第92話 幻の宝箱
ユラ達一行は魔界の奥にある湖のほとりへと向かう。するとミオリオは早速魔法の準備へと取り掛かった。
「えっと泳ぐんだよね?」
「ん?いや、魔法で行こうと思って」
じゃないとびしょ濡れになるでしょとミオリオが言うとすぐさまミオリオは水のほとりの前へと向かう。一体どうするつもりなのか。ユラが不思議に思うとミオリオが早速新たな魔法を唱え始めた。
「よし行くよ!新世界」
すると不思議な事に。ユラやミオリオの身体はシャボン玉の中に入り込むように包み込まれる。綺麗なシャボン玉。とユラが指でつつきながら思うとミオリオが念の為壊れないようにと待ったをかける。
「念の為壊れないように2層かけるからちょっと待ってて」
そう言うと再び新世界と唱え、シャボン玉を2層にするミオリオ。指でつつくとどうやら2層にした事でさらに頑丈になった事が分かった。
「じゃあ行こっかユラ!」
「……うん!」
不安と焦燥の中。一体どうなる事やらとユラが思うとミオリオがその状態のまま水の中へと入り込む。するとシャボン玉に入った状態のまま移動しているではないか。驚いたユラも同じように水の中に入る。するとやはり見たとおりで。シャボン玉の中にいる状態のまま上手く進んでいった。
「これすごいね!」
「でしょ?あたし水中戦は得意分野なの」
音との相性がいいみたいとミオリオが言うとこもった感じで音が響く。どうやら水の中にいる為そのように聞こえるようだ。不思議だなとユラが思うとミオリオはアクアドールという都市へ向かう為に奥へと進んだ。
「一応周りには魔物らしきものはいないみたいだけど……」
「大丈夫?ミオリオ?」
「……慎重に行きましょ」
ミオリオがそう話すとユラも言葉どおり周囲を確認しながら奥へと進む。あの魔力隠しのネックレスもある事だし大丈夫だろう。とたかをくくっていると気づいた頃には奥の遺跡らしき場所に到着していた。
「よし、着いたっと」
「それで肝心な宝箱は?」
「うーん……おっ!あったあった!」
ミオリオが目的の宝箱を見つけると一目散に駆け寄る彼女。案外簡単に見つかったな。そう思うとユラ達はとっとと去ろうとする。
「こんなに簡単で大丈夫なのかな?」
「えー簡単な方がいいじゃん〜ユラってば分かってないなあ」
そう2人で小競り合いをしていると辺りは突然真っ暗になる。急にどうしたのだろう。とユラが思うとそこには巨大な影が立ち塞がっていた。
「えっ!なになに!急にどうしたの!?」
「こ、これは!?」
水の怪物。この遺跡の主と言うべきか。青い鱗に細長く分厚い胴。それがすぐ目の前に佇んでいた。
「アクアドラゴン!?」
「えっユラ、なんで知ってるの?」
「この前魔物図鑑見てたらあったの!けど……なんでここに?」
そう、不思議な事にアクアドラゴンは何故か敵対するような目でこちらを見ていた。図鑑には大人しいと書いてあったのに。とユラがミオリオに対し説明するとミオリオも不思議そうな顔でこちらを見つめる。
「……それ図鑑が間違ってるとかじゃないんだよね……?」
「本には確かにそう書いてあったんだよぉ……」
鋭い眼光がこちらを見ていた。何故こうも睨みつけられているのだろう。そう思いながら視線を辿るとある事を知る。宝箱だ。アクアドラゴンは宝箱を見ているのだと。
「ど、どうする?攻撃する?」
「いや、図鑑には攻撃しちゃダメだって書いてあった……なんか指定保護生物みたい」
「じゃあどうするの!?通してくれそうにないよ!!」
「それなら……逃げるしかないでしょ!!」
