第93話 そよ風の誘惑
「飛べない魔法使いはただの人……という事で今回は空を飛ぶ授業に移ろうと思う」
中庭でクロノス先生が空を飛びながらこう話すと、皆は静かに授業内容に耳を立てる。というのも来週ある【魔道大会】に向けて皆特訓の真っ最中なのである。
「では各自ほうきを持つように」
クロノス先生がそう話すとユラ達は中庭に置いてあるほうきを選んでその手に持つ。どれにしようか。そう思ってユラが選んだほうきは色が薄く細長いほうき。そのどこか可愛らしいほうきを手に持つと何だか素直に言う事を聞いてくれる気がして。空へのお供としての期待値が高まる。
「それでは練習開始!」
クロノス先生の掛け声と共にユラ達が空へと飛ぶ練習をするとやはり個人差があるのか。素直にまっすぐと空を飛べる者もいれば、全く微動だにせず空を飛べない者と2通りに分かれていた。勿論エリートであったエルは前者。逆にミオリオは思うように飛ばない後者にまわっていた。そしてこの授業に1番浮かれ気味だったユラはというと……後者でもあり前者でもあった。
「ちょっと!このほうき全然言う事聞かないんだけど!!」
空自体は飛べてるが暴走状態のまま飛び交うユラはこう叫ぶ。するとそんなユラを気にしてか。近くにいたシャンディが宥めるかのようにこう話す。
「まあまあ、最初はこんな物だよ……私なんか全く飛ぶ気配すらないし……」
そう言うとほうきに跨りながらトントンと小さくジャンプしてアピールするシャンディ。逆にそちらの方がよかったかも。なんてユラがくるくる回転しながら思うと段々目が回り手に力が入らなくなる。そしてとうとう落下してしまうと遅れてユラのほうきも頭上にと落ちていった。
「!?いったーい!!全然上手くいかないんだけど」
「いいなあユラ、そこまで飛べたら後はコントロールするだけじゃん」
そう言うとシャンディと同じく跨りながらトントンと小ジャンプを繰り返すミオリオ。全く他人事だと思って。とユラが少々ムッとするとまたもやミオリオ達にまあまあと宥められた。
「よーし次こそ!」
ユラが再度ほうきに跨ると今度は上下に軌跡を残しながら移動する。まるでこの間エルと乗ったジェットコースターのように。不安定に動くそれはユラを軽く酔わせる物となった。早く止まらないか。と上下する意識のままユラがそう思うと今度は中庭に生える木に正面衝突する。そして重力に従ったまま下へと落下すると再びユラの頭上にほうきが落ちていった。
「ははは!!何やってるんだよユラ」
「ブライア!」
しばらく木の下で座り込んでいるといつの間にか3バカトリオがやってきた。何の用だろうか。まさか笑いに来たのだろうかとユラが思うとムッとした表情で睨みつける。
「まあまあ、見てなって……このブライアが直々にお手本を見せてやるよ」
「「さすがブライア様!!」」
するとブライアがほうきに跨り飛ぼうと奮起する。本当に飛ぶのだろうか。ユラは密かに思った。黄金色の風。今日は絶好のほうき飛び日和だとブライアが意気込むとふわりと宙に浮く。とはいってもまだ低飛行だが。
「どうだ!この安定感!」
「さすがですブライア様!見事に浮いてます!」
「華麗なる浮きっぷりだ!」
ブライアがほうき飛びを成功させるとぺぺ達が拍手しながら褒め出す。するとそれを見ていた他の生徒達が何やってんだというかのように呆れた顔で物申した。
「飛んだって言ってもただの低飛行じゃん」
「さっきから飛べてないミオリオにだけは言われたくないね」
「「そうだそうだ!」」
「……でもある意味ユラの方がすごい飛んでるような?」
「シャンディ……お前まで言うのかよ」
他の生徒達がユラに対しフォローするとブライア達はバツの悪い顔で立ち尽くした。遠くを見渡すと上手く飛んでいるシルビィーですらうんうんと頷いている。それを見たユラはなんだか気恥ずかしくなって。何とかほうき飛びを取得しようと意気込む。
「さあ、ひとまず休憩といこうか」
