくれないか?」
「別にいいですけど……」
ただこういうのは本人が直接言った方がいいのではと思ったがティグリスも多忙な身だ。表の仕事と裏の仕事の両立で忙しいと踏んだユラはこれ以上言う事はなかった。まあエルも気難しい性格だと言われているしお互いに非があるのかもしれないが。
「それで今日呼び出したのは魔力提供の為ですよね?」
「まあ……それもあるがユラに会わせてみたい人がいてね」
「会わせたい人?」
これまた珍しいとユラは思った。自分と会わせたい人。一体どんな人物だろう。そうユラがお茶を飲みながら思っているとティグリスが思ってもみない人物を挙げた。
「ユラと同じ適合者だよ、これから会いに行くんだ」
「ええ!これからですか!?」
そんな。まさかそんな事になるとは。思ってもみない自体だった。まさかこれから同じ適合者の人に会いに行くなんてと。そう内心穏やかじゃないユラはティグリスに対しこう話した。
「まだ心の準備ができていないのですが……」
「大丈夫、向こうにも伝えてないからね……サプライズ訪問さ」
「全然大丈夫じゃないじゃないですか!?」
こうして始まったサプライズ訪問。相手はどんな人だろうかとかどこに住んでるかとかも分からずユラ達は会いに行く。果たしてどうなるのやら。そうユラが思っているとティグリスは大丈夫だと言うかのように微笑みかける。
「まあ安心して、相手はただの人間だ……何も変わらないよ」
そう話すティグリスの横顔はどこか切ないもので。どことなく寂しさを感じる。本当に大丈夫だろうかとユラが再度ティグリスの顔を見るといつもの飄々とした顔で。ユラの心をほんのりと安心させた。




