第84話 囁かなる応援歌
珍しく真剣な眼差しだとユラは思った。それは突き刺さるような視線で。ユラをどこか圧倒させる。
「どうして私ばかり狙われるのでしょう?」
「それは……やはり魔力が多いからだろう」
マルスの木や枝は魔力の多い者から襲うのだという説明を受けると妙に腑に落ちない気分になるユラ。先程からティグリスの様子がどうもおかしい。まるで何かを言い淀むような仕草だと。そんな事を考えているとティグリスから衝撃的な言葉を伝えられる。
「ユラ、君の命はもってあと僅かかもしれない」
「……それってどういう?」
「ユラ、よく聞いてほしい」
話を聞くとどうも自身の本体であるナナタタ草の寿命は、通常であればもってあと冬の期間までと告げられた。けれどもその話には続きがあり、現在はユラ自身の魔力で寿命を若返らせている可能性が高いと言うのだ。そしてもし魔力が何の魔法も使えない程空になった時。植物本来の寿命を取り戻しその反動で一気に枯れてしまうかもしれないという事らしい。
「そうだったんですね……でも今する話でしょうか?」
「いや、今じゃなきゃダメだ!今しないと君は無理して魔力を使い果たそうとしてしまうだろうからね」
なかなか話を出せなかった自身にも問題はあるけどねとティグリスが言うと深々とシルクハットを被り直す。そんな事急に言われても。とユラは思った。もしかしたらこの戦いで命を落とすかもしれないなんてと。
「それじゃあ一時撤退だからテントの方に戻ろうか」
ユラとティグリスの間に気まずい空気が漂う。これから大丈夫だろうか。ユラはトボトボ歩きながら思った。するといてもたってもいられなくなったユラが衝動的にティグリスの衣服を掴みこう問いただす。
「あの!……1つだけ聞いていいですか?」
「……どうしたんだい?」
「……どうして調べてくれたんですか?」
興味本位だろうかとユラは思った。ただ単なる知的好奇心であればこうして伝える事もないのではとも考えた。ティグリスはどうして調べたのだろう。そう思いながら衣服を強く掴むとティグリスはそんなユラに答えるようにこう話しだす。
「……裏の仕事の一環っていうのもあるけど、1番は君を応援しているからかな」
「……応援?」
「そう、応援……正直最初はそう思ってなかったけど最近の僕は本当にユラは人間に戻れるんじゃないかって気がしててさ」
囁かな応援だった。まだ具体的にどう戻れるかとかはないというのに。それでも今のユラにとっては十分な言葉で。ユラの曇りかけていた気持ちを晴れやかにさせる。そんな魔法だった。
「分かりました……ありがとうございます」
ユラがそう言うと掴んでいた衣服を手放し前へと歩き始める。マルス討伐。張り切って頑張らないといけないな。と思うと不思議と足が軽くなり、ユラを元気づけた。