ミオリオ達とブライアの攻防戦の声が大きくなるとクロノス先生はひとまず休憩の拍手を入れる。するとそれが合図となったのか。先程まで騒がしかった声が急に大人しくなる。そして皆が休憩に入るとユラはミオリオにこう話しかけた。
「ミオリオ、どうやったら上手く飛べるようになると思う?」
「うーんそれをミオちゃんに聞きますか」
「ごめん、聞く相手間違えたかも」
「ちょっと!そこで間違えたって言うのは失礼なんじゃないの?」
「ごめんごめん!ミオなら何か分かるかなって思って……ほうきとのフィーリングの合わせ方というか……」
「うーんフィーリングか……」
そう言ってほうきと向き合うとミオリオはある事を思いつく。ほうきとの相性を合わせるならば。まずは会話でもした方がいいのではないかと。
「ほうきと会話するって本気!?」
「いや、例えばの話だよ例えばの話!……あっそうだ!」
「ん、何?どうしたの?」
「いやーあたしにはアレがあるじゃんって思って」
「アレ?」
「音楽だよ!音楽!……ちょっとほうきに聞かせてくる!」
「えっ!待って!どういう事!?」
そうユラが言うとミオリオは駆け足でほうきの元へと向かっていく。どうやらミオリオは本気のようだ。その姿を見ているとこちらも何かしなきゃいけないような気がして。それを見送ったユラは自身も何かしてみようと恐る恐る近くに立てかけたユラのほうきに話しかけてみる。
「こ、こんにちは!」
すると無言の返答か。それに答えるようにそよそよと風が舞い始める。気のせいか。とユラは思った。だがたまには気持ちのはけ口として物相手に話すのもいいかもしれない。そう思ったユラは再度話の返答のない相手に声をかけてみる。
「私来週ある魔道大会の優勝を目指しているの……なんでかって言うと私恥ずかしながらこの学校以外にまともに学校通った事がなくてさ……だから大会って言うのも初めてで……それで優勝してみたいなって思ってるの」
ユラがポツリと一つ一つの言葉に本音を乗せるとほうきはカサカサと音を立てながら佇んでいた。そよ風が心地いい日だとユラが1人思うとほうきもそれに答えるようにカサリと音を立てる。不思議な感覚だ。なんとなく今ならこのほうきも答えてくれる気がした。
「だから力を貸してくれる?」
そう言うとまたもやカサッと音を立て佇むほうき。なんだか会話している気恥ずかしさよりもフィーリングという物を感じてしまい思わずニコリと笑いかける。
「よし、休憩時間を終わりにしよう」
ほうきと共に時間を過ごしたまましばらくするとクロノス先生から再開の合図をもらう。今度は上手くいくだろうか。とユラがほうきに跨りながらそう思っているとほうきはそんなユラの気持ちを悟ったのか。今度は音を立てずふわりと宙を舞う事に成功する。
「やった!!……うわっ!?」
ユラが一瞬歓喜すると気を抜いた為か。低い位置からそのまま落っこちてしまう。ただ乱暴な飛び方ではなくなったユラからしたら最大の一歩で。まだまだ練習が必要ではあるが大会までには間に合うだろうとユラは1人喜んだ。
◆ ◇ ◇
ミオリオが休憩後ユラの元へと向かうとそこには手馴れた感じで上手く乗りこなすユラの姿があった。
「あっミオ!……うわっ!?……いてててて」
「うわあー惜しい!ユラ、ファイト!!」
丁度見ていたタイミングでユラがこちらに手を振り声をかけると気を抜いてか。そのまま落下していくユラの姿があった。惜しい。あともう少しなのに。そうミオリオが思うとユラがこちらに向かって走り出す。
「やっほーミオ!」
「すごいじゃん、飛べるようになったんだね!」
「うんミオは?」
「えへん、あたしも飛べるようになったんだよ」
まあちょびっとだけどねと指で表現しながら話すとユラがすごいねと褒めてくれる。それがとても嬉しくて。ユラに対し思わず笑いかける。
「やっぱり音楽の力が効いたみたい」
「ふふっなにそれ!」
2人でほうきに跨ると両者ともに綺麗に飛ぶ彼女達。最初はどうなるかと思ったけれど上手くいってよかった。そうミオリオが思うとユラも同じような気持ちのようで。囁かなそよ風が吹く中、2人でニコリと微笑んだ。




