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二度死ぬ彼女は雑草の姿をした魔法使い~マルス適合者~【PV10000感謝】  作者: しがない草
第九章 エバーグレスの名を元に

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第86話 沼地に朽ち果てろ

 結界の中で過ごした翌日の事。ユラは女性用テントから出てきた後、背伸びをして時を待った。いよいよマルス討伐だ。そう意気込んでいると他の隊員達も続々と現れる。


「いよいよだねユラ」

「……ティグリスさん」


 ユラが心地よい太陽の日差しを浴びていると後ろからティグリスに声をかけられる。珍しく朝方から見かける彼の様子はどこか眠そうで。ユラの緊張をどこか和らいでくれる。


「そうですね、これからどうなる事でしょうか」

「……作戦どおりやってみないと分からないさ……ただ」

「ただ?」

「きっと上手くいく……と僕はそう見ている」


 そう言ったティグリスの顔はどこか晴れ晴れとしていて。ユラの中にある朝のモヤモヤ感が少しずつ澄んでいくような感じかした。


 ◆ ◇ ◇


 ユラ達一行がテントから離れると全員が作戦に従った配列に佇む。時刻は9時10分。皆が顔を合わせ静かに頷くとティグリスはユラを抱えて走り出した。そして作戦どおりユラがネックレスを外すと次第にドドドという地響きが鳴り始める。マルスの根っこだ。ユラは直感的にそう思った。あの太い根っこがまたユラを狙ってこちらへと向かってくるのが分かる。するとティグリスを追いかけていたオレガノが作戦の進行どおりマルスの根に攻撃を仕掛けてきた。


「はっはっはー!ようやく俺の出番といった所か!皆の者準備はいいな!子供の領分!《ゴリウォーグ》」


 オレガノが魔法を唱えると地面に大きく叩きつける音が鳴り響いた。それに伴い他の隊員達も魔法で一斉攻撃すると、マルスの根が次第に動きを弱めもがくような動きを見せる。


「よっし!まずは根っこ撃破!」

「いや、まだここからですよアスター……気を抜かないようにお願いします」


 アスター達が喜びのあまり談話していると今度はアスターの方へと根っこが伸び、蠢き始める。すると今度は近くにいたアスター達が猛攻撃を仕掛ける。


「ああ、もう面倒くさいなあ!……鳴り響け!《セレナード》」


 そして呪文を一斉に唱えるとまたもやマルスの根っこは動きを止め、弱まりだした。順調な駆け出しだ。ユラは抱えられた状態のままそう思った。するといつの間にかケストルムやマスタング隊長の近くで猛威を奮っていた根っこも、マスタング隊長達の力によって倒されていた。


「こちらも何とか討伐完了です!」

「同じくこちらも問題ない」

「ふぅーやっと一段落ついたな」

「アスター!まだ終わってませんって!また気を抜くと酷い目にあいますよ!」

「それにしても妙ね……簡単に倒されすぎじゃない?」


 確かに妙だ。あのマルスの木にしては弱すぎる。ユラ達一行は思った。どうもおかしい。そう一行が考えているとティグリスは倒されたマルスの根っこを見てこう言い放った。


「どうやらマルスの根っこ自体はあまり強くないようだ」

「やっぱりそうだよなーそんな感じしてたんだよ」

「もうアスターったら、すぐ気を抜くんだから」

「そうだぞアスター、まだ本体はどこかに潜んでおる……油断は禁物だ」


 一行が不思議そうにそう話すとマスタング隊長が異議を唱える。確かに本体がまだ見つかっていない。妙な話だ。ユラがそう思っていると辺りは静寂へと包まれる。何故だろう。嫌な予感がする。そう思った次の瞬間、ティグリスやアスター、リクニス達がマルスによって捕らわれてしまっていた。


「ティグリスさん!!」

「ユラ!!」


 そう叫ぶと抱えられた状態から隙を見てティグリスから離れるユラ。早く捕らわれた3人を助けなければ。そう思った一行が振り向くとそこにいたのは巨大なマルスの木だった。


「くそっ!離せよこのクソ木!!」

「うっ!く、苦しい……」

「大丈夫か!すぐに幹から外してやる!」


 オレガノがそう言うと何やら剣を取り出し、大ジャンプして枝に切り込みを入れようとする彼。すると上手くいったのか木の幹がミシッと音を立てて一度は折れそうになる。しかし相手の方が上手か。すぐさま回復され、切れかけた幹が再び丈夫に戻り復活してしまう。


