第85話 走り去る策略
ティグリスと共にテント前に戻ると早速一行は作戦会議を行い始める。どこに人員をもっていくか。どういった配列で戦うか等。マスタング隊長を中心に詳細に語り出すと、皆は地図を見ながら真剣な眼差しで次々と提案を突きつけた。相手があのマルスの木だからか。どの作戦も一風変わったものばかり。ただ1つだけ一貫として変わらなかったのはユラを抱えながら走るというものだった。
「えー!!じゃあこの中で誰かが囮になるって事じゃないですか!!」
「まあまあリクニス、いい提案じゃないか」
「それで肝心なのは誰がその役目をするかだが……」
「アスター、その役目は僕が引き取るよ」
「ティグリス隊長が?」
「はっはっはーその役目このオレガノ・バルガレが引き取ってもよいのだぞ?」
「いや、オレガノには戦闘要員として近くにいた方がいいからね」
「という事はマルスを追いかける側か……まあいいだろう」
各々が作戦会議に物申していると次第に大体の戦術が固まってくる。今回はチーム戦。どうなるか分からないがここは戦術に詳しいマスタング隊長や他の隊員達に任せよう。とユラが考えていると時刻は次第に夕方へと向かっていった。
◆ ◇ ◇
「では解散とする!念の為気を抜かないように」
マスタング隊長が真剣な表情で解散の合図を伝えると皆が一斉になってバラけ始める。今現在マルスの木は潜伏状態にある。その為猶予も持たない状況だが……皆は何故か落ち着いた表情でそこに佇んでいる。何故か。それが分からないユラは少々戸惑った態度でティグリスに問いかけてみた。
「あの、ティグリスさん」
「ん?……どうかしたのかい?」
「どうして皆さんそんなに落ち着いていられるのですか?」
ここは敵陣の中ですよとユラが言うと辺りを見渡し始める。ここにあるのは夜の静寂とぼんやりと照らされた焚き火の灯りのみ。もしまたマルスが襲ってきたら……この拠点も無事では済まないだろう。
「あら、あんたそんな事も知らないの?」
「こら、ケストルム……そんな言い方するもんじゃないよ」
そう言うと現れたのはティグリスの隣にいたケストルムという女性。彼女は何を言うかと思うとこの拠点のとある秘密を教えてくれた。
「安心しなよ、ここには結界が張られているからね」
「結界?」
「そう、ユラには見えないだろうけど僕達の拠点であるテントの周りには大きな結界が張られているんだ……攻撃されない為のね」
だからしばらくは安全だと思っていいよと話すとニコリと笑みを零すティグリス。詳しい話を聞くとどうやらこの結界には魔力探知されない効果と頑丈なバリアの効果があるとの事。そんな便利な魔法だ。何故昼に張らなかったのかとユラが聞き返すとケストルムは引き続き話を進めた。
「……本当は昼間に結界張りたかったのだけれどそんな高等な魔法すぐには使えないのよ、丁度バラけてて結界を張る人員も少なかったし」
「……そうなんですか……すみません、何も知らず色々無茶を言って……」
「まあいいわ……それよりもあんた、一応女子なんだから寝る時は女性用のテントで寝なさいよ……さすがにティグリス隊長と同じって訳にもいかないでしょうし」
「わ、分かってます!」
そう女子2人で戯れているとそれを見ていたティグリスが微笑ましそうにふふっと笑う。明日は本格的な討伐戦。これからどうなる事やらとユラが1人思っていると静かに冷たい風が吹き始める。
「そろそろ寝る時間だね」
ティグリスが持っていた懐中時計を見ながら話すと、それが合図になったかのように皆がテントへと入り込む。
「それじゃあ今夜は女子会といこうか!あんた好きな奴とかいる?」
「ええっ!いませんよ!そんな人!」
ケストルムがそう話すとユラの肩に腕を乗せながらテントへと向かう。強引な人だ。ユラは思った。ただこの静けさもこの強引さもどこか心地が良い感じがして。ユラはその強引さに釣られたままその先へと歩みを進めるとどこか緊張していた気持ちも吹っ飛ぶような気がした。