逃げの一手。ユラはその手段を選んだ。すると後ろにいたアクアドラゴンもユラ達を追いかけるように素早く泳ぐ。これはまずい。思ったより早いではないか。とユラ達が考えているとあっという間にユラ達は追いつかれてしまう。
「ちょっと!意外と早いじゃないの!このドラゴン」
「しまった!後ちょっとなのに!」
そう言うとアクアドラゴンは2つの大きな渦のようなものを作り出す。すると周りのものを水ごと吸い込んでいく。アクアドラゴンはあの渦を使って私達を吸い込む気だとユラは思った。まずいこのままだと本当に吸い込まれる。事実シャボン玉は少しずつアクアドラゴンの元へと向かって動いている。何とかギリギリまでもがいてはいるもののシャボン玉の軌道は言う事を聞かずゆっくりと吸い寄せられていた。
「まずいよユラ!……こうなったら!響け!《ラグリマ》」
ミオリオがお得意のギターを魔法で作り出すとアクアドラゴンに向けて音を奏でた。するとアクアドラゴンは音に敏感なのか。響いた波動にやられ動きを鈍らせる。
「よし!何とか効いてるみたい」
「ちょっと、攻撃しちゃダメだって!」
「大丈夫!攻撃するんじゃなくて眠らせちゃえばいいんでしょ、ユラは渦の方をお願い!」
「分かった!」
ユラに対しそう話すと再び魔法の音を奏でるミオリオ。さすが水中戦が得意なだけはあると冷静な彼女に対し賛美すると、今度はユラが杖を作り出し魔法を唱え始めた。
「祝福ノ樹木!《アビエス・フェルマ》その渦を止めろ!」
すると大きな2つの渦の元に逆回転の渦が現れる。そして2つの渦とそれがぶつかり合うと流れを抹殺するように渦の動きが止まった。
「ふう!何とかなった!」
「ユラ!こっちも何とか無事に済んだよ!今のうちに逃げよう!」
ユラがミオリオの方に振り返るといつの間にかミオリオの音楽で眠ったアクアドラゴンの姿が見えた。何とか無事に逃げられそうだ。ユラ達がそう確信すると素早く地上へと向かい浮上していく。
「ふいーっ、何とか上がれたね」
「うん、助かったよミオ」
水辺へと上がりそう言うと顔を見合せてにこりと笑いかけるユラ達。するとそれに合わせたかのようにパチンとミオリオのかけた魔法のシャボン玉が割れる。
「あーあ、割れちゃった」
「まあまあ、それより早く戻ろ?」
もうちょっとシャボン玉気分を味わいたかった。そうユラが名残惜しそうに思うとミオリオが軽快な足取りで駆けていく。元気だな。ユラはミオリオを見てふとそう思った。
◆ ◇ ◇
「で、結局この宝箱の中身は何?」
ユラ達が食堂の前へと戻るとミオリオが早速中身を調べようとする。すると食堂の目の前からとある人物が向かい出てきた。
「ちょっと待った!その箱を開けてはならん!」
「この声は!…………どちら様?」
「紹介しよう、彼はこの依頼の依頼主であるオットさんだ」
クロノス先生から紹介が入るとその声の主はオットと呼ばれる小さなおじいさんだった。そのオットと呼ばれるおじいさんが言うには気安くその宝箱を扱ってはならんとの事。そこまで言われるのだ。一体どんな宝が眠っているのか。そうミオリオと小声で話しているとオットから声をかけられる。
「こーら!話を聞かんか!……この宝箱の中には貴重な海藻が生えていてのう……これまた上品な味わいの出汁が出てたまらんのじゃ!」
「「貴重な海藻!?!?」」
ユラ達はガッカリとした。あれだけ頑張って見つけ出した宝箱の中身がただの海藻だなんてと。そう考えているとオットは嬉しそうに宝箱を撫でる。そんな姿にはははと乾いた笑いを出すとこれまた価値観の違いを見せつけられたような気がして。一同はその場から崩れ落ちた。