「くそっ、ダメみたいですマスタング隊長」

「ふむ、ならば!根元だ!根元に攻撃しろ!」

「はい!……届いて!《セリ・フォルノ》」


 マスタング隊長がそう指揮をとると残された隊員達が一斉に根元に攻撃する。何故根元なのだろう。そう思った矢先、ケストルムがマスタングに対しある質問をする。


「マスタング隊長、何故本体の胴に攻撃しないのですか?」

「それはよく見れば分かる事だが……こやつ……ティグリス達を盾にしようと動かしているようなのだ」

「ええっ!!なんですって!?」

「こやつ……植物なのに知能が備わっている……ある意味ユラと同じだな」


 そう言い終わるとこちらも攻撃するぞとばかりに猛攻撃を仕掛けるマスタング隊長達。すると先程から会話を聞いていたユラも一行と同じように魔法を唱え始めた。


「私も……役に立ってみせる!祝福ノ樹木!《アビエス・フェルマ》」


 ユラが杖を出して魔法を放つと大きく地面が揺らぎ、マルスの木の胴の一部分に穴を開けた。それを見たユラはやったと小さく歓喜する。すると皆の視点はユラへと向かい一同は驚愕する。


「やはり、すごいわね……彼女の魔法力」

「ああ、こちらも負けてはいられんな!……愛の歌!《クラシカルラブ》」


 マスタング隊長が魔法を展開すると続々と他の隊員達も攻撃を仕掛けだす。どうやら自身の魔法がきっかけでまた士気が高まったようだ。そう思いながら攻撃を繰り出すとケストルムがある事を言い出す。


「……そういえば、先程からオレガノの姿が見えないのですが……」


 確かに妙だ。ユラは思った。あれだけ大暴れしていたオレガノの姿が消えている。おかしいと思った。この中で一番猛威を奮っていた彼が消えるなんてと。


「おーい!俺はここだ!ここにいる!」


 ふと声の主を辿るとそこにはマルスの木に捕まっていたオレガノの姿が見えた。いつの間にそこで捕まっていたのか。驚いて振り向くとオレガノが大声である事を語り出す。


「先程まで攻撃を仕掛けていたというのに気づいたら捕まっていた……こいつ、思ったより狡猾だぞ、なんの気配も感じなかった……気づいたらここにいたんだ!」


 おぞましいと思った。やはり相手の方が1歩上手だと。ユラは改めて恐ろしさを知った。こんな相手にどうやって戦えばいいのか。無情にも時間だけが過ぎていく。すると大人しく捕まっていたティグリス達がこんな事を言い出す。


「そういえば先程からこちらからも攻撃を仕掛けてるんだけど徐々に腕の感覚がなくなってきてるんだよね……」

「私もそう……まるで魔力が吸い取られているみたい」

「魔力が……こりゃいかん!!」


 そんな状況にマスタング隊長が驚くと同時に影から何か妙な物が生え出す。マルスの木だ。ユラは直感的にそう感じた。そうか。マルスは私達の影から伝って相手を捕らえていたのだと。


「ぬぬっ!!こ、これは!!」

「マスタング隊長!!きゃっ!!」


 ユラがそう考えるうちに2人はどんどんマルスの木の方へと吸い寄せられていく。これはまずい。そう思ったユラは影を反射的に見つめる。どうやらまだユラは大丈夫のようだ。そう思うとユラはこの後どうするべきか考えだす。


「このままじゃ……全員やられてしまう!……そうなる前に!……祝福ノ樹木!《アビエス・フェルマ》」


 そう思った矢先ユラは次々と攻撃を仕掛けていく。するとマルスの木は先程よりも頑丈で。かすり傷さえあてる事ができない。おかしい。さっきまでは攻撃が通用していたのに。そう思った次の瞬間。ユラ自身もいつの間にかマルスの枝に包まれ、その身を捕らえられてしまう。


「う、うわあああああ!!」


 ユラの悲鳴と共にマルスによって吊り上げられると周りにいたティグリス、リクニス、アスター達の苦しむ姿がよく見えた。そうか。皆の魔力を吸い取っているからマルスが頑丈になっているのかと。ユラは独りでに思った。


「このままじゃ……本当にまずい…………………………そうだ」


 ユラは思った。マルスの木が魔力を吸い取っているなら。こちらで吸い取ってもよい魔力を用意すればいいのだと。そう考えたユラは最後の力を振り絞り魔法を仕掛ける。


「そんなにほしいならくれてやる!沼に落ちて朽ちろ!《ラリマ》」


 ユラがマルスの根っこ辺りに魔法を放つとこれまた大きな魔力の沼ができた。それは辺りの沼よりも大きく深い沼だった。それを見守るとマルスは歓喜するかのようにその沼を吸い上げる。すると何が起こったのか。マルスの木が徐々に朽ち果てていくのが分かった。そしてとうとうマルスの木が半分まで浸かると枯れ木のように変わり果て、次第に粒子となって消えていった。


「お、終わった……うわあああ!!」


 皆が戦の終わりを見届けると捕らわれた隊員達は沼へと向かい落下していく。ようやく終わった。そう思ったユラ達はびしょ濡れのまま笑顔でその場を後にした。

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