第83話 狙いを定められたネックレス
結託の意を示したユラ一行は早々にマルスの木の探索を開始し始めた。どうやら目撃情報はあるもののまだこれといった目処はついていない為、1から場所を特定する必要があるらしい。
「あの……この広い沼地から一体どうやってマルスの木を探し出すんですか?」
「それなんだけど……僕達には魔眼があるだろう?だからそれを元に見つけ出そうとしている」
マルスの木の捜索。そんなに手こずるようなものだろうか。と拾った木の棒で地面をつつきながら考えるユラ。もしその場に木があるのだとしたら大きさ的にもすぐ見つかるはず。そうユラが考えていると後ろから着いてきていたオレガノが怪訝な顔をしながらこう語りかける。
「もしや雑草娘、すぐにでも見つかるのではないかと考えているのではないだろうな?」
「だってただの木ですよ?もし向こうにそびえ立ってたらすぐにでも見えるじゃないですか」
「……相手は本当にただの木か?」
確かにそうだ。アレは確かに経験上普通の木とは違うなとユラは思った。エルと一緒に見た観覧車の時もそうだ。あの時も確かに絡みついたままじわじわ蠢いていたではないかとユラはゆっくりと思い出す。
「アレが普通の木だったらそこまで苦労しないんだがな」
「……確かにそうですね」
「だが、必ずやこのオレガノ・バルガレがこの手で見つけ出してやる!だから期待して待ってろよ雑草娘!」
はっはっはーと声高らかに笑うとオレガノは一目散に向こう側へと走っていった。一体なんだったのだろう。とユラが思うとティグリスがああいう奴なんだと静かにフォローする。
「それでマルスの木何とか見つかりそうですか?」
どうやらマルスの木が普通の木と違い探しづらい相手だという事は分かった。そんな中ユラが上手く探せるか心配すると、ティグリスは少し困ったような顔をしながらこう話す。
「いや……どうやら長期戦になりそうだ……先程からマルスの木が通った痕跡は見えるがこれといった目処が見当たらなくてね」
そう言うとぬかるんだ地面を見つめその場を調べるティグリス。魔眼の力を持ってしても見つけ出せないそんな相手に果たして勝てるのだろうか。とユラが不安に思っているとティグリスからある説明を受ける。
「本来なら魔力を持った君を囮にして誘い込む予定だったんだが……これといった反応がなくてね」
「……今囮って言いました?」
ティグリスにそう言われると徐々にムッとした表情になるユラ。囮と言われたのだ。さすがのユラでも機嫌が悪くなる。するとそれを察したティグリスがフォローするかのようにこう付け加える。
「まあまあそう怒らないで……確かに囮とは言ったけど君の魔力がないとマルスの木をおびき寄せられないんじゃないかと思ってね」
「そんなに手強い相手なんですか?」
「そうだね……マルスの木や枝は基本人間が持つ青い魔力に引き寄せられる……魔物とかもそうだね……だから君のような魔力の高い者がいないと今回の討伐は長引く、そう見ているんだよ」
「そうなんですか!じゃあ元々人間である私はマルスの木に人間扱いされてるって事になるんですね」
「まあそういう事になるね」
人間扱い。そう言われると悪くない気がして。ユラは思わずその場で飛び跳ねる。まあ植物に人間扱いされると考えると複雑ではあるが。悪くないと思ったユラはティグリスに対し機嫌よくこう問いかけた。
「それじゃあ私がいるだけでマルスの木が見つかる可能性が高まるって事ですか?」
「そうなるね……そういえばユラ」
「はい、なんでしょう?」
「先程から何故か君の魔力が感じられないのだけれど……何か思い当たる事はないかい?」
思い当たる事。なにかしただろうか。とユラが思い悩むとユラはある事を思い出す。首元にかかったネックレス。これは少し前に依頼でもらった魔力を隠す代物だ。その事を思い出すとユラは静かにティグリスに対し語り始める。
「これでしょうか?」
「!?これは……」
「これは国からの依頼を受けた時にもらったネックレスです、確かこれをつけると魔力が隠せるとかなんとかで……あっ、付けない方がよかったですかね?」
そう言い終えるとすぐさまネックレスを取ろうとするユラ。すると何を思ってか。ティグリスは取ろうとしたネックレスを外すなと言うばかりに待ったをかける。
「待った!」
ティグリスは大声で叫んだ。だが時既に遅し。ネックレスは首元から外されユラの手元へと移動されていた。するとドドドと地面から鈍い音が聞こえ始める。何事か。ティグリスがそう思った次の瞬間。大きな根っこのようなものが地面のひび割れと共に蠢きユラを襲い始める。
「危ない!0分00秒!《ミニュア》」
ティグリスが唱えると大きな根っこが鎖に巻かれ捕らえ始める。その反動で抱えたユラと共に大きくジャンプすると周りのメンバー達もその音に気づき始め戦闘態勢に入る。
「届け!《セレナード》」
「受け取れ!《パオラ》」
「大丈夫ですか!?ティグリス隊長!」
「ああ、無事だ」
皆がティグリス達の無事を知ると心の底で安堵する。するとホッとしたのもつかの間。攻撃の手を緩めずメンバー達が攻め続けるとまたもや根っこらしき物体はティグリスに向かって蠢き始める。
「639年!《スィソントランネ》0分00秒!《ミニュア》」
「くそっ!ティグリス隊長ばかり狙いやがって!」
「それにしてもなんでしょう?何故マルスはティグリス隊長ばかり狙うのでしょうか」
「知らねえよそんな事!」
アスターとリクニスが揉めているとマルスの攻撃はテント側の方へと広がっていく。まずい。このままでは拠点がなくなる。そう思ったティグリスはユラを抱えたままテントから離れた場所まで一時的にテレポートする。
「ふぅ、これでひとまずテントへの攻撃は避けられたな」
テントから離れたティグリスがふと息を整えるとまたもやゴゴゴと地響きが鳴り響く。次はどこから攻撃がくるのやら。そう考えているとティグリスの後ろに大きな影が発現した。
「ティグリスさん!後ろ!!」
「……やはり、狙いはユラか……マルスの木よ……朝と昼と晩と《マダ・ミディ・スワール》」
ティグリスが静かに唱えると後ろから襲撃しようとしていたマルスの根っこが徐々に消滅していく。手強い相手だった。とユラが1人そう思っているとティグリスが何かを伝えるような仕草でこちらを見てこう言う。
「ユラ、ネックレスをもう一度付け直すんだ」
「え、どうしてですか?」
「いいから早く!」
そう伝えられるとユラはまたもやネックレスを首元に付けだす。すると先程までのドドドという地響きが嘘のように消え、皆を驚かせた。
「ティグリス隊長、そちらは大丈夫ですか?」
「こっちの方は大丈夫、そっちの方は?」
ティグリスが魔法で遠く離れた仲間にそう伝えるとこちらの方も無事だという報告が入る。ひとまず安心だ。とユラが思っているとユラはティグリスからある事を伝えられる。
「……一時撤退だ、マスタング隊長からそう言われたよ」
「そうなんですね、とりあえず大丈夫そうでよかったです」
「……ユラ、よく聞いてくれ」
そう言うとひとまず抱えたユラを地べたに立たせるティグリス。何事だろうか。ユラは思った。するとティグリスは神妙な面持ちでこう言い放つ。
「ユラ、君は狙われている」
ティグリスがそう話すとどこか同情的な眼差しで。何かを伝えようと言い淀む。それが何か分からないユラにとってはとても歯がゆいもので。どうしようもなくやきもきとさせられた。




